ランチタイム作戦会議
「分身には、鏡が一番だろう」
稀子はそう言って、紅茶を啜った。
その一言で、金本さんと櫻井さん、美玖さんが「なるほど」という顔をする。
「どういうこと?」
分かっていないのは、僕ひとりみたいだ。
案の定、稀子が目を見開く。
「・・・・・・七海、君の頭の回転速度はベビーカーより遅いんじゃないだろうか」
余計なお世話だよ! 第一、ベビーカーって自力で動けないじゃないか!
「合わせ鏡だよ」
そこまで言われて、やっと納得した。
合わせ鏡を利用して、本当は少ししかない花々を無限に広がっているように見せるんだ。
カラフルな花畑は作れない。鏡に映る花は同じものだから、どうしても並び方が規則的になってしまうのだ。幸い、姫はピンクをご所望だ。
「やっと分かったかい」
稀子の呆れ顔。
「七海は鏡と花を用意して欲しい。金本さんは、病院側に雑誌の企画だとでも言って許可を得る。櫻井さんと美玖さんは、明日の準備を手伝ってください」
「ありがと、稀子」
僕が普通にお礼を言うと、稀子の陶器みたいに白くなめらかな頬が、みるみる薄紅色に染まりだした。
「どうしたの? ほっぺ、赤いよ?」
「どうもしない」
ひんやりした表情を裏切って、頬のみならず耳までもが赤くなる。
「もしかして・・・・・・」
「な、ななななんだ!」
薄紅がくっきりとした赤に変わる。背中まである黒い髪が、心なしか逆立ったように感じた。
ああ、やっぱり。
「稀子、怒ってる?」
「え」
わ、稀子のこんな顔、初めて見た。
「・・・・・・怒ってなどいないっ」
ぷいっと顔を背けてしまう。ちいさな耳はまだ赤いままだ。
やっぱり怒っているじゃないか。
ところで、どうして皆は笑っているんだろう?
「とにかく、各自役割を果たすこと!」
叫ぶような稀子の一言で、『魔法』の作戦会議は終わった。