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8. ハロルド

夜の帳が下りた頃。

仕事を終え、帰宅するべく裏門を潜ろうとした彼女はいきなり声を掛けられ驚いているようだ。


「テオ!?暗いから吃驚したよ。」


「夜道は危ないからな。迎えに来てやった。」


「いやいや、私なら大丈夫だって。」


「そういう奴が一番危ない。ほら、帰るぞ。」


彼に促されるまま歩きながら綺麗な星空を見上げている。


「空ばっか見てると転ぶんじゃねえの。」


「綺麗だなと思って。」


「前は仕事終わりによく丘まで行って一緒に見たよな。」


「そうだね。丘の上から見る星空はいつも綺麗だったけど、冬は格別。」


「王室付きメイドに任命されてから行けなくなっただろ。辞める気はないのかよ。」


「辞めようにも王命だし、ちゃんとした理由がないと流石にね。」


「…俺と。」


「?」


「俺と結…。」


「レノア。」


「ハロルドさん?なぜここに?」


「夜道は危ないと殿下が心配されてな。」


「私なら平気ですよ!グラディオ様は意外と心配性なところがありますよね。」


「俺も人のことは言えない。」


「確かにハロルドさんも心配性です。騎士の方は職業柄余計かもしれませんね。」


そんな話をしていると果物屋の目の前にたどり着いていた。

二人にお礼を言ってから建物内へ入っていく彼女を見送るとそれまで浮かべていた笑みが一瞬にして消えていく。


「何を言おうとしていたか知らないが、レノアは殿下の専属メイドだ。そこをよく考えておくのだな。」


「そんなの関係ないっすよ。元気が取り柄みたいなレノアが城で倒れたって聞いたときに決めたことなんで。俺は遠慮するつもりはない。」


真剣な眼差しでそう言ったテオは踵を返して食事処へと入っていった。

その姿を見送りながら小さくため息を溢していると頭上に感じる視線に顔を上げれば、笑みを浮かべているレノアが見える。


「ハロルドさん、わざわざありがとうございました。この時間までお仕事ってことは夜勤ですよね。良かったらこれ、休憩の時にでも食べて下さい。お城の厨房を借りて作ったのでまだ温かいかと!ティータイム用の試作品なのでまた感想を。お休みなさい。」


そういった彼女は中へと戻っていった。

そんなレノアに小さくお休みと溢したハロルドは城への道を歩き出した。

投げられた紙袋に入っていたのはマフィンだったようで、一口齧ると中からブルーベリージャムが溢れてくる。

甘さは控えめだが疲れた身体にちょうどよい案配のそれは流石だと口の中に全てを放り込んでから薄っすら笑みをうかべるのだった。

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