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CASE6.「古本の中のメモ①」

1コルナ=日本円換算で約7円


【8月5日 AM11:42】


【カルタ・エニータの自宅 祖母の部屋】


 おばあちゃんは、先日92歳で亡くなった。

 高校の夏休みに入った直後だった。

 元々、寿命が近くて、体が弱くなっていくのが、日に日に分かっていたけれど……あの元気なおばあちゃんが亡くなったなんて、信じたくなかったんだ。


 いつも笑顔で、私のことを見てくれたおばあちゃん。大好きなおばあちゃん。


➖ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【10年前 カルタ・エニータ5歳】



「ねぇねぇ、おばあちゃん。これなーにー?」


カルタ・レシビルの孫娘[カルタ・エニータ(5)]

           [性別:女]



「これはね、万年筆(まんねんひつ)って言うペンだよ。」


カルタ・エニータの祖母[カルタ・レシビル(82)]



「なんで、二つあるのー?」


「昔、折れちゃってね。半分になったの。」

「でも、とても大切なモノだから……捨てられないの。」


「ふ〜〜ん、そうなんだ〜!」


「エニータ」


「ん?なーに?おばあちゃん」


「いつか、私が死んでしまった時は、この万年筆を……私のお墓に一緒に入れて欲しいの。お願いできるかしら?」


「え〜〜!!やだやだ!おばあちゃんは死なないもん〜!!」


「……そうね!……いつか、貴方に分かってもらえる時が来るのを願っているわ。うふふ。」


 と、満面の笑みで私を見ていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー➖


「懐かしいなぁ〜。」

「あの頃は、おばあちゃんと話すのがただ嬉しくて、万年筆のこととかはどうでも良かったもんなぁ〜…あはは。」


 私は、亡くなったおばあちゃんの遺品を整理している。

 あの万年筆は、おばあちゃんのお墓の中に入れようと思うけど、お母さんに話しても「さぁ?なんなんでしょうねぇ?」と返事が返ってきて、結局お墓に入れたい理由は分からなかった。


「おばあちゃん、どんな理由があったの?」


 と、モヤモヤしながらも、エニータは遺品の整理を手伝っていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【10月14日 AM10:21】


【古本屋『リブロザード』】



 1人の男子高校生が、古本を眺めていた。その本には『TE ENVIO』と書かれていた。


「て、えんびぃお?なんて意味だろう?」

「店員さんに聞いてみようかな。」


 と、辺りをキョロキョロ見渡していた、髪の毛がボサボサの少年は、怪しい雰囲気を(かも)し出していた。


「す、すみませ〜ん…。」


 シーン…。と、静まり返った古本屋の中で、小さな声で呟く。しかし店員には聞こえていなかった。

 そして、本を再び見るも、その本はカバーは付いておらず、剥き出しのままの本はボロボロになっていた。


(だめだ…聞こえてなさそう〜…)


 彼は、何故かその本に惹かれたのだ。

 表面にはタイトルのみ、裏面を見ても何も書いておらず、殺風景な小さい本だったが。

 分厚さはそこそこあった。


「すみません…。コレ…ください。」



「はいよ〜121コルナね〜」


 チャリン。とお金を払った高校生はその場を後にした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【10月15日 AM6:40】


【私立探偵事務所『Loto ~ロト~』】


 いつも通り、アジュは朝食の準備をしていた。


「アジュ〜今日の朝メシはなんだ〜?」


「メインはパンケーキです」

「副菜はベーコンのソテーとエビとアボカドのサラダ」

「カボチャのポタージュになります」


「コーヒーとワインはどちらにされますか?」



「ん〜〜コーヒーだな。」


「かしこまりました」


 と、スープを弱火で煮詰めている間に、コーヒー豆を擦る。


 ガリゴリッ…ゴリゴリ……。


 コーヒー豆を擦り終わると、特殊なビーカーの中に粉を入れ、フラスコの中に水を入れた。

 そして、2つの容器を重ね、下側にあるフラスコに火をかけた。


 ゆっくりと水の中から気泡が上がっていく。

 100℃になった水は沸騰し、水蒸気が特殊なビーカーの上へと上がっていく。


 ゴポ…ゴポポッ…。ブクブク…。


 そうして、フラスコの中のお湯は、すべてビーカーの中へと移り、コーヒーの粉と混ざり合っていった。


 その間にも、アジュは料理を作り続けていた。



「コレレス様、申し訳ありませんが…手を離せないので扉の札を回していただけませんか?」


「んぁ?ああ、いいぞ〜」


 と、コレレスは事務所の扉まで歩き、ぶら下がっている横長の[CLOSE]の札を[OPEN]に変えた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【AM7:00 探偵事務所 営業中】



