第十九話 初めてのお出かけ?
正剛少将とのお出かけから1ヶ月ほどが経った。
あの後からちょくちょくやり取りをしている。年齢差が50以上もあるが、前世も含めたら同じぐらいの年齢だから話も合った。
そんな正剛少将から念願の和服を貰えた。最近は一人で来てはニヤニヤとしている気味の悪い子供が鏡に立っている姿を見れる。
それと、一番の嬉しかった事は服を貰った事で母の追撃から逃げる事が出来るようになったことだ。これまでは、女の子用の服しかなかったが為に仕方なく着ていた。でも、新しい服があると言う理由バリアをすれば母から逃げれた。
これは余談だが、母の機嫌が悪くなったことは尊い犠牲だ。
それはさておき今僕は和服を着て1人外を歩いている。
理由は訓練施設に向かうためだ。この一カ月で色々な手続きをした。そして自分用の携帯端末とIDパスポートを貰えた。これがある事により一人での公共交通機関の利用が出来るようになった。
本来は7歳になるまでIDパスポートは発行されない。7歳以下は仮のIDパスポートが発行されており、使用が制限されている。その一つに保護者の同行が無ければ公共交通機関の使用が出来ない、と言う物がある。
これがまた厄介でバスすら使えないのだ。自分の移動手段が徒歩以外壊滅した事により、何もできない、どこにも行けないと言った状態になっていた。
しかし、そんな窮屈な状態も今日でおさらばだ。
僕は1人で改札に向かい駅員にIDパスポートを見せる。笑顔でスキャンした駅員はモニターを一度確認するとゲートを開いた。
「はい、どうぞ」
僕はIDパスポートをしまうと、スキップでもしそうな足を抑えて電車に乗った。
無事電車に乗ったは良いものの周りからの目線が痛い。
理由はさっきも言った通り、幼い子供の一人乗車がほとんど無いと言うことが一つ。もう一つが僕の見た目にある。和服に眼帯をした少年なんて不審者以外の何者でもない。もしもこれが大人なら通報待ったなしだ。子供だから許されているだけに過ぎない。
痛い視線を耐えながら目的地の13番区の駅で電車を降りた。もう一度駅員にIDパスポートを見せて駅から出ると、立派な学園の正門があった。正門にすらこだわりを感じるのは流石学園区と言わざる負えない。
IDパスポートを手に持ったまま、正門に居る警備員にIDパスポートを見せた。
「はい、…OKだね」
僕の様な子供が来る事も珍しくない様で、慣れた手つきで案内をしてくれた。
「ここを真っすぐ進むと噴水があるから、そこを左に行けばあるよ」
「ありがとうございます」
優しく道を言ってくれた職員に手を振りながら目的地に向けて歩を進めた。
今の時刻は14時と昼間を過ぎている為に、学園区内で学生を見る事は無かった。
整備されたレンガ作りの道を歩いていると噴水が見えた。かなり大きめの噴水は迫力がある。水が霧状になって飛び散る事で、周りの温度が下がっている事が肌で感じられた。
「ここを左か」
さっき言われた通りに左へ曲がる。
別に曲がったところで何も変わる事が無いレンガの景色を歩いていると目的地の施設に着いた。
こないだ正剛少将と来た時と何も変わっておらす、相変わらずの豆腐だった。
相変わらずの場違い感だ。レンガ作りの洋風建物から、突然近未来の白い建物だ。
軍の人達はこれを見て何も思わなかったのだろうか?せめて外観だけはレンガの壁で覆ってほしかった。
僕はため息を吐くと、無人のスキャナーにIDパスポートを当てた。
音を立てずに開くドアを潜り抜ける。
建物に入っても相変わらず人が居ない。それはスタッフすらも居ないと言う事だ。
「…」
静寂の廊下を歩いていると、超能力室のランプが所々赤になっている。多分だが、この部屋を使っている人が居るのだろう。
ちょっと興味をそそられた僕は隣の空いている超能力室にIDパスポートをかざして部屋に入った。
ドアの上のランプが赤に灯ると、ドアが閉まった。
部屋の中は前見た時と同じだ。本当に何もない部屋だ。10の三乗の正方形の白い部屋は居るだけで精神が削られる時の部屋だ。
