第二話 転生
暖かい。ただ夢に揺蕩う様な暖かな何かに包まれている。
私は、、私は今どうなっているのだろうか?
目は見えず、音も聞こえない。食欲も無ければ睡眠欲も無い。肌の感覚はあるが温かみ以外に何も感じない。でも、その温かみは天にも昇る様な気持ちよさだった。
私は今天国に居るのではないだろうか。
そう思えるほどに心地が良い。まるで完全な生命体になったかのような全能感と安心感。それが次の瞬間突然無くなった。
あまりの事に私は慌てる。それでも、何もできない私はただ力に流されるままに押し出されていく。
強い圧迫感の後、ぼやけた視界の中で私は光を見た。ただ、その光しか見えない中で私は、本能に押されるがままに空気を吸い込もうとする。
次の瞬間、何かがバっと広がる感覚がした。そう、何かが胸の中で広がったのだ。それにびっくりして私は不甲斐なくも泣いてしまった。
「オギャーオギャー」
そう、遠くから赤ちゃんの声が聞こえる。水の中に居る時のようなぼやけた音が私の鼓膜を振るわせる。
どこかで赤ちゃんが泣いている事にびっくりして周囲を探す。でも、ぼやけた視界しか見えないので、何も分からなかった。
そんな時微かに何かの声らしき物が聞こえた。
「ー・がう・まれーした」
何か聞こえるがそれは聞き取れなかった。
私はどうなってしまったのだろう。今自分がどうなっているのか分からないでいる。暖かな世界に居たと思ったら、急に光の世界に居る。
そんな混乱状態だった私はぼやけている視界で何かを見た。そう、人らしき顔だが、どう見たって人間よりはるかにデカい。まるで巨人の様な顔だが、何故か安心感を覚えた。
「ー・あー」
その巨人が何かを言っているのは分かったが、内容までは何か分からなかった。
私は、その顔に対して精一杯手を伸ばした。その巨人は私の手に応えて手を握ってくれる。そのうれしさからか私が我慢が出来ず笑ってしまった。
~~~
どうやら私は転生したらしい。
別に頭がおかしくなった訳ではない。
自分の手を見る。それは小さく儚い赤子のて、未だ力が入らない手だが、確かに自分の手であるという実感がある。
私は今、新生児室にいると思う。なぜ推測かと言うと目も良く見えないし耳もはっきりと聞こえない。ただ、何かカプセルのような物に入れられている事は辛うじてわかった。
私は前世で死んだ。死因は癌による病死だった。別に珍しい話ではない。テレビで見ればもっと若い人が癌で亡くなっている事がドキュメンタリーとして放映されている。だから、と言ってなんの慰めにもなっていないのだがな。
私は前世に後悔している。ただ、死んでいなかっただけの前世、生まれ直すという奇跡が起こったからには再度同じ人生を送る訳にはいかない。
誰かは分からないが転生させてくれたことに感謝しよう。それが悪魔だろうが死神だろうが。
「ー・あ、やりー・」
私が覚悟を決めていた時、誰かの声と共にカプセルの蓋が開いた。そのボヤける視界で人間らしき巨人が私に何かを差し出してくる。いや、差し込んでくる。
ーブス!