 …コト…コトッ。


「お待たせしました。パンケーキ ~ラズベリーソースがけ~、メイプルシロップは小瓶に入れておりますので、お好みでどうぞ」


「ああ、ありがとう」


 と、サラダやスープもテーブルに置き、コーヒーカップにコーヒーを入れ、コレレスの前に置いた。



「いや〜久しぶりにパンケーキ食ったけど、モチモチしてて美味いな〜!」

「アジュ!これからも定期的に頼む!」


「かしこまりました」


 と、2人はカチャカチャとフォークとナイフで、パンケーキを切り分けて食べていた。



【AM7:22】


 ガランッガラン〜。


 と、事務所の扉が開いた。

 2人がそこを見ると、1人の若い少年がオドオドしながらコチラを見ていた。


「あの〜〜……ココって、探偵事務所で合ってますか…?」


「あぁ、そうだけど?何?依頼か?」



「え、ええ。依頼と言えば…まぁ。」



「アジュ、頼んだ」


「はい」


 と、アジュは口元を拭き、立ち上がった後に少年の元へと歩いていく。


(わぁ〜…この人、背〜高いなぁ…。それに美人だ。)


「コチラへどうぞ。」


「え…あっ、はいッ!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「それで〜?どんな依頼なんだー?」


「え、えっと…その…」


(え?なんでこの人たち、ご飯食べてるの!?意味わかんない…え?今って営業時間じゃなかった?)


(でも、オープンって看板にあったし……)



「なんだよ?オマエも食べたいの?」


「えっ?」


「パンケーキだよ、パンケーキ。美味いぞ!」


 「ヘヘッ」と笑いながら、パンケーキを食べるか?って誘ってきた少年に僕は驚いた。


「あっ…いえ!パンケーキは、いらないです。」

「依頼って言うか、その、こんな依頼でも受けてもらえるのか分かんなくて……」



「どんな内容でも、困ってんなら話聞いてから考えてやるからさ」

「とりあえず教えろよ」


「ウチ、あと30分くらいしか営業しないからさ。早めに言ってくれねぇと、また明日来てもらうことになるけど」



「えっ!?閉めるって…?え?」


(え?あと30分て、8時で閉めるの!?)


「ああ、あの、実は…この本の中に、メモが挟まれていたんです!!」



「メモ?」



「あ、すみません。僕はトラル・エンコって言います。よろしくお願いします。」


依頼人バレシロ高校1年[トラル・エンコ(15)]

           [性別:男]



「あ、ああ、オレはコレレス。あっちは助手のアジュだ。よろしくな。」

「で?そのメモとやらはなんなんだ?」



「あ、はい。実は……先日古本屋に行った時に買った、一冊の本のページの間に、一枚のメモが挟まっていたんです。」

「それが…コレです。」



【これでまたお話しできますね。カルタさん。】



「これでまたお話しできますね。カルタさん。か…この名前の人物へ宛てたメモっぼいな。」


「そうなんです。本当はこんなの捨ててしまったら済む話なんですけど……なんか気になるっていうか…捨てられなくて。」

「このメモが何故この本に挟まっていたのか、誰がこのメモを、カルタさんという人物に渡そうとしていたのかが知りたいんです!!」



「それを知ってどうするんだ?」



「出来れば、手紙の宛て先の方に渡せればなって……。」

「ダメですかね…?アハハ…。」



「いいぞ〜」



「えっ?」


「いくら出せんの?」


「え、あ、その…僕は学生なので、そこまで持っていなくて…714コルナしかなくて…。」


「なら、それでいいぞ」


「え?本当ですか?」


「ああ、依頼が済んだら支払ってくれたらいい。」


「あ、ありがとうございます!」



「それから、その本とメモ、預かってもいいか?」


「あ、はい!どうぞ!」


 と、僕は本とメモを、コレレスさんに手渡した。



「何か連絡が取れるもんはあるか?」


「はい、スマホがあります。」


「なら、連絡先を教えといてくれ、何か進展があれば伝えるよ」


 僕は連絡先と高校の名前を書いたメモを、コレレスさんに渡した。


「あ、あと…!!その本なんですけど…もう一つおかしなところがあって……ーーー」



 チラッ…。


 そう言えば、コレレスさん…やけに時計の針を気にしてたなぁ。

 ちょうど僕が帰った時間が営業時間の終わりらへんだったからかな?



「じゃ、じゃあ、よろしくお願いします。」


「おう〜それじゃあな」


 と、僕は事務所を後にした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


【AM8:04 探偵事務所 営業終了】


「良かったのですか?ご依頼を受けて」



「ああ?別に。困ってんなら依頼金が安くても関係ねぇよ。」

「依頼されたら引き受ける。それが……」



「あの事件に繋がるかもしれねぇだろ。」



「……ええ。そうですね」



「さて、本のタイトル『TE ENVIO』……テ・エンビオ。直訳すると『あなたに送る』…か。」


「にしても、ボロボロだな〜この本。年季が入ってんねぇ〜。」



 テーブルに本を置いたコレレスは、ソファから立ち上がると、アジュに声をかけた。


「……」

「アジュ、出かけるぞ。」


「どちらへ?」



「まずは、この古本屋が売られていた場所に行くぞ」



「かしこまりました。」


 と、コレレスは茶色のケープを身につけ、アジュは赤い小さなバックと、ポーラーハットを被った。



 ガランッガラン。



 事務所の窓には、[CLOSE]の文字が書かれた看板がゆらゆらと揺れていた。


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