↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/8

CASE6.「古本の中のメモ─③」



【──3日後 10月20日 7:05

 私立探偵事務所『Loto ~ロト~』】



 学校が休みである土曜日に探偵事務所へとやってきた依頼人トラル・エンコは、テーブルを挟んで座るコレレスを緊張した姿勢で見つめていた。



「ぼぇ(で)、ボイツが持ち主(ソイツが持ち主)なぼがぁ?(なのか?)」


私立探偵『Loto ~ロト~』 

  探偵[コレレス(18)]

    [性別:男]



 食べ物を口に含んだコレレスはもがもがしながら言葉を話すと、ワインを口にして飲み込んでいた。


「…ふぃー」



「えっ?

 ああ、はい。」


バレシロ高校1年[トラル・エンコ(15)]

        [性別:男]


 コレレスの見つめる先には、エンコの隣に座るカルタ・エニータの姿があった。



「カルタ・エニータです。

 よ、よろしくお願いします。」


バレシロ高校1年[カルタ・エニータ(15)]

        [性別:女]



 頬に汗をかきながら「本当に大丈夫なの?」と言わんばかりの顔でエンコの方を横目で見るエニータ。



「コレレスだ。あっちは助手のアジュ

 よろしくな」


 キッチンにて洗い物をするアジュは軽く会釈していた。



「……。」


私立探偵『Loto ~ロト~』

  助手[アジュ・フロルダンテ(28)]

    [性別:女]



 その様子を見て会釈を返す2人に、コレレスは再び確認していた。

 


「それで、そのメホールさんが

 彼女の祖母と同級生だったと」



「ええ。

 アミガーさんから当時の話を聞いたんです。」


「そしたら──」



➖───────────────────────



「それで!

 おばあちゃ……祖母と!

 レガロさんはどうなったんですか?」



「約束の日。

 レシビルはその場所に来ていたわ。」


学校司書[メホール・アミガー(92)]

    [性別:女]



「ただ──

 その場にレガロは来なかった。」



「いえ……来れなかった。

 ……が正しいわね。」



─────────────────────────



【75年前──

 メホール・アミガー 17歳】



 その日は晴れ晴れとした天気だった。

 今頃レシビルとレガロは……


「はぁ……デートかぁ〜

 良いなぁ〜〜」


 古本屋で本を買って公園に来ていた私は空を見上げていた。

 本当にいい天気だった。

 でも、私にとっては憂鬱で今にも雨が降りそうな天気に見えた。



 お昼前──

 突然天気が一変すると、激しい雷雲と共に雨が降り始めていた。

 私は近くのお店で傘を買って、ふと思ったんだ。



(あの二人。大丈夫かな……)



 ほんの好奇心程度だった。

 2人のデートがどうなったのかが気になったから。



(ここからそんなに遠くない。よしっ!)



 あのカフェはテラス席があって、雨が降ったら、せっかく菩提樹の花に集まるミツバチ達が見れないことを私は知っていたから。

 傘を持って行ってあげようと思っただけ。

 そう。ほんの余計なお世話をするついでに、私もその空間に少しでも良いから居たかったんだ。



 履いてきた靴に冷たい感触が溶け込む。

 不快感と苛立ちが募る中、私はお店の前に辿り着いた。



「……え…」



「……なんで…」


 私が見たのは──



 雨の中に佇むレシビルの姿だった。



「……!

 ………アミガーちゃん。」


 私に気づいたレシビルは、少しだけ振り返るとすぐに地面を見つめ直していた。


 一瞬だけ。本当に一瞬だけしか見れなかったレシビルの顔には──

 滴り落ちる雨だと思ったけど、私にはハッキリと涙に見えた。


 生気の見えない真っ黒に堕ちた瞳は、私を見ているようで見ていなかった。



「……どうして、一人……なの?」


「今日は!

 レガロとの……!」


「死んだって。」



「え?」


 

 頭の整理が追いつかなかった。

 

 死んだ? 死んだって、え?

 誰が?

 え?どういう……レシビルはそこにいるじゃん。

 なら、誰が……



「な、何言ってるの…?」

「レガロは今日あなたと……」



「さっき……連絡があって…ぐすっ。

 ……車に轢かれたって。」



「…ふぐっ……道路に飛び出そうとした…」


「子供を助けるために……。

 ぅうぅ……飛び出して行った姿を見たって警察から…」



 なに?誰のことを言ってるの?

 レシビル……あなた何を言ってるの?



