CASE1.「消えた梟の銅像─①」
新作始まりました!
ラノベ風ミステリーの作品です!
※1コルナ=日本円換算で7円(四捨五入あり)
※ウィービング
髪の束の一部にカラーを入れること
※パフスリーブ
肩や袖口を膨らませた服のこと
※キュロットパンツ
スカートのように裾が広がったシルエットのパンツのこと
※パラパラブリーチ
表面の髪のみをブリーチして明るくし、内側を暗く染めるカラーのこと
【10月7日 PM8:46】
「こ……これさえあれば…!!」
「ああ! オレたちは大金を稼げるぞ…ヘヘヘッ!!」
……ブロロロロロ〜〜。
暗闇の中、車に乗った2人組の男達は、勢いよくアクセルを踏み込みそのまま走らせていった。
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【10月7日 AM10:00】
【銅像の持ち主 カンタロの屋敷】
真っ赤な屋根に白い壁の、大きな二階建ての建物は、横に広く片側だけでも、4部屋はある屋敷だった。
そして、その玄関前にはオレンジ色の1台の車が止まっていた。
梱包された銅像を2人の従業員が荷台に積み込む。
「では! 責任もって、コチラの銅像を運ばせて頂きます!!」
運送会社『トランスポルテ』の従業員が答えた。
「ウム。 絶対に!! 割ったりはしないように、くれぐれも慎重に運んでくれたまえ!」
銅像の持ち主[カンタロ(57)]
[性別:男]
ぽっちゃりとした体型に、パツパツの灰色のスーツを着ている、白髪混じりの男性が答える。
その隣には彼の執事がそばに立っており、2人でオレンジ色の車を見送った。
「それでは、この後のお昼の準備でも致しましょうか。」
「ああ、頼んだぞ。 ヨルドモ。」
「かしこまりました。 ご主人様。」
ヨルドモと呼ばれた執事とカンタロは、屋敷の中へと入っていった。
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【10月7日 AM10:36】
【美術館 館内】
「おお〜コレが!!」
「カンタロさんからの銅像か〜〜!!」
美術館 館長[ミージオ(78)]
[性別:男]
そこには、高さ1mほどの銅色でザラザラとした質感の梟の銅像が、台座の上に飾られてあった。
「『枝木に止まる梟の銅像』」
「コレが……美しい!! 細部まできめ細やかな羽の造形……爪やクチバシの光沢感も素晴らしい!!!」
「まるで本物のフクロウのようだな!」
「明日のお披露目が楽しみで仕方ないぞ!!」
銅像を眺めるミージオは、ご機嫌そうに口角を上げていた。
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【10月8日 AM6:43】
【大都市『ヨージャ』 街中にある街路】
赤い屋根に、白い壁をした家が建ち並ぶ街路の一角に、二階建ての事務所がある。
その白い建物の一階は事務所スペースで、二階が生活スペースとなっていた。
静かな事務所内に、テレビからニュースキャスターの声が響く。
『──上院議員のポペ・ヒリング氏が、裏金問題の告発を受けて、辞任されたとのことです。』
『それに伴い、農業施設への被害はかなりなものと思われるでしょう。 この件については──』
『──続いてのニュースです。 10月4日───組織『ガサナ』の組員が、───で目撃されたと情報が入りました。 また、リーダーの名前が判明。』
『──リーダーの名前は『サシオン』と名乗っていると思われます───』
『コポコポコポ…。』と、ティーカップに紅茶をそそぐ髪の短い女性は、髪色が黒色をベースに、後ろ髪の下側にピンクのインナーカラーが入っており、一部だけ白色のウィービングが入れられてあった。※
「いい香りだな」
「ルイボスティーか?」
室内にある黒い大きなソファに座る青年が尋ねる。
少し沈黙したのち、身長180cmはありそうな女性が、2人分の紅茶を入れ終えると答えた。
「……。」
「はい、ザダルバーグ産の茶葉を使ってます」
※
目元が隠れている髪の毛は、黒と白のパラパラブリーチ模様になっており、左目には青が強い紺色の眼帯をした青年が呟いた。
「どうりで」
「あそこの茶葉はいいからな。」
白色の長袖シャツを着て、その上に黒い袖なしジャケット、黒の短パンと黒茶のロングブーツを履いている少年は続けて呟く。
「今日は平和だといいな〜」
※
緑色のパフスリーブに、茶色のベスト。
