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第138話 三千金貨を削れ

第138話 三千金貨を削れ

 三千金貨。

 見積書を。

 机に広げた。

「木材」

 ミリアが読む。

「鉄」

「帆」

「縄」

「船大工の工賃」

「材料の運搬」

「造船場……」

「ああ」

「全部で」

「三千です」

 合計は。

 変わらない。

 だが。

 合計だけを。

 見ても。

 何も分からない。

「一番高いのは?」

「木材です」

 その下。

 材料の。

 運搬費。

 二つを。

 足す。

 見積もりの。

 半分以上。

「これだな」

「木ですか?」

「ああ」

◇◇◇

 船大工を。

 バルドへ。

 連れてきた。

 森へ。

 入る。

「木なら」

「いくらでもあります」

 ミリアが。

 得意そうに言う。

 船大工が。

 一本を見る。

 叩く。

 次を見る。

「これで」

「船を造れる?」

「待て」

 さらに。

 奥へ。

 進む。

 太い木。

 真っすぐな木。

 曲がった木。

 半刻ほど。

 歩いた。

「使える」

「本当ですか?」

「ああ」

「全部?」

「それは無理だ」

 船大工が。

 首を振る。

「場所によって」

「欲しい木が違う」

「強さも」

「曲がりも」

「乾き方もな」

 俺には。

 分からない。

 だから。

 聞く。

「どれくらい」

「ここで揃う?」

 男が。

 森を見る。

「かなりだ」

◇◇◇

「ただし」

 船大工が言う。

「木は」

「そこに立ってるだけじゃ」

「使えん」

「切る」

「運ぶ」

「粗く挽く」

「それも」

「金はかかる」

「いくらだ」

 ダレンを呼んだ。

 木こりの賃金。

 荷車。

 馬。

 製材の手間。

 一つずつ。

 並べる。

 ミリアが。

 足していく。

「二百金貨ほどです」

「買った場合は?」

 船大工が。

 見積書を指した。

「木材だけで」

「五百二十」

「運搬を入れると」

「八百を超える」

 ミリアの手が。

 止まった。

「差が」

「六百です」

「ああ」

 前の世界でも。

 似たことがあった。

 外へ。

 頼んでいた仕事を。

 見直した。

 材料は。

 自分たちにある。

 人も。

 空いている。

 それなのに。

 加工して。

 運んでもらった物を。

 高い金で。

 買い戻していた。

 全部ではない。

 自分たちで。

 できるところだけ。

 中へ戻した。

 内製化。

 それだけで。

 原価は。

 大きく下がった。

 今回も。

 同じだった。

 安いのは。

 木が。

 ただだからではない。

 買わずに済む分と。

 遠くから運ばずに済む分。

 その差だった。

◇◇◇

「もう一つ」

 ダレンが言った。

「森は」

「領地のものです」

「ああ」

「使えば」

「減ります」

「分かっている」

 俺は。

 森を見た。

 今回。

 切る量。

 毎年。

 育つ量。

 どちらも。

 聞いた。

「切った分は」

「植えろ」

「切る場所も」

「まとめるな」

「散らせ」

 一度に。

 同じ場所を。

 裸にすれば。

 土が流れる。

 次の木が。

 育たない。

「船一隻のために」

「森を失えば」

「二隻目は」

「造れない」

 ダレンが。

 書き留めた。

◇◇◇

「それに」

 ミリアが。

 数字を見ている。

「この二百金貨」

「どこへ行くんです?」

「木こりだ」

「バルドの?」

「ああ」

 冬の間。

 水車の部材を。

 削っていた者たち。

 春になれば。

 その仕事は。

 終わる。

「外から木を買えば」

「金は」

「外へ出ていきます」

「ああ」

「でも」

「切るなら」

「バルドの中に」

「残りますね」

「そうだな」

 同じ二百金貨でも。

 出ていく金と。

 町の中を回る金は。

 違う。

◇◇◇

 見積書を。

 作り直した。

 買う木材。

 減る。

 運んでくる木材。

 減る。

 代わりに。

 伐採。

 運搬。

