13. メイド会
グラディオを強引に納得させた翌日ということもあり、入るのを躊躇していると騎士姿のハロルドが笑みを浮かべたまま近づいてくるのが見えた。
「おはよう、レノア。」
「おはようございます。」
「昨日の事が尾を引いているようだな。」
「また暴走されては困りますから。」
「大丈夫だ。その時は私が助けるさ。」
「本当…ですか?」
「もちろんだ。」
「レノア、そんなところで何しているの?僕はさっきからずっと待っているのに。」
痺れを切らしたグラディオは自ら扉を開けると彼女の手を掴むと部屋へと誘った。
不機嫌な雰囲気のままソファーへと腰を下ろすと無言の圧で座れと促してくる。
「レノア、君はハロルドのことが好き?」
「え?」
「僕のことは嫌い?」
「そんなことないです。」
「なら何ですぐに入ってきてくれなかったの。」
「それは…。」
「昨日の行動を鑑みれば当然ではありませんか。」
「何故君が入ってきているのかな。許可したつもりはないけど。」
睨みあう彼らはいつの間に険悪な仲になったのだろうか。
最初出会った頃はグラディオにとってハロルドは他の騎士とは違う信頼関係を築いていたように見えた。
もしかして私のせい?
そんなことを考えながら様子を伺っているとノック音が聞こえてくる。
「グラディオ殿下、ジョアンナでございます。そちらにレノアさんは居ますでしょうか?少しお借りしたいのですがよろしいですか?」
「いいよ。レノア、終わったらすぐに戻ってきてね。」
先ほどまでの険悪なオーラを消し去りそういった彼にお辞儀をしてから助かったと部屋を後にした。
「ジョアンナさん!ありがとうございます。」
「え?私何かお礼されるようなことしましたか?」
「ふふ、何か私に御用ですか?」
「今日は月に一度のメイド会がある日なんです。」
「メイド会?」
「お城の中には色々な部署でたくさんのメイドが働いているので情報交換する場を設けていて。」
なるほど。
別部署で働いているメイドと顔を合わす機会があるとはいえ、世間話などする時間もない。
こういった場で情報交換をするのはとてもいい考えだと城の奥にあるメイド専用の部屋へと向かっていった。
ジョアンナが扉を開けると、すでに皆揃っていたようで一斉にこちらに視線が向けられる。
「時間も守れないなんて王室付きメイドが使えないとは本当なのね。」
早速かけられた言葉にメイド長であるヘンドリカを思わせるが、彼女ではないようだ。
銀色のシニヨンヘアの女性はここでリーダー的な存在なのだろうか。
ジョアンナ以外のメイドに嫌われているのだろうというのは何となく察していたが、今までヘンドリカ以外から直接言われることがなかったため驚いてしまった。
とりあえず、知らなかったとはいえ遅刻してしまったのは私の非かと素直に謝ってみたが火に油を注いでしまったようで次から次へと心無い言葉が聞こえてくる。
「貴女のせいでグラディオ殿下とハロルド様の仲が悪くなったという噂を耳にしたのですが、本当ですか。」
「…それは。」
「本当なのですね。」
「王室付きメイドがお二人の仲を裂くなんて何様のつもりなの。」
「元は城下町にある果物屋の娘ですから。礼儀作法もろくにできないのでしょう。それで王室付きメイドを続けるなんて貴方、空気を読めないのかしら。」
「貧乏娘だからお給金に目が眩んだのね。」
「ち、違います!レノアさんは王命で…。」
「ジョアンナは黙っていなさい。」
「…っ!」
「皆さんが私のことを気に入らないのはよくわかりました。貴女の言う通り、ただの果物屋の娘ですから王室付きメイドが務まるとは思っていません。なので、只今をもって辞退させていただきますね。陛下と殿下には貴女方から伝えてください。ではさようなら。」
軽くお辞儀をして着替えを済ませるべく更衣室へと移動すれば、何か言いたげな声が聞こえてきたが無視を決め込んだ。
確かに彼女たちのいう通り二人の仲を険悪にしたのは私という存在が少なからず関わっているのだろう。
二人の気持ちは嬉しいが、ただの果物屋の娘として生を受けたのだから自分の立場は弁えているつもりだ。
若い時の一時的な感情など、離れれば意外にも儚いもの。
王命に逆らうのは避けたかったが、経験豊富で信頼を得ているメイド達からの言葉なら通るだろうとヴィクトリアンスタイルのメイド服から質素な作りのエプロンワンピースに着替え、私物をバックに詰め込んだ。
「レノアさん!」
「ジョアンナさん?」
「本当に辞められるのですか…?」
「はい。最初にご所望されたリンゴジャムはジョアンナさんが完璧に作れますし、私がいる必要はありませんから。今までありがとうございました。」
彼女にお礼をしてからいつものように裏門から出て城下町にある果物屋へと走ってむかのだった。




