幽霊はいつも近くに
利が呼び出されている頃、残された秋津たちは先ほど話を振り返っていた。
「じゃあ、凛ちゃんは犯人がその会社の新藤って課長で告発した読川を殺害して真相を知る晴林も始末しようとしたっていう推理なんだね。」
山田は秋津の推理を簡単にまとめた。
「そうだ。」
秋津は頷くが、上条は疑問点を述べる。
「でも晴林は女にやられたと言ったんですよね?その課長は男ではなかったですか?」
「それは晴林の見間違いだろう。部屋は暗かったからな。」
「では、どうして半年たった今なんですか?」
「それは・・・・・」
秋津もそこまでは考えていなかったようで言い淀んでしまう。そんな秋津に代わって山田が考察を述べる。
「同時期に二人殺してしまうのはリスクが高いと考えていたんじゃないですか?それで少しほとぼりが冷めたころに殺してしまおうとした。」
「それなら、なおのことおかしい。殺した読川の部屋で晴林を殺したら意味ないじゃないですか?実際、こうやって掘り返してるし。」
上条の反論に山田も唸り始めたがすぐにハッとした顔をする。
「なにかわかったのか?」
山田の反応に秋津は質問をするが、山田は上条の方を向いて笑顔で問いかける。
「さっきの別れた彼女ってなに?」
「へ?」
思わず、変な声を出してしまう上条だが、山田は構わず、問い詰める。
「なんで別れたの?」
「なんでって・・・・・大学に入って彼女と遠距離になって、そこからすれ違いとか色々重なって——」
上条は話していてどんよりとした雰囲気を流し始める。それでも山田は構わず、問い詰める。
「色々って?」
「彼女の悪い癖とか指摘したりしてね。『私のことを理解してくれないの』って。そういった小さいことが積み重なった結果だね。」
「そこまでにしてやれ。」
さすがに可哀そうになってきた秋津は山田を止める。ちょうどそこに帰ってきた利は状況を見て一言言った。
「なんだこれは?」
陽が沈み始めた住宅街を歩く利と秋津は先ほどの上条たちとの会話をしていた。
「なるほどな。凛も刑事らしくなったが、まだ、詰めが甘いな。」
「私も精いっぱい頑張って考えたんだぞ。」
「だからそこは褒めているんだぞ。」
「ならもっとわかりやすく褒めろ。」
そう言われた利だが、他にどんな褒め方をすればいいのかと思った。
そうやって話しているうちに事件となったマンションに着いた。
「それで?何しに来たんだ?」
利に連れられてきた秋津だが、何も聞かされていない。利は見てもらう方が早いと考え説明を始める。
「この位置は黒木が立っていた位置だ。それで地図アプリの3Dで見える風景を確認したんだが・・・・。」
見上げるとマンションの左側面が見える。晴林の部屋がある左側壁面となる位置だが、秋津はピンときていないため利は話を続ける。
「変だとは思わないか?この位置だと左側の壁しか見えない。張り込みをするなら普通は玄関側かベランダ側だ。」
利の言う通り、ここからではなにも見ることができない。壁にはなにもないというわけではないが小窓のようなモノがあるだけでなにも分からない。
「凛、このマンションは何階建てだ?」
「晴林の部屋が三階で最上階だから、三階・・・・・」
そこで秋津も気が付いた。窓が縦に四つ付いている。各階に一つずつだとするなら一つ多い。
「でも正面から見たときどう見ても三階建てだったぞ。」
「この建物は三階建てではある。もう一度正面を見てこい。」
秋津は走ってマンションの正面を見に行きすぐに戻ってきた。
「窓が下にずれている。」
「おそらくだが、このマンションは三階半建てみたいになっているんだろ。」
どういうわけかまでは分からないが三階より上があるのはたしかである。そこで秋津も利の考えを理解した
「まさか、犯人は上にいたのか。・・・・でもどうやって上に行ったんだ?三階より上に上がる階段は室内はおろかマンション全体にもなかったはずだ。」
「いや、ひとつだけ心あたりがある。」
大家から鍵を借りて利たちは再び、晴林に部屋に入った。利は入ってすぐ左にある洗面所へと向かった。
「これだ。」
利は浴室の天井にある者を指した。それは浴室の点検口であった。利はそこを開けると浴室にあるものを足場にして上へと上がる。
「おい、こっちに来てみろ。」
利に呼ばれ、秋津も同じようにして上がる。するとそこには狭くそれでも中腰に立つことができる高さの空間があった。そして利はライトをある一点に当てていた。
「見ろ。幽霊だ。」
そこにはこっちを驚いた表情で見る女の姿があった。
発見した女を利たちは近くの警察署へと連行した。女は少し痩せこけ、暗い表情をしている。黒く長い髪は手入れされていないのかひどくボサボサである。女は取調室の中で秋津と対面している。お互いなにもしゃべらず、静寂が続いている。そこに電話を終えた利が入ってきた。
「山田たちには今日はもう帰ってもらった。・・・・それで何か訊けたか?」
秋津は首を横に振った。
「まだだ。駆琉が来るのを待っていた。」
「やけに大人しいな。お前のことだから詰問しているのかと思った。」
「私をなんだと思っている。こんな状態の彼女にそんなことをするわけないだろ。」
利は秋津に対してそういうところは分別つくのかと少し感心したあともう一つある椅子を引っ張って女の前に座る。
「私は刑事の利だ。こっちは秋津。あんた名前は?」
「・・・・・アキラ。」
「下の名前かな?上の名前は?」
アキラと名乗った女は再び黙り込んだ。仕方なく利は話を進める。
「あのマンションにはいつから居た?」
「二週間前」
「あそこにいた理由は?」
少しの間が空いた後、女は口を開く。
「友達が殺された証拠をつかむため。」
女の回答に秋津が質問を重ねる。
「その友達っていうのは前の住民である読川のことか?」
その問いに静かに女は頷く。秋津は少し前のめりになりながらさらに質問する。
「読川を殺害した証拠があの部屋にあるということか。犯人を誰か知っているのか?」
暗い表情だった女は途端に憎悪に満ちた表情に変わった。
「殺したのは晴林。あの人は晴林に殺されたのよ。」
彼女の反応に利は座り直しながら話しかける。
「詳しく聞かせてくれるか?」
「佐代里さんは、晴林に弱みを握られていました。それを知ったのは大学であいつが友人たちに自慢げに語っているところを聞いてしまったんです。直接、見てはいませんが、話しの内容から佐代里さんと裸で寝ている写真だと思います。それからでした佐代里さんの元気がなくなっていったのは。佐代里さんが自殺したと聞いたときはそれが原因だと思いました。でも自殺した日を聞かされたとき思い出したんです。その日、晴林を私、見たんです。なにかに怯えた表情で様子がおかしかったんです。」
女の話は嘘には思えない。真実だとすると読川と晴林の関係がはっきりした。ただ、利は疑問を感じた。
「どうして晴林が読川を殺したと?」
「それは分かりませんが、あいつなら佐代里さんを自殺に見せかけて殺すことができます。あいつは佐代里さんにひどいことしたときに覚せい剤を使って眠らせたと言ってました。あいつならできたんです。」
女は話しているうちに今にも泣きそうな顔をしていた。そんな彼女に利は優しく問いかける。
「じゃあ、あそこに居た理由はその証拠を見つけるためだったんだね。そして鉢合わせして晴林に傷害を負わせた。」
女はコクリと頷く。
「それで証拠は見つけたのか?」
女は首を横に振った。ただ、その顔には証拠は必ずあるという確信をもっている。