「なにそれ」



「……私だって分かんないよっ!!」



 ああ、レシビル

 叫ばないでよ

 あなたのそんな姿、初めて見たよ

 

 座り込んだら泥水で汚れるじゃない


 それに、全身濡れて

 あれ……



「だって!レガロが!

 うぅぅ……レガロがぁ〜……」



 冷たい。


 あ、傘が……私、なんで落としちゃったんだろ。

 え、いまレガロって……


 レガロが……死んだ…?



「……うそ…でしょ…?

 …ハァ……ハァ…。」



 あれ、胸が苦しい……音も聞こえない…


 なんで


 おかしいな…。前が見えない……

 ぼやけて、ねぇ、レシビルぅ…


 なんでそこには、あなたしか居ないの…ぉ…?



「…ぁあ……うぁあぁ……」



 私の大切な人。

 私の親友の大切な人。


 その日、私達は──



「……ぁぁあぁぁああ〜〜〜!!!」



 生きる希望《いみ》を失った。



────────────────────────➖



「………。」


 エニータから話を聞いたコレレスは、少しだけ無言で深く息をついていた。



「だから、おばあちゃ、祖母は……

 いえ、祖母も──」


「あの日。

 レガロさんには会えなかったんです。」



「なるほどねぇ〜。

 このメモのことは聞かなかったのか?」


 コレレスはテーブルの上にエンコから預かっていた『TE(テ) ENVIO(エンビオ)』と書かれた本と一枚のメモを前に差し出す。



[レシビルへ 俺たちからの挑戦状だ]



 2人はそのメモを見ながら答える。



「えっと、それが〜……

 下校時間が迫ってて…あはは。」


「レガロさんとアミガーさんがしたことについては

 詳しく聞けなかったんです。」

「なので、トラルくんと話して

 今日ここに」



「なるほどね」

「分かった。そもそも依頼の答えはまだだったしな」


「暗号と関係してるし

 知ったからって、もう特に意味はないかもな」



「それって……どういう?」



「お前らはもう──」


「暗号の答えも

 万年筆の謎の答えを知ってるからだよ」



「「え?」」



「いいか、まずは暗号からだ」



───────────────────────

|                       |

|  し あ 一 ま る ち が あ 下    |

|                       |

|  で お 月 き は 二 な ょ の    |

|                       |

|  お 四 い 木 ま し の う お つ  |

|                       |

───────────────────────



「これは、本の頭文字が

 鉛筆で塗られていた順で書き出したものだ」



「その前に聞いておきたいんだが……」


 コレレスはエニータの顔を見つめると問いかけた。



「アンタの祖母の生年月日は分かるか?」



「え?生年月日…ですか?

 えっーと、確か」

「1993年2月14です。」



「よし。これで繋がるな。」


 コレレスは新しい紙を用意すると、文字を並べ替えながら記入し始める。



──キュッ、キュッ。


───────────────────────

|                       |

|  二 月 一 四 日            |

|                       |

|  は ち が あ つ ま る        |

|                       |

|  お お き な 木 の 下 で      |

|                       |

|  お あ い し ま し ょ う      |

|                       |

───────────────────────



──キュッ、ググ。



「暗号はこうだ」


 コレレスがペンの蓋を閉めると、書き上げた用紙の文字を覗くエンコとエニータ。



「二月いち……ん?十四かしら?」


「ハチが集まる大きな木の下で

 お会いしましょう。」



「まあ、話を聞くに……

 そのレガロってやつは賢くないらしいからな。」


「その『一』って鉛筆で塗りつぶされていた隣に

 万年筆で『十』って訂正されていたよ。」



「この暗号が示す場所は──

 喫茶店『ティロ』だ。」



「あ!そういえば

 喫茶店ってアミガーさん言ってた気がする!」



「ちなみにこの場所は今でもあるぞ〜

 この前たまたま寄ってな」

「大きな菩提樹《ぼだいじゅ》が目印になってる喫茶店だったよ」



「え、そんなに前からあるんですか!?」


「らしいな。

 名物は蜂蜜入りの紅茶らしい」



「それが、レガロさんとアミガーさんが隠した…

 おばあちゃんへの挑戦状だったんだ。」



 エニータがメモを見つめる中、コレレスが告げる。



「……もう分かってると思うけど。

 キミの祖母が持っていた万年筆は

 レガロからの贈り物だ。」


 その言葉に、エニータとエンコは静かにコレレスの顔を見つめる。

 そして、アジュも横目で様子を伺っていた。



「そして、事故があったその日。

 彼女は、いや……

 彼女達は、これからの人生について

 話し合ったんだろう。」


「その上で、別々の道を歩むことに決めた。」



「でも、メホールさんも

 キミの祖母も……彼のことを──」



「決して忘れることが出来なかったんじゃないか?」



「……!」


 コレレスの言葉に目を見開くエニータ。



(そうだ……!だからあの時……)



