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半対の天使  作者: 薙叢雲剣
第一章 転生
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第十話 特別超能力育成機関 STPI



 あの言葉足らずによる誤解の午前が過ぎ去り、昼食を取ることにした。

 病院側が二人分の食事を用意してくれて、バルコニーで親子揃ってご飯を食べる。

 因みにだが、この都市では雨というものが存在しない。全てが特殊ガラスによって遮られているために水すら通ることはない。では、どうやって道の木々を保もっているのかと言うとスプリンクラーがそれぞれ各地についているのだ。

 爽やかな、人工の風を浴びながら昼食を食べ終えた。前世の病院食よりかはマシなご飯だったが、それでも毎日は食べたくない味をしている。

 ご飯を食べ終わった事もあり、トレイを片付ける。荷物を取りにさっきの机に戻ると、バルコニーに黒服にサングラスをかけた男二人が入ってくるのが見えた。

 いかにも怪しい二人組だが、僕たちには関係ないと思いバルコニーから出ようとした瞬間、その怪しい二人組に声を掛けられた。


「ちょっといいでしょうか?」

「な、なんでしょう」


 黒服の男二人組が話しかけてきて、母が警戒心剥き出しだ。

 まあ、そりゃそうよな。周りの人間もこんな怪しい二人組に関わりたくなくて、少し距離をとった。僕も前世で同じ光景を見ていたら避けていただろう。


「貴方が雨宮菊鞠さんで間違いないでしょうか?」

「はい、そうですけど…」


 黒服の男が懐から端末を取り出したのが分かった。3次元的に見えるのが功をそうして、はっきりと内容が見えた。

 そこにはこの男の名前と所属名、電話番号が書いてあった。いわゆる名刺だ。


「私はこう言うものです」

「柴崎…さんですか。それで私に何か用があるのですか?」


 柴崎晴雄と電子名刺にはそう書いてあった。所属は特別超能力育成機関と何とも名前通りな所属名が書いてある。


「少し長くなると思うので座って話をしましょう。貴文、水を3人分持ってきてくれ」

「は!」

「ではこちらに」


 貴文と呼ばれた黒服は水を汲みに行った。柴崎は隣の席から追加の椅子を持ってくると座った。

 僕は母に手伝ってもらいながら椅子に座ると、背もたれに体重を預けてだらける。

 どうやら僕の話にはなりそうだが、僕が介入できる余地はなさそうだ。


「お時間ありがとうございます。先ほども見せましたが我々は特別超能力育成機関と言う所に所属しているものです」


 黒服の柴崎が話し始めるともう一人の黒服が水を三つ汲んで持ってきた。


「ありがとうございます」


 こんな些細なことにも感謝をする母が眩しく思えるが、目の前の黒服の柴崎は何も気にすることなく話を続けた。


「今回の要件なのですが、雨宮鞠さんへのスカウトです」

「スカウトですか?」


 一体なんのスカウトだろう。なんて冗談は通じないのだろうな。さっき言っていた所属している名前でおおよその想像はつく。


「我々は才溢れる超能力者を育てる機関です。息子さんの発現した超能力はとても素晴らしい能力なのです」

「…」


 母の反応が悪い事を察した黒服の柴崎は、話し方を変えた。

 この柴崎と言う男なのだが、話し方や身振り手振りが詐欺師っぽいのだ。

 そりゃ、誰だって警戒するわな。僕だってする。誰だってする。


「雨宮さんは他者を癒す能力を持った人間がこの都市にどれほどいると思いますか?」


 突然の質問に母は少し戸惑う。この詐欺師っぽい男の言いたいことが見えないからだ。

 母は少し考えた後に、自分なりの答えを出した。


「1000人程度でしょうか」


 母の回答に柴崎は間髪入れずに答えを返す。


「15人です」

「…」


 それは何とも少ないな。この都市の人口は600万人。その全てが超能力を発現するから600万分の15人と言うことか。約分すると40万分の1。わーお。


「たった15人しか他者を癒す能力を持った人がいないのです」

「…」

「そこで、お子さんの超能力を社会で活躍させるために能力を育成させるのが我々と言う訳です」

「…そうですか。それは立派な仕事ですね」


 母が皮肉を言った。この皮肉の意味は「こんな子供にもスカウトするなんて非常識なお仕事ですね」といった感じだ。母の口からそんな事を聞かない僕からしたら、こう言う母の側面は新鮮だ。

 そんな母からの皮肉に柴崎の顔が少し引き攣ったのを僕は見逃さなかった。


「…ええ、やり甲斐もあり素晴らしい仕事だと自負しています」


 柴崎はカバンからタブレットを取り出した。

 タブレットを操作すると、ある一つの資料データを取り出して母にタブレットを渡した。


「特別超能力育成の契約内容がこちらです。一通り見てください」


 渡されたタブレットを母がスクロールして見ていく。僕も3次元的視野を駆使してタブレットの中身を盗み見た。

 様々な契約内容が書かれているが、そのうちで気になったのが年齢の項目だ。母も同様に年齢の項目に気が付いた。


「年齢の事ですけど…」

「ああ、それですね。対象年齢は3歳から18歳まで基準に集めています」

「私の息子は2歳ですけど?」

「これはあくまで基準ですし、3歳になってからでも構いません」

「…」


 母は再度不満げにタブレットに視線を落とした。


「訓練内容の指定はありません。何かを課すこともありません。そして、指定の施設で能力訓練が可能です」

「これ、本当に訓練の内容は何もないのですか?」


 それは僕も思った。何のための特別超能力育成なのか分からない。


「我々は子供に何か課す事はありません。ただ、報酬という形でやる気を出させているのです」

「報酬ですか?」

「はい、この特別超能力育成にはランクシステムと言う制度があります」

「それって…IDランクですか?」

「それも含みます。が、IDランクとは違い、我々は独自のランクシステム、STPランクと言う物を採用しています。ランクが上がれば受けれる恩恵が変わっていき、商品の割引券や、特定の会社からの商品優先券などと様々な物があります。もちろん7歳になればIDランクも解放されます」


 IDランク?何それ聞いたこと無いのだけれど?

