第九話 目覚め
…目が醒める。
暗い部屋の中、喉の渇きを覚えてベットから立ち上がった。
「ん?」
違和感を感じて腕を見る。そこには点滴が刺さっていた。邪魔に感じた僕は点滴を抜くと廊下に出た。
廊下に出ると、そこには深夜の病院が広がっていた。
人は見えず、今は出た扉とLEDのライトが等間隔に並んでいる。
喉が渇いた僕は水を求めて廊下を歩くと、夜勤中だった看護師と出会った。
看護師は夜勤でやる事が無く、のんびりと本を読んでいた。看護師は僕の素足の足音が聞こえると廊下を覗き込み僕を見つけると、廊下に出てきた。
中腰になって目線を合わせると看護師は優しく話しかけてきてくれる。
「坊やどうしたの?」
「のどがかわいた」
僕はまだ脳が完全に動いていないのか端的にそう伝えた。看護師は僕の要望を聞くと近くに在ったウォーターサーバーから水を汲んできてくれる。
「はい、どうぞ」
ごくごくと水を流し込む。異様に美味しく感じた僕はもう一杯おかわりの水を求めた。
看護師はそれに応えて水を汲んできてくれる。もう一度紙コップを空にした僕は何も言わずに紙コップを看護師に返した。
「…」
脳が全然働いておらず夢遊病の様になった僕はふらふらとした足取りでさっきまでいた病室に戻ってベットに入った。
入った瞬間に僕は意識を失いそのまま二度寝した。
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朝の陽ざしで目を覚ます。今日二度目の目覚めだが、見える景色は普段とは全然違う。夜の時は廊下のライトが明るくて目をあまり開けていなかった。だからこそ、この景色、この情報を見なくて済んだ。
すべてが重なって見える。これは感覚的な話だが、壊転の3次元的感覚と生転の3次元的感覚と視界の2次元的感覚の全てが重なり合って見えるのだ。
壊転の3次元的視覚は触れたものとその近くに在る物の存在とどの程度壊せるのかが何となく分かっていた。これだけでは大した情報処理も必要なく、日常生活に何の支障もなく暮らしていける程度の物だった。
しかし、生転の方は違う。生転の3次元的視覚は範囲内の全ての物が見えるのだ。たとえば下の階の人が今寝ている事も、上の階の人が今トイレに行きたくてベットを立ったこともすべてが見える。
その情報量は常に脳みそをフル回転させないと処理できないほどに負担が大きい。
僕はあまりの情報量を少しでも減らそうと瞳を閉じる。多少の負荷が減り少し楽になった。
少し余裕ができると、周囲の状況を認識できるようになる。3次元的視界を持っている僕はカーテン越しに母が眠っているのもはっきりと見える。
ベットから降りると、その微かな音で母も起きたようだ。
「鞠、起きたの?」
「うん」
カーテンを勢いよく開けると、母が僕の体を抱きしめた。
「鞠!大丈夫だった?変な所はない?」
「…ないっちゃない」
あると言えばある。今の状況では目を開く事が出来ない。別に支障はないけれど母からしたら心配に見えるかもしれない。
「…鞠?なんで目を閉じているの?」
やっぱり聞かれた。分かってはいたが、いざ話すとなると、母の反応が怖い。でも、実際見えないものは見えないと伝えないとまずいだろう。
「見えない」
「え?嘘…」
僕は脳みそがまだ動いていないのか、言葉足らずにそう伝えると、母は驚愕の顔をした。僕の言葉を聞き焦った母はナースコールのボタンを押した。
いや、確かに気持ちは分かるけれども、緊急時でも無いのにナースコールはやりすぎじゃない?
そんな事を思っていると近くに居た医者と看護師がやってきた。
「どうされました!」
医者に母はたどたどしく状況を伝える。
母の拙い説明を聞いた医者は、母を落ち着かせるように椅子に座らせる。母もそれで自身の慌てように気づいたようだ。少し頬を赤くして恥ずかしそうにしていた。
医者は母が落ち着いた事を確認すると、丁寧に話をした。
「それは、脳の障害かも知れません。一度精密検査をしましょう」
別にそんな事は無いのだが、僕がその事を伝える前に、あれやこれやと運ばれて精密検査を受けさせられた。
3次元的には問題なく見えているから何が起こっているのかが分かる。普通なら見えない母の焦ったような泣きそうな顔も見えてしまう。
「終わりました。…これは」
「どうしたんですか?!何か問題があったのですか?!」
母の焦った声が聞こえてくるのが心苦しい。
「いえ、何も異常が無いのですよ。強いて言うならば脳の活性率が高いことぐらいですかね。確かに脳の活性率が高いのは良くない事ですが、視覚が奪われるほどの物ではないと思うのですが」
「じゃあなぜ鞠の目は見えないのですか?!」
それは見えないのではなく見ないだけなのだが、、、。
僕はその事を伝える為に母の元まで行った。
僕は母の服を少し引っ張ると、僕の事に気づいた母は抱きしめてきた。
「ごめんね。鞠、ごめんね」
そう何度も耳元で誤ってくる。
さすがにこれ以上の誤解は良くないので、僕は言葉足らずの真実を話した。
「ママ、見えないわけじゃないんだ」
「え?」
僕からのカミングアウトに母は間抜けな声を出した。
僕はそんな事は気にせずに話を続ける。
「見えないわけじゃない。ただ、見るとあたまが痛くなるだけなんだ」
「頭が痛くなる?」
「うん。そう」
そう言いながら目を開く。重なって見える視界は、一瞬にして脳を方法で埋め尽くした。たったの数秒だけなのに、脳が焼け切れて、生転が脳を修復する。
脳に痛みは無いが、情報に脳が埋め尽くされて思考が出来なくなるので、目を閉じた。
「見えるんだけど、あたまが痛くなる」
僕の言葉に何か思い当たるふしがあったのか医者は母に話し始めた。
「これは…奥さん、一ついいですか」
「なんでしょうか」
母は僕を抱き上げて腕に抱えながら医者に向き合った。
って、僕かなり重いと思うのだけれど、よくもまあ持ち上げれるな。母のすごさに仰天だ。
「私はこの症状の事例を知っています。この症状は探知系の超能力を発言したものによく見られる症状です。超能力が目覚めることで自分の感覚が変わることはご存知ですよね?」
「はい」
「その感覚が強く表れる子がたまにいます。目が見えなくなるほどの症状が表れる子は珍しいですが、それでも症状は似ています」
「…そうなの?鞠?」
「うん。そんな感じ。目を閉じていても見えるんだ」
そう言うと母はほっと安心した。
安心した突如に母はこれまでの慌てようが、恥ずかしくなったのか顔を赤らめて謝罪した。
「すみません、お騒がせして」
「いえいえ、息子さんを気遣う思いは皆同じですから」
そう言われると母の顔は少し緩んだのがはっきりと僕には見えた。
こうして激動の午前が終わった。しかし、激動の午後がまさかあるとは思っていなかった僕は安心し切っていたのだった。
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※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。