➖───────────────────────



「これはね、万年筆って言うペンだよ。」


「なんで、二つあるのー?」



「昔、折れちゃってねぇ。

 ……半分になっちゃったの。」



「でも、とても大切なモノだから。

 ずっと、捨てられないの。」



────────────────────────➖



(おばあちゃんは

 大切なモノだって言ったんだね……。)



「多分……そうだと思います。」



「半分に折れていたのは

 事故の時に折れたんだろう」


「それでも、後生忘れずに保管していた。」


「彼女にとって……

 結婚する相手が他に出来たとしても」



「それだけは、捨てきれなかったんだと思う。」



「そうだったんだ……」


 話を聞いたエニータは、少しだけ寂しそうな顔をしていた。



「ここからは、ウチの助手の想像になるんだが……」



 コレレスの言葉に2人は視線をテーブルからコレレスへと移す。

 コレレスはエニータの顔を見つめると、静かに告げる。



「……これは、キミだから万年筆を預けたんだと思う」



「え?」



「キミの家族じゃダメだったんだ。

 このことは、キミにしか頼めなかったハズだ」


 話を聞いていたエンコが質問する。



「どうしてですか?」



「彼女の祖母は──

 あの高校に、メホールさんが居ることを

 知っていたんだと思う」



「「──!!」」


「そして、家族には無関係の

 過去に違う男からもらったプレゼントの理由

 なんて話せなかったハズだ。」



「……それは…」

(そう。おじいちゃんの名前は

 レガロさんとは違っていた。)


(だから、お母さんもそのことは

 何にも知らなかったんだ…)



「確かに、僕も同じ立場だったら。

 そんなこと頼めないかも……」



「だろ?」


「だから、わずかな可能性をかけて

 彼女のおばあさんは、キミにお願いをしたんだ。」


「もちろん。

 お願いを聞いたキミは、ただ入れるだけなら

 万年筆を棺の中に入れたハズだ」


「でも、彼女の意図は他にもあった。」



「…おばあちゃん意図……?」



「そうだ」


 コレレスは本のページを捲《めく》ると、『一』の文字が鉛筆で塗られてあるページを開いていた。



「この修正されて隣に書かれた『十』の文字。

 これは、万年筆で書かれたものだ」



「あれ?

 塗りつぶされていたのは……」


「そう──」


「鉛筆だ」



「これは、後から何者かによって追加された文字だ。」


 『十』と書かれた文字を見つめるエニータは、何かに気が付いていた。



「これって……

 おばあちゃんの字だ…!」



「やっぱりな。

 これを書いたのはキミの祖母だ」


「それもここ最近書かれたんだろう

 紙の汚れ具合と文字の色が違うからな。」



「これは、キミがこの本を……

 メホールさんに見せるために

 キミの祖母が残したんだ」



「……アミガーさんに?

 でも、どうして」



「キミの祖母の親友である

 メホールさんに対しての贖罪だったんじゃないか。」


「真相はもう、墓の中だが……」



「同じ人物に恋をして……

 幼馴染だった親友の男と恋をしていたんだ。」


「その心中は平然とまではいかないだろ。

 どこか罪悪感を抱いていたハズだ。

 だから、彼女は……」


 コレレスは、真っ直ぐにエニータの瞳を見つめて話を続けた。



「最愛な人を失った後も

 私は今でも……彼のことを愛しているよ。って

 伝えたかったんじゃないか?」


「それが、親友に対する──

 彼女なりの覚悟だった。」



「………。」


 コレレスの話を聞いたエニータは、両手を膝の上に握りしめ下を向いていた。


「…そっか。」



「そうだったんだね……おばあちゃん。」


 コレレスとエンコが見つめる中、エニータの両手に涙がこぼれ落ちていた。



「……おばあちゃん。

 だから、おばあちゃんは…

 私に、あの万年筆を頼んだんだね。」



 涙を流すエニータの声は、しばらくの間──

 事務所の中で響き渡っていた。



─────────────────────────



【8:03──私立探偵事務所『Loto ~ロト~』】



「良かったんですか?」



「何が?」


 静かになった事務所内のテーブルに座るアジュは、窓の外を見つめるコレレスに話しかけていた。



「報酬頂いてませんでしたよね。」



「ガキから金なんか取れるかよ。」

(雨か……)


