安らぐ(はずだった)場所
「クオンくん。チェルシーちゃんへの扱い酷いですよ?」
「・・・・・」
「クオンくん?」
「あ、ああ、そうだね。善処するよ」
「改善してください。じゃないとチェルシーちゃん逃げちゃいますよ?」
「・・・・・」
「どうしたんですか?」
「チェルシーさ、なんで逃げないんだろう?妖精って義理堅い生き物?」
「・・・自由きままな生き物だとは伝え聞いてますが」
「僕は・・・、別にチェルシーを拘束したりしてないよ」
玄関の隅で拗ねているチェルシーを二人で見つめる。
それに気付いたのかチェルシーが近寄ってきた。
「何さ何さ?私に謝る気になったの?」
「いや別に?これからも頑張ってもらおうかなって思ってた」
「ひゃあぁ、鬼畜だよー。泣いちゃうぞぉー」
「妖精なんだし、次元移動の負荷も軽いでしょ、大丈夫だよ」
「先が思いやられるよぉー、しくしく」
「・・・先、ね」
アリサの家は家具や床に埃を被ってはいたものの特に変化は無いようだ。
遠出するつもりで食料も全て片づけていたし、変な虫等も湧いてはいない。
「とりあえず荒らされたりはしていないみたいで安心しました。たくさんの・・・思い出が詰まった家ですから・・・、・・・ぅ、ぅぁぁぁぁぁ、ああああ・・・」
アリサはその場に泣き崩れてしまった、今まで張りつめていたものが緩んだのだろう。
唯一の肉親を失い、山賊に辱められ、そして故郷は変わり果てていた。
変わらない自分の家を見て急に全てを実感したのだろう。
僕は、アリサをそっと抱きしめた。
僕は、アリサにそうされて嬉しかったから。
アリサは落ち着くまで僕の腕の中で泣いていた。
「クオンくん、私ベッド用意してくるので先にシャワー使ってくださ・・・はっ!変な意味じゃないですよ!?」
もう外は暗くなっていた、お互い疲れたしもう寝ようという話になったのだ。
「うん、シャワーこっち?」
「淡泊ですね・・・、私って魅力ないのかな」
「襲ってほしいの?」
「ふえぇ!?い、いえいえ!」
淡泊・・・か。確かにアリサに対して欲情する事は今まで無かったように思う。
何故だろうか、僕は女の子に興味が無い?いや、そんな事は無いはずだ。
僕は、クロの事は女の子として可愛いと感じていたのだから・・・。
クロを・・・、最も美しいと感じた時はいつだっただろうか。
・・・気付いてはいけない気がした。
僕は考えるのをやめてシャワーを浴びた。
ベッドで横になる、ちゃんとした寝床だ。それだけで少し笑みがこぼれる。
僕はアリサの父親の部屋に居る。アリサは久しぶりの自分の部屋だ。きっとアリサも嬉しいはずだ、山賊に捕まっていた時はずっと紐で縛られて固い床で眠っていたのだから。
「クオンくん・・・、まだ起きてますか?」
ドアの向こうからアリサの声が聞こえる。少し元気が無いように感じた。
「どうしたの?起きてるよ、入ってきていいよ」
ドアが開き、部屋に入ってきたアリサは僕のベッドに腰かけた。
「一緒に、寝て良いですか。不安で、不安で不安で・・・」
「うん、良いよ。分かってる、大丈夫。僕はここに居るし、アリサもここに居る。安心して」
アリサをベッドに入れて抱きしめる。
「・・・惚れちゃいますよ?」
「それに対して返事はできないよ。だって僕は・・・」
「化け物なんかじゃないって、私言ったじゃないですか」
「僕の本体を見て無いから言えるんだよ」
「・・・どんな姿なんですか?」
「言いたくない、見せたくない、見たらきっと・・・取り返しの付かない事になる」
「・・・」
「・・・」
「クオンくん、起きて、起きてください」
いつの間にか眠っていた僕の体をアリサが揺する、外はまだ暗い。
「ふあああ・・・、うーん、どうしたのこんな夜中に?」
「物音がするんです。何かが落ちるような音で目が覚めて、その後耳を澄ませていたら、その・・・、聞き覚えのある足音が・・・」
僕は耳を澄ませる。
・・・ひた、・・・ひた。
少し水気を帯びたような足音が、徐々に、徐々に近づいてきていた。
聞き覚えがある。船の上で聞いた足音だ。
音は一人分では無い、複数居る様に感じる。
一部屋、一部屋、慎重に調べ回っているような、そんな音だった。
クオン「具体的に言うと1D100だよ」
アリサ「なんの話ですか?」




