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魔法の花畑
「ふう」
終わった。さすがに圧巻だ。
鏡、鏡、鏡。小さな病室の壁が、一面鏡で埋め尽くされているのだ。
僕がいっぱいいる。ように見える。
『個室で助かった』
マリンブルーのワンピースを着た稀子が、額に滲んだ汗を拭った。外は雨が降っているが、梅雨のせいもあり、べたべたとしてとても暑い。
廊下から、足音が聞こえてきた。
「姫の登場だな」
金本さんが呟く。僕はピンクの薔薇の鉢をそっと床に置いた。
病室の中心に置かれたたった五株のピンクの薔薇は、たちまち一面の花畑へと変わる。
『薔薇か。小さな姫に相応しい、かわいい花だな』
稀子が大きく息を吸う。
僕の選んだ薔薇は、小ぶりだけれどいい香りがした。姫は喜んでくれるだろうか?
そして、ドアが開く。
『ようこそ、魔法の花畑へ――』
「わあ・・・・・・」
夏菜が目をまんまるく開き、佐々木さんが口元に手をてる。
それ以上、言葉は出なかった。
魔法使いも、姫も、妃も、何も言わない。
そこは一面の花畑だった。
涙ぐむ佐々木さんが、夏菜をぎゅうっと抱きしめる。その耳元で何か囁いた。
夏菜の瞳にも、大粒の涙が浮かぶ。
窓から入ってきた風に、幾千もの小さな薔薇が一様に揺れた。




