8、「紳士と冒険者」
「町へは明日行くのであるか?」
「うん、早い方が良いと思うんだ。どんな職業を貰えるか分からないし。職業組合がある町までは飛んで行ったら20~30分くらいだからね」
15歳になった俺は、さっそく町へ行こうと思っていた。
職業を与えて貰える『洗礼』は、職業組合と言う職業安定所みたいな所へ行かなければならない。村の武器屋のおじさんに聞いたところ、住んでいる家から一番近い職業組合はサムスという町にあるらしい。
サムスなら、ザックが生きていた時に2回ほど行った事があったから覚えている。
「あ、でも町に着いてからはどれ位の時間が掛かるのか分からないけどね」
「では明日はお弁当を作っておくのである!」
「それは、楽しみだー!期待しておくよ」
「任せるのである!」
超特殊能力【イミテイト・ドール】が発動してから約3年、俺はスキルの理解度を深めると共に、ネイとの特訓で剣技や魔法を鍛えていった。
その間に村の全員と握手や他愛のないボディタッチ等を駆使(?)し、たくさんの能力を自分の中に溜めてみたけど、それほど大きな効果は得られなかった。
(ネイより強い人なんて居ないとは分かってるけど、使える能力ってなかなか見つから無いもんだよな~。ま、【イミテイト・ドール】の問題点も結構分かって来たしこれから使えそうな能力は溜めていけば良いや!)
ベッドに寝そべり、そんな事を考えていたらいつの間にか朝になっていた。
*****
「うむ、気を付けて行ってくるのである!これがお弁当である」
「ありがとうネイ!じゃ、行って来るね!」
ネイの作ってくれたお弁当を鞄に入れて、白い羽を生やしたレンは空へと飛んで行った。
そんなレンを、ネイは家の前でにこやかに見送っていた。
(さっさと終わらせて、帰ろうッと。そうだ、せっかく町に行くんだしネイに何かお土産を買って帰ってあげよう~!)
お土産を見て喜んでいるネイの顏を思い浮かべながら、町に向かって順調に飛んでいた。
「お、あれかな?」
石積みの壁に建てられたポールの旗が遠くに小さく見えてきた。
恐らく、町の入り口だろう。
「この分ならすぐに帰れそうだな。ん?あれは・・・?」
距離にして500m程の先、街道付近に何人かの人が集まっていた。
レンはその場所に近づいてみた。
「魔物?ああ、馬車もあるな」
遠かったし上からは見えにくかったが、3人の冒険者らしき人がフォレストウルフと戦っていた。
街道から少しそれた木陰に一台の馬車があった。おそらくその中に何か運んでいる物か、人がいるのだろう。
(フォレストウルフが・・・17、8匹か。とりあえず、加勢してあげようかな)
そう思ったレンは、上空から一気にフォレストウルフ目掛けて急降下していった。
「ほらよ~!!!」
「ギャウン・・・!!」
集団の中央付近にいた一番大きいフォレストウルフに蹴りを食らわし、その横に居た一匹は右手の拳で殴っていた。蹴りを食らわせた奴はすでに絶命している。
一瞬の出来事に、フォレストウルフ達も何が起こったのか分かっていない。
「珍しいな~。こんな多くのフォレストウルフの群れは初めて見たな~」
のんきに呟きながら、魔物たちを殴ったり蹴ったりして倒していく。
そして、数分後には倒されたフォレストウルフが山積みにされていた。
「これ位ならスキル使わなくても良いから楽ちんだな~。うん、なかなか良い感じの毛並みじゃないかな?これなら村の皆も喜ぶな!」
独り言を言いながら、手早く今倒したばかりのフォレストウルフ達を鞄へポイポイと放り込んでいた。
「す、すまない。き、君は一体?」
男の冒険者がそんなレンに近寄り、声を掛けてきた。
「ん?ああ、ごめんなさい。ひょっとしてフォレストウルフ欲しかった?」
「い、いやいや。それは、君が倒したものだから持っていってくれて構わない・・」
慌てて否定している男の後ろから、