「じゃあ、さっそく試してみるか」
僕は諸々の荷物を壁の隅っこに置くと、袖をまくり超能力を使う準備に取り掛かる。軽いストレッチの後、僕は床に手を着いて超能力の壊転を使用した。
天使の灰以上の抵抗感を感じる。それでもねじ込む様に壊転の出力を徐々に上げていく。
限界をつぎ込み、自身の限界に近付いてきた瞬間、僕よりも先に床の方が限界に達した。
限界を超えた床は一瞬にして蟻地獄の住処の様に半円状に崩れ落ちた。
「おおぉ」
崩れ落ちた範囲は1メートルには届かないぐらいの小さな範囲だが、何より驚いたのが今の一瞬でほぼ全ての力を使えたと言う事だ。
これまでは長時間小出しにしてやっと限界を迎えられていた。それも、壊転と生転を同時に使って、だ。
今回は片方だけの力で成長頭痛まで行けたのは時間短縮的な意味でも、超能力練習的な意味でも、非常に効果的だ。
「しかし、ちょっと考えて使わないと直すのがめんどくさいな」
空っぽになった力を、この規模を再生できるだけ取り戻すのは1時間以上かかりそうだ。
休憩もかねて、壁を背もたれにして休む。何もやることが無いので、最近手に入れた携帯端末で暇をつぶす事にした。
この世界にも、インターネットがある。もちろん崩壊した世界のインターネットは、前世のような世界中に繋がっているインターネットではない。日本にある11の大都市を中心としたインターネットが形成されている。一応海外にも通じる回線はあるのだが、交信できるデータ量は制限があり、そのほとんどが政府同士のやり取りに使われている。つまりは一般に開放されていないと言う事だ。
そして、前世同様のインフルエンサーと言う職業が存在する。前世ほど活発では無いが今なお人気のある職業でもある。
僕はそんなインフルエンサーの動画を再生した。
「はいどうも~アイリだよ」
そんな耳がとろけそうなバカボイスがスピーカーから鳴り響いた。モニターには地雷メイクっぽいメイクをした女が媚びた目線でレンズを見ている。
別に僕がこういった女が趣味なわけじゃない。どちらかと言えば嫌いなタイプだ。でも、我慢して見るだけの価値がこの子にはある。それは…。
「今日は病院の重篤患者を治していくよ~」
そう、この女は再生能力者なのだ。
僕よりも先達の能力者を見れる機会なんてほとんどない。それは15人しかこの都市に居ないと言うだけでどれほどか分かるだろうか。
そんなのがネット上に転がっているのだ。我慢してでも見る。
「じゃあこれから治していくよ~せーの!」
そういって額を軽く触れた瞬間に片手の無かった男の腕が生えてきた。
「きも!」
おっとついつい声が出てしまった。いやね、にょきにょきって腕が生えてきたら誰でもキモって言う。
「はいはい、次行くよ~!」
甘ったるい声が漏れるが、僕は意識を切り替えてとある事について考えていた。
さっきの再生。重篤患者の額に触れていた。これは僕も同様で生転、壊転どちらも触れる事でしか使えない。一応力を伝播させる事で触れずとも使う事ができるのだが、著しく力を消耗する。たかだか10センチ先に飛ばすだけでも1.5倍ほどの力を消費する。
たかだか10センチで1.5倍も要求されるのならば、普通に触れて使った方が良い。
そして、それは再生能力者全般に当てはまる物なのだろう。僕とこのアイリの二人が特殊解と言う事も考えられなくも無いが、可能性としては低い。
色々考察や情報収取をしていたら、時間も経ちさっきの地面を直せるだけの力も戻った。
「さて、さっさと直しちゃいますか」
ぱぱっと地面を戻すと、部屋から出た。もうここの部屋には用なんて無いし、座れる場所で休憩したい。
僕は自販機でジュースを買うと、病室に向かった。
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※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。