内側には白いブラウスを着用し、膝丈までの灰色のキュロットパンツを履いて、先の尖った黒色の揚げ編みブーツを履いている女性が答えた。
「……。」
「そんなこと言って、どうせ昼寝でもするんでしょう?」
「フンッ。最近立て続けに仕事して疲れてるだけだ」
「たまの休憩くらいいいだろ〜」
「なぁ〜ミーチェ〜」
「よしよ〜し」
『ミャア〜ォ』
ソファに座りながら、青年は灰色の長い毛並みに、黄色い目をした足の短い猫を撫でていた。
「ミーチェは相変わらず、キレイな瞳をしてるな〜!」
「コレレス様も同じ黄色の瞳ではありませんか」
黒い瞳で青年と黒猫を、一階のキッチンスペースに立ちながら見つめる女性。
『カンッ……カチッ』と、コンロに火をつけ女性はフライパンの表面を温める。
「オレはもっと特別なんだよ」
「知ってんだろ? アジュ」
私立探偵『Loto ~ロト~』
探偵[コレレス(18)]
[性別:男][血液型:B型]
「………。 ええ」
「ボクを救って下さったのは、アナタですから。」
私立探偵『Loto ~ロト~』
助手[アジュ・フロルダンテ(28)]
[性別:女][血液型:O型]
『ジュウゥゥ〜…。』と、事務所内に響き渡る音は、青年の食欲を掻き立てた。
「んん〜〜いい匂いだなぁ〜!」
「"ヴァイスブルスト"のソーセージか?」
「よく分かりましたね?」
「いつもは、"プルゼニ"や"チョリソー"だからな。」
「スパイシーな香りじゃなくて、香草の香りがつぇんだよ」
・・・・・・・
「なるほど……。いつもそのくらい推理が出来ると、手間がかからなくてよろしいんですけどね」
ソファの背もたれに肘をつけながら、後ろを『ジ──ッ』と眺め反論する。
「おい、オレがまるで役に立ってねぇみたいな言い方やめろ」
「これでも、一端の探偵だっつーの」
香ばしく音を立てるソーセージを、フォークで皿によそおいながらアジュは答えた。
「まあ、あの力はアナタにしかありませんからね」
「ボクは推理しかできません」
「分かってるならいちいち言うな」
「せっかくの朝食も味が落ちちまうだろ?」
(作ってるのはボクだし。 味自体は落ちませんけどね。)
『……コトッ。』と、ゆっくりとソファの前にあるガラスのテーブルの上に、皿を並べるアジュ。
そして、グラスをキッチンのテーブルに置き、『マルティン・ヴァイチュネル』の『セディー・ピノ』のワインを注ぎ込んだ。
「……どうぞ」
「……『セディー・ピノ』か。 悪く無いな。」
「オレンジの爽やかな味わいとワインの辛さ。 やっぱり、ソーセージにはワインがピッタリだな!」
「ボクはビール派です」
『プツッ…』っとソーセージにコレレスの持つフォークが刺さると、中から『ジュワァッ』と脂が滲み出ていた。
「まぁ、ビールも悪くはねぇけどな〜〜ぁあんむっ。」
そのまま口に手を運び、表面がカリカリになっているソーセージに噛みついた。
『…パリッ!!』と弾ける音と共に、『ジュワッ…ァァ〜〜…』と熱々の肉汁が口内に広がっていく。
「……!」
「あちち! 肉汁が凄いな!」
「…ポクッ。 ………美味しい。」
アジュも座って食べ始めたその時、事務所の扉が開いた。
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【AM7:09〜 探偵事務所 営業中】
「ココがウワサの……?」
低い声が聞こえた方向を、ソーセージを頬張りながら振り向くコレレス。
「……ボェ(ゲェ)。 ギャク(客)かよ〜」
「…ゴクンッ。 今日くらいは休ましてくれよな……ハァ。」
すると、アジュがゆっくりと立ち上がり、扉の近くまで歩き始めた。
「………。」
「そう言わないで下さい。 こんな贅沢できるのも、滅多にウチに来ないお客様が、連日して来られてるからですよ?」
「これは"奇跡"です」
「いいからおとなしく諦めて下さい」
コレレスに諭すように言うと、コレレスはテーブルの上にあるワインとソーセージを見つめた後、観念したように呟いた。
「……ハァ……分かったよ。」
「依頼なら、コチラへどうぞ。」
すかさずアジュが、ご老人を反対のソファまで案内した。
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【AM7:42】
「んで、よーは……」
「盗まれた銅像を、探し出して欲しいってことだろ?」
依頼人の話を聞きながらも、コレレスとアジュはのんびりと朝食をとっていた。
(このガキンチョ……朝っぱらからワイン飲んで…。 営業中じゃないのか?)
