9. 嫉妬
翌日。
いつも通りグラディオ用の朝食を引いて歩いていると扉の前にハロルドの姿が見え、夜勤明けだというのにいつも通りの表情に流石だと感心する。
「レノア、今日の殿下は少し機嫌が悪いようだ。」
「そうなんですね。気を付けるようにします。」
彼の言葉に少し気合を入れてから入ると、通常時であればベッドから笑顔で出迎えるグラディオの姿はなく。
寝間着姿のままソファーで機嫌が悪いというのを全面に纏った出で立ちだ。
「グラディオ様、おはようございます。本日はこちらで朝食を取られますか?」
「…僕、怒っているんだけど見えない?」
「申し訳ございません。何か粗相をしてしまったのでしょうか…。」
「昨日のあれ、誰?」
「あれとは?」
「裏門にいた男。」
「テオのことですか?」
「名前を呼び合う仲なんだね。」
「小さい頃から一緒に育ってきましたので。」
「…彼のこと好きなの。」
「そうですね。」
「…朝食は要らない。」
「それは御身体に障りますので少しだけでも食べて下さい。私は席を外します。」
机に朝食を並び終え、一礼すると部屋を後にした。
本当に今日は機嫌が悪いらしい。
テオの事を聞いたりとよく分からなかったが、羨ましかったのだろうか。
「もう行くのか?」
「余計に機嫌を損ねてしまったみたいなので、席を外すことにしました。とりあえず今日一日はジョアンナさんにお願いしてみますね。」
「いや、それは逆効果だと思うが…。」
後ろから何か聞こえたが、ジョアンナと交代するなら早く言わなければ迷惑がかかってしまうと急ぎ足で厨房へと向かった。
事情を話すと快諾してくれた彼女に感謝しながら城の掃除班としてエントランスの床を担当している。
この綺麗な床はこうして毎朝メイド達が掃除することで保たれているのか。
そんなことを考えながらモップで綺麗に磨いていく。
「グラディオ殿下、ジョアンナでございます。本日はレノアの代わりを務めさせていただくことになりました。」
「…ハロルド、レノアを探してきて。」
「はい。」
ジョアンナのその言葉で先程より機嫌の急降下したグラディオにやはりこうなったかと心の中でため息を溢しながら彼女を探すべく城を歩き回った。
他のメイドに聞けばさっきまではエントランスの床掃除をしていたというが、見当たらない。
どこに行ったのだと移動するハロルド。
その彼を待つグラディオはピリピリと張り詰めた空気を放ったまま朝食には一切手を付けず腕を組んでいる。
少し音がするたびにビク付くジョアンナに余計イライラするようだが、言葉を発するつもりはないらしい。
それから30分程するとハロルドが戻ってきた。
「レノアはどうしたの。」
「それが、例の男と一緒に買い出しで港町に行ったとか…。」
「すぐに馬を用意して。僕も行く。」
そういった彼は直ぐにでも出掛けるつもりのようで着替えを済ませエントランスに向かっていく。
左眼を怪我してから自ら外出するなど何年ぶりだろうか。
ハロルドも内心驚いていたが、王にそのことを伝えると泣いて喜んでいた。
黒い馬に乗馬する彼の姿は颯爽としており、しばらく乗っていなかったブランクなど全く感じさせないものでハロルドも栗毛の馬に乗馬しその後に続くのだった。