 粗挽き。

 二百金貨。

 それでも。

「かなり」

「下がります」

 ミリアが言う。

「ああ」

 さらに。

 船大工が。

 紙を見る。

「木を」

「ここから運ぶなら」

「船を造る場所も」

「考えた方がいい」

「どういうことだ」

「木を」

「造船場まで運ぶより」

「俺たちが」

「こっちへ来た方が」

「安い」

 ミリアが。

 顔を上げた。

◇◇◇

 海岸へ。

 移動した。

 ダンの息子も。

 呼んだ。

 船大工が。

 場所を見る。

「ここなら」

「できる」

「造船場が」

「なくても?」

「何もない所じゃ」

「無理だ」

「でも」

「これだけあれば」

「作れる」

 必要な。

 道具。

 職人。

 特殊な木材。

 鉄。

 帆。

 縄。

 それは。

 外から持ってくる。

 だが。

 大きな木材を。

 遠くから。

 買って。

 運ぶ必要は。

 なくなる。

「バルドの人間も」

「使えるか」

「木を運ぶ」

「削る」

「場所を作る」

「そういう仕事ならな」

 専門の仕事は。

 船大工。

 その仲間。

 それ以外は。

 バルド。

 役割を。

 分ける。

◇◇◇

 消えたのは。

 木材代だけでは。

 なかった。

 造船場の使用料。

 大きな木材を。

 遠くまで運ぶ金。

 現地で人を雇う工賃。

 どれも。

 バルドで造るなら。

 いらない。

 あるいは。

 大きく減る。

 残るのは。

 鉄。

 帆。

 縄。

 船大工と。

 その仲間の工賃。

 どうしても。

 外から買う物。

 どうしても。

 専門の人間に。

 頼む仕事。

 そこだけになった。

◇◇◇

 三日後。

 新しい。

 見積もり。

 ミリアが。

 数字を見る。

「……半分以下?」

「現金で必要なのは」

「千百金貨くらいだ」

 船大工が言う。

 三千。

 それが。

 千百。

 船が。

 小さくなったわけではない。

 必要な性能も。

 変えていない。

 ただ。

 買わなくていい物を。

 買わない。

 運ばなくていい物を。

 運ばない。

 高い場所で。

 やらなくていい仕事を。

 バルドでやる。

 それだけだった。

◇◇◇

「それでも」

「千百金貨ですよ」

 ミリアが言う。

「ああ」

 毎年の。

 返済五百。

 今の航路が。

 この水準で続けば。

 それは。

 もう。

 見えている。

 しかも。

 五百を返して。

 終わりではない。

 残る金が。

 出始めている。

「支払いは?」

 船大工に聞く。

「全部」

「最初じゃない」

 木を。

 揃える。

 船底を。

 作る。

 船体を。

 組む。

 帆を。

 張る。

 半年以上。

 仕事は続く。

「最初」

「途中」

「引き渡し」

「分けてもいい」

 それなら。

 その間も。

 商売は続く。

 黒火石。

 塩。

 三つの港の荷。

 そして。

 秋には。

 鮭が来る。

 今年の鮭には。

 新しい船は。

 間に合わない。

 だが。

 その売上まで。

 建造中には。

 入ってくる。

 三千金貨を。

 一度に。

 用意する話では。

 なくなった。

◇◇◇

 その夜。

 ダンが。

 見積書を。

 眺めていた。

「安くしたな」

「ああ」

「船大工も」

「造れると言ってる」

「そうか」

 紙を。

 置く。

「なら」

「一つ」

「聞くぞ」

「何だ?」

「船が」

「二隻になったら」

「誰が」

「もう一隻に乗る?」

「……」

 ダンの息子は。

 今の船に。

 乗る。

 新しい船が。

 できれば。

 もう一人。

 必要になる。

 ノースと。

 第一港の。

 あの海を。

 任せられる。

 船長が。

「船は」

 ダンが言った。

「木があれば」

「造れる」

「だが」

「船乗りは」

「木じゃ」

「造れんぞ」

 俺は。

 何も。

 答えられなかった。

(第139話 船長がいない)


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