瞬間、私の肛門に何かがブッ刺された。あまりの事にびっくりした私は反射的に泣いてしまった。
〜〜〜
私が生まれてから数日が経った。記憶の定着と意識が朦朧とする時間が9割型を閉めている赤ちゃんの脳では正確に日数を把握する事ができなかった。
ただ、卵の殻の中にいるようなボンヤリとした思考の海の中で、私はただ寝ているだけの数日だった。
別に面白い事がある訳でもなくカプセルの中で、同じ赤ちゃんの鳴き声だけを聞く毎日では退屈で仕方がなかった。
しかし、そんな退屈な日々にも別れがきた。
「あ、いー・」
何かを言っている人間が私のことを抱き抱える。その繊細な持ち上げ方は、私の事を深く大事にしている事がわかった。
抱き上げられた瞬間、何故か分かった。この人物が私の母親なのだと。
別に明確な理由がある訳でも、根拠がある訳でもない。でも、私の赤ちゃんとしての本能がそう言っているのだ。
本能の奥底から湧き上がる安心感が、私を笑顔にする。それは大人としての人生を歩んできても行為ようのない物だった。
〜〜〜
半年の月日が流れた。
半年も赤ちゃんとして過ごしていれば、色々な事が分かってきた。
まず、僕が生まれた国は前世と変わらず日本だ。場所は東京、ではなく日本の首都大和。最初聞いた時「は?」なんて思ってしまった自分は悪くない。
ちなみにだが僕の一人称が私から僕に変わったのは自分の人生を新たなものにしたいと思ったからだ。前世の大人な私から、今世の子供の僕に変えたのだ。
一人称の事はさておき、この国と首都は東京ではなく大和なのだ。じゃあ、東京はどこにいったのかと言うと、、、。
「こりぇがとうきょう?」
そう、東京は消滅していた。消滅だ。壊滅ではなく、跡形もなく消え去っていた。
皇居を中心とする半径10キロメートルが全て消滅していたのだ。その範囲は絶大で北は荒川を飲み込み、西は中野を範囲に納め、南は品川を蒸発させた。
その規模は東京という都市を消滅させるのに十分すぎるほどに広かった。
東京が消滅した事で新たに東京湾上にできた完全人工都市、それが大和だ。
では、何故東京が消滅したのか。それの説明は今見ているドキュメンタリー番組がしてくれている。
「これが30年前に撮影された消滅した東京の衛星写真です。それが今やこうなっています」
キャスターの音声と共にディスプレイに2枚の写真が写った。
「そして、この東京消滅の原因になったのも、それが『天使』の出現に関係あるとされています」
そう、この世界には天使がいるのだ。
天使。エンジェル。マルアハ。様々な呼び名はあるが共通しているのは、白く純白の羽を生やして、頭に天使の輪を付けた伝達者。それが天使。
天使とは言っているが、日本人が想像する天使像とは全く違う。どちらかと言えば新約聖書に出てくるヨハネの黙示録の天使にそっくりだ。
そう、天使は人間に敵対しているのだ。
「天使は30年前に突如として現れました。天使が現れた原因は未だ分かっておりません」
天使が現れたと同時に世界各国の都市が七つ消滅した。
「消滅した都市は東京を始め、北京、モスクワ、パリ、ワシントンD.C、ロサンゼルス、シドニーとあります」
天使が現れて世界は絶望の最中にいた。都市消滅だけでも5億人ほどが死亡したと言われるが、その後の天使による虐殺でも多くに人が亡くなった。
「その推定死者数は20億人とも言われています」
そんな多くの人間が死んだことで世界のインフラは麻痺状態になってしまった。
もう人類は絶滅するのかと思われた最中、人類は覚醒した。
「天使の襲来に呼応するように超能力が人類に芽生え始めました」
そう、人類は超能力を覚えた。
その超能力は千差万別で、テレパシーとかサイコキネシスとか色々あった。
「その超能力で天使から我々人類を守る存在。それが三柱ノ渦巫女とも呼ばれる防衛隊です」
三柱ノ渦巫女とは、天使に対抗するために作られた部隊の総称である。三柱ノ渦巫女には三つの部隊がある。
一つは皇族や都市の守護を目的とした部隊『アマテラス』
一つは天使の情報収集や調査などを行う部隊『ツクヨミ』
一つは天使の殲滅を主目的とした部隊『スサノオ』
「この部隊たちが我々を守ってくれているのです」
「鞠、ご飯できたわよ」
ーピ
俺が見ていたテレビが突如消された。
不満げに思い僕は後ろを向く。そこには今世の母親である女性がいた。
長い黒髪にパッチリとした目。その目から覗く青い瞳は吸い込まれる様な魔性の魅力を放っている。その目に吸い込まれた後に涙黒子に目線が誘導される。その後に高い鼻、綺麗な唇。そして、びっくりするほど大きな胸。我ながら母親でも誘惑されてしまうほどに美しい。
これが俺の母親だ。
母が僕の体を抱え上げる。そのまま、椅子に座らせるとごはんを運んできた。
僕はそんな母親を見て思う。こんないい母なのに、父がいないのだろうか?と。
そう、片親なのだ。生まれてからこのかた父親を一度も見ていない。
まあ、父親について考えても仕方ないんだけどね。この幼い体では父親を調べる事なんて出来ないし、聞くことも出来ない。
僕は思考を放棄して目の前にあるご飯をスプーンですくった。まだ、力具合が難しくスープをこぼしてしまう。ぐちゃぐちゃになりながらも食べ終わった僕は睡魔に勝てず、そのまま寝てしまった。
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※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。




