1話.勇者の幼少①~カインは産まれる~
主人公、爆誕!
その日、空は普通に晴れていた!!
ということで、宣言通りの真面目な語りで主人公が異質さを見せ始めます&説明回。
聖勇歴794年4月1日
真央大陸のほぼ中心、大陸東側に広がる魔族領に蓋をするように南北に伸びた国土を持つ聖剣国家アヴァロン。
聖剣エクスカリバーの鞘にして人類を魔族から庇い癒す鎮守の国を自認するこの国の、中央に位置する王都から見て北西にある隣国、白鎗国モントブロに住まう武人カイト・ニドレイトの家に、八代勇者カインは生まれた。
雪に閉ざされた険峻な山々と、その隙間に点在する盆地が国土の大部分であるモントブロは、世界に冠たる鎗術“白鎗流”の聖地だ。
彼らの振るう樹氷かなにかと見まがう真白の鎗は、いつの時代も武人を引き寄せるに足るものであり、カインの父カイトは、そんな白鎗の武人の頂点を担う一人であった。
が、あくまでも“頂点の一人”である自分に鬱屈したものを抱えていた。
モントブロを構成する白鎗山脈、その山々の一つ一つには十前後の道場があり、これらは山頂の道場主である師範代がその山ごと統括する。
そして、特に標高の高い十二の山の頂きに、白鎗流の各分派の師範が立つ。
そんな師範の一人となってから伸び悩んでいるのが今年二五歳になるカイトだった。
管轄の山にいる魔物をどれだけ狩っても、ステータスはもはや誤差程度にしか伸びない。
指南書は師範にしか閲覧が許されない秘奥を含め全て暗唱できるほど読み込んだが、新しい合理に出会えない。
下位の師範に負けることはないが、上位の師範に勝つこともない。
そんな停滞の中、妻レアンがカインを産んだ。
カインの瞳は黒く、その輪郭は金に縁どられていた。
金環に縁取られた瞳は先天性スキル持ちの証である。カイトは悩んだ。
先天性スキル持ちというのは年間で一国に一人産まれるか否か程度にしか生まれない、将来の確定した存在だ。
特殊なスキルとステータス上限の高さ、そして適職を生まれ持つ。スキル持ち、天職持ちあるいは天職者などとも言われる。
そう、この世界にはステータスとスキルと、そして称号が存在する。
ステータスにはHP、MPすなわち生命力、魔力値と、そして攻・防力、敏捷性、知力、魔法適正、抵抗力、器用さがある。
生命力は0になれば死ぬ文字通りの生命力であり、出血が続けば持続的に減少し、加齢などによる肉体の衰えによって最大値は減少、「寿命が尽きる」とはHPの最大値が0になることを意味する。
魔力値は魔法や魔力そのものによる物体の強化などを発動維持できる回数・時間に関与するもので、枯渇すれば意識を失い、環境や心身の条件に左右されるが時間経過により徐々に回復し、通常覚醒状態で八時間、睡眠中ならば六時間で意識喪失手前から全回復に至る。
この二つに関しては、ポーションやマナポーションといった回復薬が種々開発されており、また回復魔法や魔力譲渡による補填も可能だ。
攻防力・敏捷性は素の肉体の力を示しており、HP同様に肉体の衰えにより減少するが、0になることはない。
知力は知識容量や知恵知能、思考速度などを総合的に数値化しており、絶対記憶能力を持つがそれを活かすのが苦手という者も、物覚えは悪いが回転は早いという者も似たような知力値を示すことになる。
こちらも、加齢により減少することになる。
魔法適正は、撃てる魔法の効力の高低や連射のタイムラグなどに関与し、抵抗力は魔法防御や異常耐性である。
器用さには、魔法や魔力の扱い、手指など肉体の扱いどちらもが含まれる。
ステータスは鍛錬や学習で上がる努力上昇値と敵対者を倒すことで上がる経験補正値があるが、個人個人にステータス上限と呼ばれる伸びしろの限界も存在している。
スキルというのは基本的に後天的に得られ、「一定水準に到達すると補正がつく」というものだが、稀に生まれた時からスキルを持つ者がいる。
称号には二種類ある。
一つは適職称号という、本人の資質を職名で示し補正を加えるものだ。
基本的には本人の意思や性向、努力して伸ばしたステータスや得たスキルの反映された職種を、十二歳の誕生日に授かるといわれるが、先天性スキル持ちはスキルとともに適職も特殊なものを持って生まれ、その職は一般に天職と呼ばれる。
もう一つの称号は功罪称号といい、挙げた功績や犯した罪によって様々なものがつく。
いわゆる、“賢者”や“剣士”、”料理人”などは前者、『竜殺し』『双焔の賢者』といった二つ名や『掏り常習犯』『三人殺し』などが後者にあたる。
このような世界で、カイトは我が子カインが天職持ちで生まれたことに懊悩した。
息子には、自慢の白鎗のように曇りなく真白き心と歪みない真っ直ぐな人柄を持つ鎗術士に育って欲しかった。
