マスターK
キャラクリが終わり、身体へと適用されるとすぐに有杜は鏡の前へと移動した。
この部屋の中には白い箱の他に全身が映る縦3m、横5m程の大きな鏡と、動きの確認のためか白いサンドバッグが天井から吊るされている。
自動生成は一度適応したためか、反応しなくなっている。
念の為、動きに違和感がないかを入念に見ていると、視界の上部が赤く発光していることに気付き、反射的に入力を実行した。
街頭アンケートの記入時に要項で言及されていたが、このゲーム内では、脳波検知入力という特殊な操作があるらしく、現実で周りの呼びかけに反応するような自然動作で入力出来るシステムという。半信半疑の内容であったが、実際に目の当たりにすると、「こういうものか…」というような反応になる。
実行されたのはビデオ通話らしく、目の前に32インチ程の窓が現れ、中心にスーツに身を包んだライオン顔が立っている映像が映し出された。
「あー、もしもし聞こえてます?」
ライオンの口から妙にはっきりとした男性の声が聞こえてくるから違和感しかないが、このタイミングでの通話だから、業務連絡か何かなのだろうと落ち着いた態度で聞くことにした。
「はい、大丈夫そうですね。ひとまず無言で聞いていてください。この通話は今アルファテストを受けている皆様と同時に繋がっており、脳波入力で聞こえているかも判断できております。
申し遅れましたが、私はこのプロジェクトの発起人であり、開発に出資している者でございます。この姿の私はさしずめゲームマスター、呼び方としましてはマスターKとでも呼んでいただけるとよろしいかと」。
なるほど、出資者が直々に説明をしに来たというのは、確かに理に適っている。
「このプロジェクトの説明をする前に、まずテスト概要から。現在、アルファテストに参加しているのは一般から3名、開発から2名、その他に2名の特殊な参加者が同時接続しています。選定基準は秘密ではありますが、あえて言うのであれば、選ばれし勇者とでも言っておきましょうか。
テスト期間は3ヶ月、ログイン時間に指定はありません。これについては実際に一般向けとなった場合を想定しているためです。3ヶ月に一度のアップデートで機能追加を考えているので、一つのバージョンをやっていただく想定というわけです。」
勇者と言われれば聞こえは良いが、実験に使われている人柱なんだろうな、と独り言ち、続く言葉を待つ。
「既に世界を探索している方もいると思いますが、このゲームは少々特殊でして、先ずキャラクター作成が終わった後、部屋の出口から世界に降りたちますが、ユーザーそれぞれの世界が自動生成で割り当てられます。ユーザー毎に違う世界観であるため、私も把握してません。というのも、ユーザーの脳を読み取って、趣味嗜好に合わせた世界となるからです。」
は?
「驚いた方もいらっしゃるようですね。このゲームのタイトルはまだ決まってないのですが、『あなたのための叙事詩』とか、『人生リスタート』とか、開発側でも色々な意見が出ているんです。まあ、既定はNGGではあるんですが、開発スタッフ達が納得しなくてですね。
あっ、テスト参加者皆様、テスト内容は全て社外秘ですので、言いふらしたら規約違反ですからね!」
かなり、大事な気がするが茶化されたせいで、疑問や驚愕といった感情は霧散し、自分の世界はどんなものになるのかと心を躍らせる。
「話を戻しますが、自動生成された世界でユーザーは王として行動します。何を成すかは自由です。強さを追い求めても良いですし、NPCを助けたり、逆に独裁者として民衆を震え上がらせたって良いのです。ただ、このオフラインの世界での活躍は全てサーバーに送信され、数値によってランキングされます。各種ランキングは抽選によって内容が決まり、ユーザーには伝えられません。
ランキング報酬は1週間に一度配られますが、限定品ではありますが、より世界を楽しむためのアイテムですから、無くても問題なく楽しめると思います。コレクターの方々は抽選によって決まるランキングを予想して動くという事もあるでしょうね。
さて、ここまで話してお分かりだと思いますが、これでは家庭用ゲーム機と変わらないのではと思われがちですが、10日毎に世界大戦を起こします。城を中心にした半径50キロメートルがオンラインとなり、他の世界と隣接します。占領された場合はその世界に取り込まれてしまいます。
まあ、恒常イベントですね。話が逸れて戻ってこれなくなるので、この内容については、側仕えさん達に後から聞いてください。」
ポカーンである。どこまで要素を詰め込むのだろうか、なんだコレ。
「疑問は多いと思います。アルファテストだから言える事ですが、私は政界の人間です。このゲームの目的もそちら向けという認識をしていただければと思います。ただ、政治家というのは皆一様に国のため、国民の豊かな生活のために動いています。まあ、汚職に手を染めてる者もいますが、ぶっちゃけ一部で、その一部が報道され続けるために前に進めないのが国の現状でもあります。
より良い未来のため、皆様がこのゲームの使用感であったり、誤作動の指摘だったりをしていただいて、人気のゲームを目指せればと思います。
まあ、情報蓄積は勝手にこちらでやってますので、普通にプレイしていただければ良いわけですが」。
政治家の本音がチラ見えした気もするが、内容が内容だけに本心で話しているのだろう。
「では、引き続き参加者の皆様、ご協力をお願いします。異世界の生活をどうぞお楽しみください」。
通話が切れ、殺風景な部屋に意識が戻ってきた。
心を整理したい気分であるのだが、自分の世界への好奇心もまた膨れ上がっていた。
有社は部屋の出口、世界の扉へ駆け寄ると、開け放ち、一歩踏み出すのだった。




