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 哲平の心臓は止まった。ざっと三秒間ぐらい。

「せっ!」

「ぐおっ……がふごほげへっ」

 裂帛の気合とともに手刀が胸の中央に叩き込まれ、その衝撃のおかげでどうやら鼓動が再開する。

「た、助かったぜ直巳……」

 哲平はこめかみを伝う冷や汗を拭った。

 さすがは白瀬直巳である。武芸の真髄は活殺自在にあり。傷つけるばかりが能ではない。

「気にしないで。それより哲、あなたに一つ問いたいのだけれど」

 今度は脳波が停止しかけた。

 いつからだ。いつから直巳は見ていた?

「あなたがミサトのいる個室に取り付いて上から覗き込んでいた理由は」

「そこからかよっ!!」

 思わず全力で突っ込んだ。

 即座に白刃のような視線が返る。

「……すいませんなんでもないです」

 入日哲平、男子校の男子トイレにて痴漢狼藉の廉にて討ち取らる。享年十五歳。

「そこの柾が、不届きな行為に及ぶのを止めようとした結果の過失、ということでいいのかしら」

 なんだって?

 哲平は顔を上げた。

「状況から推測しただけだから。もし間違っていたら訂正して」

「いやいやいやどっこも間違ってないぞ、まさにその通り、俺は無実、悪いのはこいつ!」

 大男に指を突き付ける。直巳のほとんど非人間的なまでの洞察力をこれほど有難いと思ったことはない。

 それはそうと、柾ってのかこいつ。どうやら直巳の知っている相手であるらしい。

「柾の処分については後で検討するとして、とりあえず哲、あなたの目を抉りましょう」

「え……?」

 哲平は首を傾げた。いまいち意味が頭に入ってこない。

 ア・ナ・タ・ノ・メ・ヲ・エ・グ・リ・マ・ショ・ウ?

「本来なら脳を抉って視覚記憶を取り出すべきなのだけど。でもそれは今すぐというわけにはいかないから。ごめんなさい、至らなくて」

 直巳は折り目正しく頭を下げた。哲平は途方に暮れそうになる。

「いやだってあれはフカコーリョクで」

「ええ、見てしまったのよね、あなたのこの目で。ミサトのあられもない姿を」

 直巳の白く美しい指が哲平の目の周囲を這い回る。失禁しそうな恐怖が哲平を襲った。トイレにいるのに失禁とか。全然笑えない。

 助けを求めて泳いだ視線の先に柾がいた。巨大な体躯が見かけ倒しでないことは身を以て知っている。そもそもこの苦境をもたらした張本人でもある。柾もそのことは十分に承知のはずだ。

 哲平と目が合う。俺は知らん、と手振りで否定。

 こいつ絶対後で殺す。

 後があればの話だが。

「待って、直巳!」

 声は個室から聞こえた。

 水が流され、鍵が外れて扉が開く。現れた顔は赤い。

 実咲人は、直巳を抑えるように二人の間に割って入ると、哲平に言った。

「テッペイ、オトコらしく責任取って」

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