第三十七話 死んでくれ
作戦本部室にアラートが鳴り響く。
「おい!何事だ!報告しろ!」
急になった不吉感を漂わせるアラートだが、誰一人として慌てることなく確認を急いだ。
「だ、大指揮官クラスが動きました!」
「損害は!」
「一撃で……34人…です。…計測されたエネルギー量を元にしたデータは……4.2+12J…です。変換すると1000TNTトンほどになり、核兵器とそん色ないエネルギー量です!」
まさに人の形をした核兵器と言って差し支えない。
これもあくまで概算でありもっと上がる可能性は十分にある。
「さすがは大指揮官クラスだな。桁が二つか三つは違うな」
「ええ、冗談にもなりませんよ」
しかし、これはまずい。このままでは直ぐにこちらの軍が全滅する。
このままでは時期に全滅するのが分かっている状況で手を打たないのは論外だ。しかしながら、現状打てる手はほとんどない。
部下もかなり怪我をして数が減っている。流石にこの数で狩るのは無理だ。しかし、一つだけ案がある。が、それは禁じ手でもある。
「仕方ないか?」
「正剛少将?」
隣に居た山中中将が不思議そうな目を向ける。
席を外す事を中山中将に言うと会議室から出ていった。
今は一刻を争う今なのだが、気持ちの整理をつける為に屋上に出た。
やけに青空な空の上で天使の減った群れが見える。遠くからでも分かる戦いはいくつもの炎や雷などが天使を落としていっている。天使側もそれに負けないほどの光の矢を地上に降り下ろしていた。
今の光景を一世紀前のキリスト教信者見たら涙を流して喜ぶか、涙を流して悲しむかの二つだっただろう。
「はぁー。やるか」
空に浮かぶ天使たちを見て気持ちを決めた。
このままでは本当に大阪と言う都市が無くなってしまう。大和からしてみれば他人事の様に見えるが、大阪は貿易で中継地点の役目を果たしている。ここが無くなれば南側からくる船が一時停止する。そうなれば大和の国民のどれだけが食糧難になるのだろうか?正確には分からないが、考えたくない量になるのは確実だろう。
AR型情報端末EgGNeuRonから鞠へ通話を掛けた。
『鞠、今そっちは大丈夫か?』
『正剛所掌ですか?こっちは治療者の数も減ってきて余裕が出始めたところですよ』
『そうか。今どれぐらい力は残っている?』
『えっと?…そうですねー。3割ちょいってところですかね』
アマテラスの隊員から聞いた情報によると治療者の3分の1は鞠が治したと言う情報がある。真偽は定かでは無いが、それに近い事はしていたのだろう。
それだけの人数を治したのに未だ3割もの力を残していると言うのは驚きだ。
しかし、私にとっては素直に喜べない。もしも、鞠が限界だったならば他の人を連れていけたのに。
『…そうか。…一つ頼みごとがある。いいか?』
『はい、正剛少将の頼み事でしたら聞きますよ』
こんな素直でいい子を戦場に立たせたくはない。それでも一指揮官としては数字で人を見ないといけない。
一人の人間としては最悪の行為だが、一人の指揮官としては最善の行為。迷いはあるが、自分は指揮官である事を取った。
『鞠、今我々の状況がどの様になっているかは知ってるか?』
『ええ、一応は』
…?あれ?誰かが鞠に情報を渡したのだろうか?自分はそんな命令を出していない。他の人が場合によって情報を渡すこともあるだろうが、それは必要な時に、だ。むやみやたらに情報を拡散してはいけない。それは軍の掟だ。
となると…なるほど、そういう事か。しかし、今話す事でもない。
『我々は大指揮官クラスと言う天使に苦戦していてな。作戦も上手く立てれない状況なのだ』
『作戦を立てれない?なぜです?』
