9、「秘書は、異世界でも秘書でした」
フォレストウルフの群れの襲撃を受けた後だからか、3人とも次の襲撃に備えて口数は少なかった。
しかしそれ以降は特に何事もなく、暫くしてサムスの町へと着いた。
入り口では受付みたいな所に沢山の人が並んでいるのが見えた。
町へ不審者等が入らない様に憲兵達がチェックしているのだろう。
(わあ、人が多いな~!やっぱり村とは違うな~!)
レンが町の入り口で人の多さに圧倒されている内に、馬車は行列の横を通り抜けて二つ並んだ大きな門の右側を入って行った。
(あれっ?)とレンが思っていたのが分かったのか、馬を操りながらエルベットが口を開いた。
「俺たちの入り口はこっちなんだよ」
そう言って少し先にある休憩所のような場所を指差した。
「今回はギルドの依頼で移動してるから、楽よね~♪」
レンの左に座っていたジスレットは、ひょいッと馬車から飛び降りた。
停まった馬車の横の扉を開けて、中に居るロドニエルへ声を掛けた。
「無事付きましたよ~!」
「おお、そうかそうか!ご苦労様!」
「やっと・・・着いた・・」
ジスレットの声を聞いて返事をしながら帽子をかぶり直して、ロドニエルが出てきた。
その後ろには、馬車の中で護衛任務に就いていたルネリが青い顔をして出てきた。
彼女は乗り物に弱いそうだ。
「ああ、うむ、そうだ。この3人は私の護衛として依頼した者達だ。この少年は、ここへ『洗礼』を受けに来たらしい。身元保証は私がしよう。必要書類は後で私が整えて届けさせる様にしよう」
担当者らしき憲兵とロドニエルは話している。
話し振りから、それなりに重要な役職に就いているのであろう。
「エルベット、ジスレット、ルネリ。3人ともご苦労だった。私はこの少年の許可証を貰ってきて、一緒に職業組合へ行くつもりだ。すまないが馬車はいつもの所に返しておいてくれ」
「分かりました。ではそのように」
エルベットがロドニエルに軽く頭を下げた。
「レン。用事が済んだら冒険者組合へ来なさいよ~!」
ジスレットがレンにウインクしながらそう言った。
「おおそうだ、時間があれば冒険者登録もしていけばいい。待ってるぜ!」
「うん・・待ってる」
エルベットとルネリもレンを誘っていた。
「分かった!後でね~!」
小さく手を振りながら、レンは3人が乗る馬車を見送った。
「では職業組合へ行こうか。どちらにしても『洗礼』を受けるのであれば、そこで職業登録証が発行されるから問題無いだろう!」
ロドニエルがレンの肩を軽く叩いてから歩きだした。
(良い匂いが・・・。あ、綺麗な帽子だ!・・あの大きな肉は何の肉だろう?)
レンの興味は尽きる事なく周りの誘惑に振り回されそうになりながら、何とかロドニエルについて行った。
町の中央付近にある丸い噴水を越えると人並みは少なくなってきた。
少しすると右手に白い大きな建物が見える。入り口の柱には見事な彫刻が施された建物だ。
「さあ、着いたぞ!」
中に入ってみると建物の割には大きくない部屋がある。待合室の様だ。
奥の扉が開いて一人の女性が出てきた。
「マスター、お帰りなさいませ!」
「ああ、クレマリー。留守の間ご苦労だった」
「特に問題はありませんでした。到着のお時間が少し遅かったので心配しておりました」
「うむ、ちょっとフォレストウルフの群れに襲われてしまっての・・」
「えっ!!・・それで、それでフォレストウルフはどうされたのですか?護衛の冒険者たちが?」
口に手を当て、驚きながらクレマリーはロドニエルに尋ねた。
「ああ、そこに居るレン少年に助けて貰ったよ」
「こちらの・・?少年に・・ですか?」
「初めまして、こんにちは!」
まだ不思議そうな顔をして状況が理解出来ないクレマリーに、レンは挨拶をした。
「レン少年は『洗礼』を受けにこの町へ来たらしい。私は急ぎの報告書を仕上げる必要があるから、クレマリー、悪いがレン少年の職業登録証発行の手続きを手伝ってやってくれ」
「は、はい!かしこまりました・・」
クレマリーが頭を下げる。
「では頼んだぞ」
ロドニエルは階段に向かって歩き出したが、ふと思い出したように振り向いて
「そうそう、レン少年。手続きが全て終わったら私の部屋に来なさい。今回の報酬を渡すから」
そう言い残して足早に階段を上がって行った。
「はい、分かりました~!」
*****
「じゅ、18匹━━━━━━━??」
レンが「私と一緒に来てね」と言ったクレマリーの隣で、ロドニエル達がフォレストウルフに襲われた時の状況を歩きながら話していると、クレマリーの叫び声が廊下に響いた。
「あっ・・・!?」
大きな声が出た事を自分でも理解したのか、クレマリーは顔を真っ赤にしながら俯いた。
「うん、後で数えたらそれだけ居たんだ!」
レンにとっては大した事ではないので、いつもの通りである。
「はあ、そうなのね。後でマスターにも聞いてみるわ」
「あのおじさんは偉い人なの?」
「えっとね、ロドニエルさんはここ、職業組合の一番偉い人よ!」
「へえ~、じゃあ助けて正解だったのかな?」
「うふふ、そうね。大正解よ!」
クレマリーに、レンは頭を撫でられていた。
〈『上級秘書官』・クレマリーノ能力ヲ吸収・・カンリョウ!解析・・カンリョウ!使用域ニホゾンシマス!〉
(あ、いつもの癖でスキルを発動しちゃった。『上級秘書官』って、何かそのまんまの様な気がするんだけど・・。ふふ)
「ご、ごめんなさい!」
「え、どうして謝るの?」
「馴れ馴れしく頭撫でちゃって。私の悪い癖だわ・・」
「別に気にしてないから。大丈夫だよ」
「貴方、優しいのね」
すると、目的の所まで来たのかクレマリーが立ち止まり扉を開けた。
「レン君。ここから入って突き当りの部屋に入りなさい。そこに『洗礼』を行ってくれる導師が居るわ。このカードを導師に渡したら、後は質問される事に答えていけば終わるから」
クレマリーは一枚の木で出来た薄いカードをレンに渡した。
「分かった!ありがとうクレマリーさん!」
「じゃあ、また後でね!」
「失礼しま~す・・」
クレマリーに言われた通り、突き当りの部屋へ入る。
薄暗い部屋の中央にローブっぽいものを着た一人の年配の男性が居た。
「ではカードをここへ置いて、こちらの椅子へお座りなさい」
そのままレンはカードを机の右に置き、手前の椅子に座った。
「よろしい。では、魔方陣が掛かれたその石板の上に左手を乗せなさい。そして目を瞑り、私の質問に正直に答える様に」
青白い石板の上に左の手の平を置き、深呼吸をしてから静かにレンは目を瞑った。
秘書のクレマリーはお姉さん気質ですね。




