21
紅潮した実咲人の顔が間近に迫る。
「せ、責任って」
哲平の声は上擦った。
「責任は責任だよ。コドモじゃないんだからそのくらい分るでしょ」
「そ……」
それは言葉の意味するところは分る。どういうシチュエーションで使われたりするのかも。
たとえば好きな相手がいたとして。
想いがこうじてコトに及んだとして。
結果としてそうなったのなら。
哲平は逃げも隠れもしない。むしろ望んで引き受けるだろう。
故あって色恋からは当分距離を置く決意をしているものの、それはそれだ。
見目麗しいならその方がいい。けれど顔形みたいな表面だけの美しさにはとらわれない。内なる心の輝きが自然と外に顕れているような、花の如き笑顔の持ち主がいい。
そして真っ直ぐな人。自分の気持ちを偽らず、前向きで、正しいと信じることのためには時には無茶もする。それでいて生真面目だったり頑なだったりするのではなく、むしろ愛敬があって。
もちろん全部ただの理想だ。実際そんな何もかも自分の思う通りの相手なんて――。
目の前にいた。
「セキニン……取ってくれるよね?」
見上げた瞳が潤んだような光を宿す。まるで蠱にかけられたみたいに哲平の口は動いた。
「そ……」
「そ?」
「そんなことが、できるかっ!!」
当り前だ。
女らしくない、というのならいいとしても。女でないというのは論外だ。
実咲人がそっち系の性向なのは別に実咲人の勝手だが、哲平がそれにつき合わなければならない理由はない。
なのに実咲人は。
「どうして?」
ひどく哀しそうな顔をした。