(それに、ワシの話もなんだか適当に聞いとる感じもするしのぉ……)
「あ……ああ。 そうじゃ。」
依頼人 銅像の持ち主[カンタロ(57)]
[性別:男]
「美術館に納品予定じゃった、ワシの銅像。 『枝木に止まる梟の銅像』が、納品後の昨晩の内に何者かに盗まれてしまったんじゃ。」
「昨日の夜に警察から連絡がきてのぉ。」
「昨晩は、警察に事情聴取を受けて来たとこじゃわい。」
「まあ、ワシは銅像の持ち主じゃし。 その夜は自宅におったから、その日の事を話してすぐに帰れたけどのぅ。」
「それで、少し前にこの辺りを通った時に、あるウワサを聞いての。」
「ここら辺に探偵事務所があると聞いて、探しておったんのじゃ。」
「ふ──ん。そうなんだ。」
「で、いくら出せんの?」
と、手のひらを差し出すコレレス。
アジュは隣でワインを嗜んでいる。
コレレスは手首を"クイックイ"。と、さらに動かした。
(こんな奴が探偵とは、本当に大丈夫なんかのぉ……。)
※
「……前金は7,143コルナだ。」
「報酬金は、28,571コルナだ。」
「……気前がいいな。いいぜ。乗った!」
「なら、依頼内容をもう一度確認するぞ?」
「昨晩、アンタが納品依頼を受けた『枝木に止まる梟の銅像』。 コイツァ、本物なら142,857コルナは余裕で超える代物だろう。」
「でだ、納品予定の時間は10月7日の10時から11時の間。 アンタの家から車で運搬されたのが10時だったな?」
「ああ」
「アンタの家から美術館までの距離は?」
「だいたい、混み合い無しで考えると……車で30分くらいじゃな」
「信号は多いか?」
「まぁ、そこそこあるほうじゃろう」
「んで、納品が10時30分頃か。 ……まあ、普通だな。 信号とかに引っかかったり、同じ速度で走るわけじゃねぇからな。」
「で、その晩……何者かによって美術館に侵入され、銅像が奪われた。と」
「そうじゃ。」
「……」
指を口元に当てて、何かを考えるコレレス。
「今もまだ警察が調べているが、まだ犯人の足取りを掴めておらんのじゃ。」
『……ジ──。』と、コレレスは依頼人カンタロの胸元を見つめると、影のようなモヤを見つめていた。
「……。」
「美術館の場所は『オミュジオ』か?」
「ああ、そうじゃよ。」
「警察は運送会社も調べてるんだよな?」
「ああ。」
『……チラッ』と、横目で壁にかかっている時計を見るコレレス。
時計の長針は真上を指していた。
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【AM8:00〜 探偵事務所 営業終了】
「アジュ」
コレレスは時計の針を見た後に、助手のアジュに声をかけた。
「………。」
「お客様。 本日はもう営業終了となります。」
「後はコチラでやっておきますので、お帰り下さい。」
と、アジュは淡々と依頼人であるカンタロに伝えていた。
「な!? なんじゃと…? まだ話をしただけじゃぞ!!」
「……ジィさん。 後は任せろって言ったんだよ。」
「ウチは一時間しか事務所は開けてねぇ。」
「追加で話したいことがあるなら、また明日来い。」
「……なっ!?」
「依頼はきちんとこなしてやるから、おとなしく家で待ってろ」
「アジュ」
「はい」
「コチラへどうぞ。」
と、アジュはカンタロを出口に案内した。
「……失敗した時は、分かってるんだろうな…?」
「……。」
コレレスは後ろを振り返らずに、"シッシ"と手を上下に振り座っていた。
そして、『ガチャン。』と激しく音が鳴り、依頼人はその場を後にしたのだった。




