CASE7.「古本の中のメモ②」
【10月15日 AM8:45】
【古本屋『リブロザード』】
スゥー…ガッ…スゥー…。と、引っかかりながらも扉を開けると、室内は少し薄暗くも、オレンジ色の灯りに照らされた本棚には、ビッシリと本が並んであった。
「おぉ〜すげぇな。本なんて読まねぇからあんま来たことなんかないが……なんというか…密室間あるなぁ〜。ハハッ。」
「なんですかその感想は。なんでもミステリに置き換えないといけないんです?」
「……るっせ。てか、店員はどこだ?レジが真隣にあんなに、なんでいねぇんだよ。」
「いつもレジにいるわけないじゃないですか」
「本の整頓など、他の作業もあると思いますよ?」
と、アジュのツッコミに「ベー!!」っと舌を出し、そそくさと店内を歩くコレレス。
「あ、いた!」
「おーい!そこのアンタ〜」
「は、はい!いらっしゃいませー!」
「どうされましたかー?」
「あー、先日ここで本を買ったんだけどさ、この本の前の持ち主とか知らない?」
「持ち主ですか…?」
「そうなんだよ、中に持ち主の私物のしおりがあってよ〜返したいんだよね〜」
「ああ、そういうことでしたか!」
「えー…と、どんな人だったかなぁ…。ウチは古本屋だからねぇ、売り買いするのは直接お客さんなんだけど」
「毎日違う引き取りしてたら、あんまり覚えてないんだよね〜。」
と、店員の男は答えた。
「まあ、そうだよな〜。せめてさ、男か女どっちだったとかも思い出せないか?」
「う〜ん……」
「この本を売りに来たのは……確か…」
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「エニータ〜!!ちょっと〜!新学期早々この赤点はヤバくないー?」
【10月16日 PM12:21】
【バレシロ高校1年3組】
「いやぁ〜アハハハ。どうも勉強は苦手なのよね〜…」
バレシロ高校1年[カルタ・エニータ(15)]
[性別:女]
エニータと呼ばれる少女は、小テストの成績が悪くて困っていた。
(はぁ……おばあちゃんの遺品を整理してから、あっという間なのに、いまだにバタバタしてるよ〜)
(結局、万年筆はお墓に入れれたけど、理由は分かんなかったし。)
「どうしたのエニータ?そんなに落ち込んで、大丈夫だって〜!!明日も小テストはあるんだし!ね!がんばろ?」
「う、うん!ありがとうミアちゃん!」
(テストも大変だけど、そのことじゃないんだけどなぁ〜。)
教室の左前側ではしゃぐ女子生徒2人を眺めていた僕は、後ろから脅かされた。
「ワッ!!」
「ヒィエッ!!!」
と、大きな悲鳴をあげてしまった僕は、教室のど真ん中にいたため、全方位のみんなから注目を浴びて困っていた。
「お、おい!な、何すんだよ〜!アメ〜!!」
バレシロ高校1年[トラル・エンコ(15)]
[性別:男]
「ヘヘッ!オマエの反応が面白いからな!つい!」
バレシロ高校1年[アメ・リサール(15)]
[性別:男]
「あんまり、注目されるのとか苦手なの…知ってるだろ…?やめてくれってば〜」
「まぁまぁ!あんまりにもオマエが斜め前の女子に夢中だったからついな!」
「っな!!そんなんじゃないし!!」
ガタッ!っとイスから飛び上がる僕は、またしても全員から注目を受けていた。
その中で、先ほど騒いでいた金髪の少女と僕は、目が合っていた。
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【PM12:46 喫茶店『ティロ』】
古本屋『リブロザード』に聞き込みした後は、もう一つの本の謎を解読のために、あることをしていた。
そして翌日、コレレスとアジュは、大きな菩提樹の木がそばに立つ喫茶店で、紅茶を嗜んでいた。
「店員の記憶では高校生くらいの少女って言ってたな〜」
「ええ。そうですね」
ズスゥ〜。
「はちみつの香り。おいしい。」
と、アジュが呟く中、大きな菩提樹の周りには、ミツバチが飛んでいた。
「どう思う?」
と、テーブルの上に、文字がいくつか書かれた一枚の紙が出されていた。
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し あ 一 ま る ち が あ 下
で お 月 き は 二 な ょ の
お 四 い 木 ま し の う お つ
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・・・・・・
「中身の色塗りの文字がキーになると思いますが」
「まだ分かりませんね」
「その本を売ったとされる少女が、元々持っていた本なのかも気になりますし」
「だよな〜〜」
「その少女もただ買って、その後売った可能性もあるしな」
「とりあえず、ただページ順に書き出してみたけど、さっぱりだ。」
「何かのメッセージだとは思うんだけどなぁ〜」
「んん〜……学生って言ってたからな〜、とりあえずトラルのヤツに心当たりが無いか、連絡してみるか」
そう言ってスマホを取り出したコレレスだったか、何かに気づき、スマホをポッケにしまった。
「あ、今アイツ学校か……昨日なら休みだったから聞けたんだけどなぁ〜」
「しゃーない。別のことも調べてみて、夕方また連絡するとしようか」
「その方がよろしいでしょう」
ズスゥ〜…。「フゥ〜。」
と、アジュは綺麗な青空を眺めながら、ホッと息をついていた。
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【PM16:25 私立探偵事務所『Loto』】
「そろそろか?」
「おそらく、大丈夫でしょう」
ソファに座るコレレスは、青色のスマホを取り出して電話をかけ始めた。
…プププ……プルルルルル。プルルルルル。
「はい、もしもし。」
「あーオレだ、コレレスだ」
「あ!コレレスさん!あれから何か分かりましたか?」
電話越しに聞こえる、期待されてそうな反応を感じとったコレレスは、頭を指でポリポリかきながら答えた。
「あ〜〜…真相はまだ分からんが、オマエに聞きたいことならあるな」
「聞きたいこと?…」
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【同刻 バレシロ高校 正門前通学路】
僕は帰り道を徒歩で歩きながら、かかってきた通話ボタンを押し、スマホを耳に当て話していた。
「聞きたいこと?ですか…どんなことでしょうか?」
「あの本に関しては、先日事務所でお伝えした以上のことはないんですよね…。」
「あーオマエのことじゃねぇ、あの本の前の持ち主がさ」
「古本屋の店員によると、女子高校生らしいんだよね。だからなにか心辺りとかないかなぁ〜って思ったんだよ」
「女子高生ですか…」
「ちなみに、オマエの学校な。制服がそうだったらしい」
「容姿は金髪のポニーテールだったとさ」
(金髪……いやっ、そんなまさか…ハハハ。)
「もしソイツが分かれば直接事情を聞けそうだからな。心当たりがありそうなヤツがいたら、聞いてみてくれよ」
「ええ……ぼ、僕がですか…!?」
「オレたちは高校に入れねぇだろ?それに、校門の前で待ってたら不審者じゃねぇか。」
「だから、そっちはそっちで情報を探ってくれよ」
(一応、僕が依頼したんだけどなぁ……これじゃあ、僕も探偵みたいじゃないか…。)
「オイ、聞こえてんのー?暗号の方はこっちでも解読してみるから頼んだぞ〜〜んじゃ」
「えっ、えっ?あの!!……プツ」
ツー。ツー。ツー…。
「切れちゃったよ……はぁ…女の子と話すなんて…ハードすぎるよ〜。コレレスさぁ〜ん…。」
僕は大股を広げて崩れそうな膝の上に、必死に手をついてなんとか立っていた。
そして、ため息をついた後、どうしても真相が知りたかったから、頑張るぞー!と心の中で自分を鼓舞していた。