「魔物を倒してくれてありがとう!あの数では、さすがに私達では太刀打ち出来ないところだったわ!」
弓を携えた金髪の女性が丁寧に頭を下げてきた。
「え、確かに数はまあまあ居たけど・・、フォレストウルフなんて大した事ないよ。お礼なんて良いよ~」
服の裾をパタパタ叩きながらレンは笑って言った。
「待ってくれ!!!」
軽く手を振りながら「じゃあね!」と言って立ち去ろうとしたその時、馬車の方から降りてきた紳士風の男性が大きな声を出してレンを引き留めてきた。
「待ってくれ、少年。私の話を聞いてくれ!」
町へ向かって走りだそうとしたレンに、その紳士は慌てた様子で近づいてきた。
「私の名はロドニエル。失礼だが、君はどこの町のギルドに所属する冒険者かね?」
「ギルド?何それ?成人したから、職業を貰うための『洗礼』を受けに町まで行くところだけどよく分からないな~」
「何と?これから受ける、という事はまだ職業も固有能力も持って無いというのか・・?」
「そうだよ~!」
持って無い・・・と言うのは嘘であったが、超特殊能力の事は話しても多分理解して貰えないだろう。自分が転生した人間である事や、ましてや女神の話しなんて誰が信じるだろうか。そう思って適当にごまかしておいた。
「それなのに、フォレストウルフをいとも簡単に倒してしまったのか?しかも一人であの数を・・」
まだ信じられないという顔で、顔を横に振りながらロドニエルと言った紳士は額に手を当てて呟いていた。
「私の名前はエルベット。いきなりの事でお礼も言わずに申し訳なかった。助力して頂き、本当にありがとう。」
いつの間にかレンの横に来ていた、厚い鎧を着た男がそう言って頭を下げてきた。
赤髪の、いかにも戦士っぽい風貌の背の高い男だった
「ルネリ。下級神官。どうも、ありがとう」
見た目少女の様な灰色ローブを着ている青い髪のその女性は、赤髪戦士の隣でペコリッ!と頭を下げた。
「私はジスレット。弓使いよ。君、強いんだね!!ホントに助かったよー!」
初めにお礼を言ってきた金髪の女性は、そう言ってまた頭を下げてきた。
「もし良かったら、君の名前を教えてくれない?」
「僕はレン。さっきも言ったけど、職業貰うためにサムスへ行く途中なんだ!」
にこやかに問いかけるジスレットにレンは答えた。
「おお、サムスへ行くのかね!!それなら私達に同行して貰えないだろうか?後1時間ほどで着くとは思うのだが、先ほどみたいにまた魔物が群れで現れるかもしれない。君が居れば心強いのだが・・。もちろん、町に着いたらちゃんと報酬は払おう。どうだろうか?」
一気にそう言って、ロドニエルはレンの目をジッと見ていた。
「一緒に行くの?いいよ~、それくらい。」
「そ、そうかね!いやあ、助かるよ。宜しく頼む」
レンの手を握りロドニエルはホッとした感じで笑っていた。
〈『豪商』・ロドニエルノ能力ヲ吸収・・カンリョウ!解析・・カンリョウ!使用域ニホゾンシマス!〉
レンは超特殊能力【イミテイト・ドール】の力でロドニエルの能力を吸収させて貰った。
全身にスキルを発動させると怪しいので、手の平の部分だけ発動させている。
3年間の特訓中に身に付けた技であった。
(へえ、『豪商』・・?初めて見る職業だな。能力は・・『鑑定』と『算術』?おお、『話術』もある。付与能力?何だろうこれは・・・)
「「「宜しく!!」」」
と冒険者たち3人とも順番に握手した。
(『重戦士』に・・『神官』。それから、『弓使い』かあ。へえ、エルフなんだね。ジスレットは)
この世界は人間にしか『職業』が与えられない。
その為、ジスレットが只の『弓使い』なのも頷ける事であった。
「さて、魔物がまた出ないうちにさっさと町へ行くとするか!」
エルベットが皆に声を掛ける。
そうしてレンは彼らと一緒にサムスへ向かって歩き出した。
少し長くなりました。