 僕は気になったので母に聞いてみる事にした。


「ママ、IDランクってなに?」


 それを母に聞くと、母では無く柴崎が説明し始めた。


「それは私が説明しましょう。IDランクとは、市民一人一人に付けられた順位の事を言います。色々な特典があるのですよ」

「それって…いいのです?人は平等では?」


 前世の価値観ならそうだ。でも…。


「そんなものは天使の出現と共に崩壊しましたよ。人間は平等ではない。天使を1000体倒せる人間とアルバイトしている人間とでは明かに価値が違う。それは超能力がある事によってはっきりと目に見える形で分かるようになりました」


 …確かにその通りだとは思う。けれども前世の価値観と言うのは何とも度し難い。

 でも、確かに前世も平等では無かった。人生は生まれた瞬間で決まる。それは、うすうす平和な社会でも感じていた。前世で僕は何人かの部下を抱えていた。どれも同じような大学を卒業した人だった。けれども、成績を残せたのはごくわずかだった。

 顔のいい奴、しゃべり方が良いやつ、コミュニケーションが良いやつ、カリスマ性が高いやつ。どれも、その人の遺伝か生まれ育った環境で決まっている。もちろん努力の面もあるだろう。それでも、努力で変えられる幅は遺伝や生まれで決まっている割合よりかは、はるかに少ない。

 そういった意味で平等ではないのだ。でも、平等では無いが公平ではある。それはこのIDランクも同じだ。

 僕が今の言葉を理解していないと思った柴崎は話を本題へと戻した。


「…」

「さて、息子さんも納得したところで話を進めましょうか。先ほど話したランクシステムの他に依頼を斡旋する場合もあります。この場合は拒否権がもちろんあり、断っていただく事もできます。もしも、依頼を受けてくださった場合には、報酬の他にIDランク、STPランク共に上昇します」


 なるほど。すべてはコチラが権利を握っている訳か。これならば入ったところで自分に害がある訳ではない。

 しかし、僕はある一文が気になった。それは母も同じようでその一文を口に出して読み上げた。


「緊急時の依頼要請を行いその拒否権はない」


 これだ。これはつまり強制で何かをさせられると言う事。報酬も定かではない依頼要請でこちらの拒否権を奪われる。


「これですか。これは、天使などが軍だけでは対処できない場合に発令されるものです。我々もこの条項は入れたくなかったのですが、我々の出資元が軍系列なのですよ。しかし、都市が完成してから30年間、一度としてこれが発令された事はありません」


 この一文はこれまでの全てを吹き飛ばすだけの力がある。天使の進行が軍で対処できないと言っている様にしているが、実際にはそうではない。天使’’などが’’だ。つまりは人が反乱を起こしたときにも要請がかけられる可能性がある。あくまで可能性ではあるが、考慮する必要がある。

 そのことは母も気づいており、かなり悩んでいる。


「…少しだけ考える時間をください」

「そうですか。一応データは送っておきます。もし、参加される場合にはお電話をしてください」


 そう言うと柴崎は、もう一人の黒服を連れてこの食堂から去っていった。

 終わってから思い返せば完全に上から目線の柴崎だった。前世ではあんな態度で交渉すれば破談確定だったが、彼らにとってはこの話が破談になっても痛くは無いのだろう。彼らの態度でそのことが分かる。

 昔の契約の時の事を思い出していた僕とは違い、母の顔はよろしく無かった。

 

「…」


 母は下を向いて悩みこんでしまった。昨日と今日で心労を掛けたのに、新たに悩みの種を与えてしまった。

 今回の全てが自分から始まったことだと考えると、母に対しては本当に申し訳なく思う。

 で、あるならば、だ。すこしでも母の役にたちたい。


「ママ」

「なぁに鞠?」


 自分もつらいのに、それを隠して笑顔で応対してくれる母に涙が出そうになる。


「僕、行ってみるよ」

「行くって特別超能力育成に?」

「うん」


 そう言うと母は泣きそうな、不安そうな顔をした。

 子供のいなかった前世の僕でも何となく分かる。自分の子供に危ない事をさせたくないのだろう。でも、それで母が助かるのであれば躊躇はしない。

 だって僕は死んでいない、生きている人生を歩くと決めたのだから。


「そう。でも、せめて3歳になってからよ」

「うん」


 こうして、僕は特別超能力育成に参加することになった。




もし、この作品を気に入ってくれたら「いいね!」や「ポイント」を入れてもらえると非常に嬉しいのでお願いします。


楽しんで読んでもらえれば嬉しいです。自分でも見返しているのですが誤字脱字があれば報告してくれるとありがたいです。


※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。


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