龍馬
黒河を叩いた右腕がまだ痛い、、、。
はっきり言って、黒河は私より私のことを知っている。
あのカフェが私に残してくれていたものだとしても、誰になんと言い出したらいいのか分からない。
宛がなかった。
それから、波留はあのカフェに通いつめた。
なにか、なにかあるはず、、、。
いつもと同じようにカフェに行くと、
珍しく、行列が出来ていた。
帰ってもとくにする事がある訳でもなく、
波留は名前を書いてまった。
1時間ほど待つと、名前が呼ばれた。
でも、、、フルネームで呼ばれた。
ハッと我に帰り、カフェの入り口に目をやる。
そこには、長身の弱っちそうな男の人が立っていた。
「波留ちゃん、、、。ずっと探してたんだよ。毎日、ココに来てるのは、なにか知りたいんだよね?」
波留は黙って頷いた。
長身の男は、「ついてきて」と言うと、エプロンを脱ぎ、歩き出した。
波留も黙ってついて行った。
そこは、材料のストックがある地下室だった。
そこの奥にある、引き出しからある本を取り出して、波留に渡す。
「僕は龍馬。波留ちゃん、覚えてないかな?小さい頃、よく遊んだんだよ。」
波留は首を横に振った。
「そっか、、、。小さかったからね。とにかく、その本を読んで、明日、またおいで。」
波留は家に着くと、すぐさま本を開いた。
そこには、色々と書かれたレシピが載っていた。
「なにこれ。私にどうしろっていうの?」
訳も分からず、ペラペラとページをめくっていくと、ある一つのレシピに手が止まった。
【五種類のチーズを使った和風タルト】
の後に
☆波留の大好物☆
と、書いてあった。
「和風タルト…?知らない…こんなの…食べた覚えない…。」
その後も
波留が嫌そうな顔をした
とか
波留がおかわりした
とか
私を中心に書かれたレシピ本だった。
波留は本を最後まで見ずに、近くのスーパーに走った。
レシピに書いてある材料をありったけ、買いあさった。
急いで戻り、レシピに目を移す。
でも、改めて読み直すと、このレシピはおかしな所ばかりだった。
「なにこの、分量。これじゃタルトにならない、、、。」
明らかに水分の量が多かったり、加熱時間が長すぎたりした。
「、、、バッカみたい。」
波留は投げ出し、ベッドにうつ伏せになった。
お母さんはなにを言いたいんだろう。
なにを教えたいんだろう。
考えている間に寝てしまい、朝を迎えていた。
適当にガウンを羽織り、カフェに向かった。
でも、そこには【closed】の文字。
「アイツ、、、」
波留は、怒りもソコソコに抑え、帰ろうとした。
「あ!波留ちゃん、こっちこっち!」
聞き覚えのある声に振り返ると、龍馬がいた。
ムスッとした顔で近づくと、龍馬はニカッと笑って問いかけた。
「どうだった?レシピ本」
「どうもこうも、おかしな点だらけで、、、。」
「ふふっ。だろうね。あの、レシピ本は料理が苦手な優子さんが目分量で作ろうとした制作日記だから。」
「確かに、成功してそうなレシピもあったけど、、、。なんで、そんなもの。」
「んー、波留ちゃん、まだ分かんないかな?自分で分かるまで、第三者がどれだけ言っても胸には響かない。自力で答えを見つけることだね。その手助けはするつもりだから。」
波留はめんどくさくてたまらなかった。
私には、どうだっていいことだ。
別に今更、お母さんのことを知ろうなんて思わない。
ただ、黒河が挟んできたから、、、。
波留は複雑な気持ちのまま、家に帰った。