 雨が降り頻る道路を眺めるコレレスに、アジュは少しだけ口角を上げると微笑んでいた。

 


「……ふふ。

 でも、コレレス様とそう変わりませんけどね。」



「なんだと…!?」



「………ハァ、まぁいい」



「………。」

(あの日も雨だったな……)


 振り返ってアジュを睨むコレレスは、再び雨が降る空を眺めていた。



「今日の昼は、蜂蜜入りのホットティーで頼む」



 その様子を見つめるアジュは、そっと目を閉じたまま優しく答えていた。



「はい、かしこまりました。」



─────────────────────────



【11:34──喫茶店『ティロ』】



 コレレスさんの事務所を出た僕とエニータさんは、あの後にアミガーさんの自宅へと向かったんだ。


 そして、エニータさんは彼女に本を手渡した。



➖───────────────────────



「これは……?」


カルタ・レシビルの親友[メホール・アミガー(82)]

           [性別:女]



「……その。おばあちゃんが持っていた本です。

 アミガーさんに、どうしても渡したくて。」


 まだ目元が少しだけ赤く染まっていたエニータさんの顔を見て、アミガーさんは本を受け取っていた。



「ページの頭文字の……!」


 エニータさんが告げる前に、彼女は言い返した。



「知ってるわよぉ……

 私とレガロで作ったんだから。ふふふ。」



「そう、確かレガロったら……」



 ページを捲っていたアミガーさんは、あるページで手を止めていた。

 そう、それは──



「あら……これは…」



 その様子を僕とエニータさんは何も言えずにただ黙って見ていることしかできなかった。

 だって、その瞬間。


 ほんの少しだけど……

 僕にもハッキリ見えたんだ──



「そう……うふふ。」


「やっぱり。

 レシビルは私の親友ね。」



 アミガーさんの隣で微笑む

 女性の影を。



「ありがとう。」

「これが分かっただけでも嬉しいわぁ。

 この本……私がもらっても?」



「あ、はい!

 どうぞ……!」


 エニータさんは、古本の中にメモを挟んで彼女に渡した。



────────────────────────➖



……コト。──コト。



「お待たせいたしました──

 蜂蜜入りのハーブティーになります。」


「ご注文は以上でよろしかったですか?」



「あっ、はい

 ありがとうございます」



「いやぁ〜、それにしても

 まさか、僕が買った本が……」


「エニータさんのおばあさんのものだったなんて

 驚きでしたよ〜。ははは…。」



 本当に驚いた。

 コレレスさんの事務所に依頼をしに行った時は

 こんな事になるなんて思いもしなかったもんなぁ〜…



「そうね〜!」

「今になっては

 売っちゃったことを後悔したこともあったけど。」


「結果的に、売って良かったもんね。ふふ。」


 反対の席に座るエニータさんはさっきとは違って

 嘘みたいに笑顔で笑っていた。



「ですね」


 雨だからテラス席に座れなかったのは残念だけど。

 いつかまた、彼女と一緒に……



「そういえば、最初に出会った頃に比べて

 なんか喋り方変わってない?」



「えっ?そうかな?」


「うんっ!心なしか明るくなってる…?」



「何ですか心なしかってー!」


「あはははっー!」

「はぁ〜〜おもしろぉ〜……

 でも、ほんとにありがと!」



「え?」


「キミがあの本を買ってくれなかったら。

 今頃私は……

 まだモヤモヤしてたかもしれなかったから!」


「感謝してるのよ!」



「いえ。僕はただ……

 あのメモが届くハズだった人の元へ──」


「届いたらいいなぁ。って思っただけだったから。」



 思わず笑みが溢れちゃってたかもしれないけど

 そんな僕を見つめるエニータさんは、少し黙った後に大きな声を出して僕に声をかけていた。



「………そうだ!今度買い物に付き合ってよ!」



「ええっ!?

 買い物ですか…?」


「でも、どこに?」



「ふふっ。本屋に決まってんじゃん!!」



 いつかまた、彼女と一緒に──


 菩提樹に集まるミツバチを見ながら

 紅茶を飲みたいな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。