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【桃姫と戦神】ペットの龍が戦神様そっくりになってしまって……どうしたらいいんだろう  作者: 竹輪㋠


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桃源郷の桃姫

書き始めた時は一万字くらいでおわる短編だと思っていましたが、書き出したら終わりませんでした。

いつものように軽い感じでお楽しみください。

「さてと」

 仙桃庫で丹精込めた仙桃を一つずつ丁寧に梱包していく。

 桃源郷は今日も穏やかで、淡い桃色の花びらが風に乗ってひらひらと舞っていた。

 澄んだ空気には甘い香りが満ち、遠くで小川がさらさらと音を立てている。


 ここ仙界において「仙桃」は百薬の長。

 病を癒し、寿を延ばし、霊力を整える──。

 数えきれない効能を持つ、特別な果実だ。


 そんな仙桃を育て、神々に納めるのが私の仕事。

 私は“神”の端くれではあるけれど、実質は仙桃を育てるしか能のない最下位の神である。


「仙桃」に価値はあっても、育てる私は仙桃の精に毛が生えたようなもの。

 一部では「農夫」だと笑う者がいるのも知っている。

 虐められることはないが、仲良くしてくれる神もいない。

 桃源郷の美しさとは裏腹に、私の暮らしはいつも静かで、少しだけ寂しい。


 一族は千年前の戦争で壊滅……残ったのは私と負傷して眠りについた伯父様だけである。

 そんな私の側にいてくれるのは、小さな龍のエン。

 今も木箱の前で作業する私の隣で、丸くなって眠っている。


 仙界で龍を飼うのは珍しくないそうだ。

 エンは、私が必死に貯めた神貨で譲ってもらった大切なパートナー。

 一般的な龍よりずっと小さいけれど、賢くて優しい性格をしている。

 ふわふわの黒い毛をもつ体、瞳は光を受けると炎のように揺らめいて見えて、その寝息は私の心を穏やかに保ってくれていた。


「天帝様に献上する仙桃は、傷一つあってはならないからね」

 母の口癖を口にしながら仙桃を箱に詰める。

 天宮に届ける箱は一際立派な箱で、いつも決まった侍従が取りに来る。

 しばらくすると、リンリンと鈴の音がして、出荷口に空の民が引く荷車と共に侍従たちが現れた。


「タオヤオ(桃瑶)さん、こんにちは。まあ、今日も素晴らしい出来栄えだわ。天帝様もお喜びになるでしょう。ささ、こちらが代金ですよ」

 受け渡しをする筆頭侍女は私と会話をしてくれる数少ない人だ。切れ長の凛とした美しい人。

「あの……」

「ああ、そうだわ! はい、これも」

 前回、彼女が代金と別に珍しい衣をくれる約束をしてくれていたので、今日は心待ちにしていたのだ。

 渡された薄絹は手に取ると向こう側が透けていて、とても美しい。

 受け取って肌触りにうっとりとしていると、それを見て彼女は笑った。


「やっぱりタオヤオさんの美しい金の髪には桃色が似合うかと思ったの。その色にして正解だったわ」

 似合う色……。

 私に心砕いてくれたのかと思うとくすぐったい気持ちだ。彼女はいつも私を見ると懐かしむように目を細める。

「ありがとうございます」

「いえいえ……あら。あなたの龍……黒くてとってもかわいいわね」

 エンを褒めてもらえて、さらに嬉しい。優しい彼女が大好きだ。

 気持が緩むと人付き合いの下手な私も、自然と言葉が口から出た。

「と、とっても優しい性格で賢いんです」

 私が話し終えるのをちゃんと待ってくれた彼女はエンを見て頷く。

「まあ。じゃあ、人型にしたらさぞかし楽しいでしょうね」

 そうしてこんな話をした。


「人型?」

「ええ、龍を幻術薬で一時だけ人型にするのが流行っているの」

「それって、会話とか……できるのですか?」

「もちろん。神貨を払えば市場の中にあるフワロウ(幻羽楼)という店でそれ用の術薬がもらえるわ。行くなら一緒に行きましょうか?」

 提案されて侍女の顔を見る。

 彼女が一緒に言ってくれたらどんなに嬉しいだろう!

 そう思ったのに、桃の精たちが私の袖を引っ張った。

 途端に気まずい雰囲気になった。


「……ひとりで大丈夫です。用事を済ませたらすぐ帰りますし……」

 誤魔化すように手髪を撫でながら言うと、その様子を見て彼女もなにか察したようだった。

「……気が変わったらいつでも言ってね。地図を書くわ」

「ありがとうございます!」

 彼女の話はいつもワクワクすることが多いけれど、今日の話は特別に胸が高鳴る。


 しかし……なぜか彼女は桃の精霊に嫌われているようで、いつも長くおしゃべりしようとすると精霊たちが邪魔をしてくる。

 親切で優しい女神なのに。

 両親に「桃の精霊に嫌われている神とは関わってはいけない」と言われて育っているので、彼女には名前すら聞けていない。精霊に嫌われている……とは違うと思うのだけれど、関わるなって言われている気がして……。


「では、天都に行くなら気を付けて行ってきてくださいね」

「はい」

 心配そうな彼女に手を振って後姿を見守った。


 天都に行っても、寄り道などしないから危ないことはない。

 それに、近づいてはいけない家門も頭に入っているので、屋敷のある地域には絶対に行かないことにしている。

 すぐに出発しようかしら。

 エンが話せるようになれば、どんなに楽しいだろうと想像した。

 私はさっそく教えてもらったフワロウへ行くために、久しぶりに仙桃源郷を出ることにした。


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