正直に言えば、行き詰った武人としての自分のために、愛する妻が腹を痛めて産んだ我が息子に、全霊の愛を込めて指導稽古してみたい、という思いもないではなかったが。
しかし我が子は天職持ちだ。
親のエゴで天の与えた将来を捨てさせてしまって、歪みない武人になどなれるだろうか。
まずは、教会なり冒険者協会なりでスキルと適職を調べてみるべきだろうと考えて視線を巡らし、狭い盆地に作られた最寄りの街に思いを馳せた。
数秒の後、彼は溜息とともにぽつりとこぼす。
「あぁ、私は弱い」
なんのことはない。
息子の天職に鎗との縁がない可能性を恐れてしまったというだけのこと。
自分たちで教育できるのだろうかと不安になるのは、天職持ちを授かった家庭によくある話であった。
彼は、喋れるようになるまでは、しっかり歩けるようになるまでは、武器を持てるようになるまでは、とズルズルと答えを先延ばしにした。
だが、先延ばしを許さなかったのは他ならぬ愛息カインだった。
彼は三歳にして教えてもいない魔法を誦して指先に火を灯し、またどこから調達してきたか、幼児というにはあまりに堂に入った構えで真っ直ぐな木の棒を握っていた。
ただし、ニドレイト夫妻が初めてそれを目にした時、最愛の息子の両手は十㎝と離れず、棒の端を掴んでいた。
「カイン……お前……」
零れ落ちた声は、そしてカイトの手に重ねられた妻レアンのそれは、確かな震えを幼いカインにさえ隠し切れないでいた。
逆に、両親の感情の揺れを目の端で正確に捉えた幼な子は、僅かに下がった眉を、木の棒を振り回すことで確実に隠しきっていた。
翌日、カインの小さな両手は数十㎝の間隔をもって、長い木の棒を重心よりに掴んでいた。
前日同様、道場の屋外稽古場でそれを見たカイト。
前日、カインに見られていたことには気づかないまでも感情を表に出してしまったことを自覚していた彼は、後ろめたさと不安を包み隠した喜びを、更に白鎗流最強の一角を担う武人の仮面で覆い隠す。
無言でカインの横に立って白鎗を構え、ゆっくりと、丁寧に丁寧に始まりの型をなぞった。
棒を振ることも忘れて呆けたように自分を見つめる我が子に、彼は何も言わず同じ型を同じように繰り返した。
五回目の繰り返しを終えた頃、彼の型を真似るようにこちらを見ながら棒を振るう息子がそばにいた。
十回も繰り返す頃には、しっかりと前を向いてともに型をなぞっていた。
日が暮れた時には、とうに疲れ切って座り込んでいた幼な子は、一流の武人が自分のためだけに、見えるようにと初めて舞ってくれたゆったりと美しい演武をひたすらその目に焼きつけていた。
「カイン、愛しい我が息子よ。お前には、五歳の誕生日までに全ての型を覚えさせる。出来るようになれとは言わぬ。天から職を与えられ、鎗が不要かもしれないお前に、それでも唯一私が教えられるものを遺したいという、ただの父の我が儘だからな」
一拍おいて、カイトは続ける。
「だがそれが叶おうが叶うまいが、五歳の誕生日を迎えたら街に降りて天職とスキルを調べてもらおう。その先、お前がどんな生き方を望もうと、私はそれを尊重し支えたい。お前のしてくれた気遣いに対する、私なりの誠意だ。……少し、難しかったか?」
カインは、先ほどの白鎗の型と同様にゆっくりと噛んで含めるように、だが「誰も教えていない魔法を詠唱し発動せしめた鬼才の三歳児」に語るという現状に苦戦しているのがありありと伝わってしまう表情で語る父から、少し上に視線を向けてわずかに間をおくと、また視線を父に戻して答えた。
「いえ。ちちうえのいうことは、わかった……とおもいます」
カイトは口角だけを少し動かして微笑み、自分のそれによく似た柔らかい薄茶色の髪を軽く撫でてやると、邸宅の中へと歩を進めた。
カインは無骨な父の手の温かさと、その手が織り成す美しき武の術理に男の理想を見た。
父は、確かにカインの中に根付いていた。
1話をお読みいただきありがとうございました。
一応、過去編は宣言通りの真面目モードなカインくんによる伝聞を混ぜ込んだ三人称一元視点。
というか、カインは元来がこっちなのですが、関わる人々や起こる出来事により段々と0話みたいなノリを強制されていくようになります。
そんな変化も、文章から出せたら良かったのですが、ただただ戸惑われた方には申し訳ありません。
というわけで、主人公は雪国の山頂で赤子を育てる恐ろしい文化の出自です。
でも本当に恐ろしいのは、ほんの少しだけ今回出てきたあの存在です。
ではでは、次はまた1時間後の2020/10/09 21:00更新でござい。
良かったらまた見てくだせいな。