『たんに言えば人が足りない。そもそも、一定のレベルに達していない超能力者では太刀打ちすらできない。一定のレベル以上なのは前提として、問題になるのが数だ。理想論で言えば100人から200人の超能力者で一斉攻撃が出来たら倒せる。あくまで仮説だが倒すのにはそのぐらいの攻撃が必要だ。しかし、今はそんなのが無いから持久戦でじわじわ削っていくしかない。そこでも問題になるのが数だ。攻撃を受けたらいったん下がって回復するのだが、それは人数が居て、減った人員でも耐えきれるだけの物があればの話だ。そうでなかったら一瞬で押し切られて御しまいだ。その時はこの大阪と言う都市が消滅する』
今回連れてきたのは50人だ。今動ける部下は、30人前後。怪我しているものを無理やり引っ張ってきても40ほどしかない。精鋭メンバーを連れてきたが、40人前後ではじり貧で負ける。それは過去に一度討伐したことがあるから言える。
大阪の兵士を引っ張ってくる事も考えたが、連携もろくに取れない人員など邪魔以外の何物でもない。
つまりは40人で何とかしないといけない。本来は絶望的だが、鞠が居れば話が変わる。致命的な怪我を負っても即座に回復できる再生能力者が前線に居れば戦線復帰も即座にできる。
が、しかし、それには鞠が危険にされされる。一人での防衛手段などろくに無い再生能力者など的でしかない。今回の戦いでは部下を護衛に着かせる様な余裕はない。大阪の軍人にやってもらってもいいが、それがどれだけ期待できるのかは分からない。
行ってしまえばめちゃくちゃ危険なのだ。
『なるほど、そういう事か』
『この依頼は…』
『いえ、言いたいことは何となく分かりました。僕に前線で回復をやれ、と言いたのでしょう?』
『…そうだ』
『分かりました。その依頼やりましょう。ですが一つだけ条件があります。この依頼、母には絶対に伝えないでください』
『…ああ、分かった』
『それと、もし僕が死んだら母の事はお願いしますよ』
『……ああ、分かった』
理解の良すぎる子供と言うのも御しがたいものだ。しかし、これで討伐の目途が立った。我々の被害は甚大なものになるだろうが、討伐の可能性は十分にある。
『では、作戦データをそちらに送る』
『ありがとうございます』
…そういえば何か言いたかった事があったような。…?…そうだ。なぜ鞠はコチラの情報を知っていたのだろう?と言う事だった。
ちょっと鎌をかけてみるか。
『そういえば病院のデータベースが外からのアクセスが出来なかったのだが、その原因とかは知らないか?』
『!、な、なんのことでしょうね?僕にはわかりませんよ、はは』
『そうか。ならいいのだがな。間抜けな事をして捕まらないよにしろよ』
『……はい、気を付けます…。』
どうやらビンゴだったようだ。
まあ、我も同じような事ができるし、やったこともあるから強くは言えない。
超能力者が脳波と超能力に関係がある事は知っているだろう。そして、強い能力者がEgGNeuRonの様な脳を一つのCPUとする技術、BPCIS(Brain Processing-computer Interface system)脳処理コンピュータインターフェイスシステムを使うと他の追随を許さないほどに演算速度が高くなる。
これにはある程度適性と言う物があるのだが、その適正が高いと軽々セキュリティーを突破できてしまう。
我では少し固い小型の端末程度が限界だが、鞠は適性がかなり高いのだろう。それも病院のデータベースを完全に乗っ取る事が出来るほどに。
しかし、誤魔化すのが下手な子供だな。もう少しうまく取り繕えなかったのだろうか?
『では、切るぞ』
『…はい、ではそっちに向かいますね』
ちょっと声の小さくなった電話を切る。
さて、こちらも作戦の調整をしないとな。
「それにしても子供を戦場に送るのは憂鬱だ」
それでも一指揮官としての判断をしたのだから、精一杯やろう。
自分に気合を入れる為に両頬を打って気合を入れた。




