19、「実技試験」
第一練武場はそれほど大きくないドーム状の建物だった。
(あ、中は結構快適な感じだな・・)
練武場・・という名前からは想像できない位、建物の中は快適な環境に保たれていた。
「へえ・・・ここは、何というか・・凄く快適な所だなぁ?」
「ええ、この建物自体は最新の魔導建築で設計されているの」
「魔導建築?」
「そうよ。魔力を応用するのは、戦いだけではないのよ。生活・・いや、人が生きていく事に関わる全ての事には『魔導』が関係しているわ」
「へえ、なるほど。初めて聞いた・・・」
この世界の魔力とは、前世での電気やガスみたいなエネルギー源にもなるという訳か。
「うふふ、そんなに面白い話でもないでしょう。初等教育で習う事よ?」
「最近まで山奥で暮らしてたもので・・・常識が無くてごめんなさい・・。」
「別に謝る必要はないけど。でも、この特待生試験には座学もあるわよ?大丈夫?」
「それは、たぶん大丈夫だと思うけど」
「面白い子ねえ」
話しながらも練武場の中にある円形の舞台に入って来た。
周りは全て観客席で、舞台の半径は30メートルくらいだろう。
物理的な近接戦闘なら十分な広さだ。
「さて、観客は居ないけど試験を始めるわね!」
カロリーネが出してきた右手を握って、握手を交わした。
(聖光騎士・・・。光属性か・・?槍が得意なのか)
「じゃあ、始めましょうか!」
カロリーネが軽く後ろに飛び退り、距離を取った。
「まどろっこしい事は無しよ。剣でも素手でも、魔法でも良いわ。とにかく私を倒してね!」
「じゃあ・・・お手柔らかに!」
「全力で掛かってらっしゃい!!」
(いやいや、全力は・・・ダメですよ・・)
アントゥスの『傭兵』ジョブを借りるか?
流石にレーナは上級ジョブになるから、簡単に勝っちゃうだろうか?
しかし、今まで対人(?)訓練はネイとしかやってないから、力加減がまだよくわからないんだよな。
とりあえず、それっぽい構えのまま少し考えて『体術』スキルを発動させる。
「じゃあ、行くよ!!」
真っすぐにカロリーネ向かって突っ込んでいく。
間合い二歩くらいの所でいつの間に持ったのか、カロリーネが長大な槍で俺のこめかみ目掛けて突いてきた。
しゃがんで躱す!『見切り』スキルが上手く発動している。
躱しながら、左拳をカロリーネの脇腹目掛けて叩き込む。
俺の左拳を右ひじで流すように捌いたカロリーネは、その反動を利用して後ろ向きに飛ぶ。
彼女を追う形で、その体に連続的に拳を叩きつける。
それらを受け流しながら、フワッとカロリーネの体は更に後ろの方へと飛ぶ。
「なかなかの攻撃ね!!」
追撃はせず、着地したカロリーネを見る。
着地を確認してから、再度、真っすぐに向かっていく。
今度は右手にショートソードを掴んで。
(とりあえず剣の方は自分の力で試してみるか・・)
抜き打ちの様に剣を振りぬく。
カロリーネはそれを槍で受け止める。
瞬間、カロリーネの背中に俺の右後ろ回し蹴りが迫るが、クルッと体を半分だけ回転させるとカロリーネはその蹴りを躱す。
躱しながら横に薙ぎ払ってきた槍をショートソードで受け止め、バックステップで距離を取った。
「貴方、本当に商人なのかしら?」
「うん、ジョブカードは間違いなく『商人』なんだよね~・・・」
「私も職業を全て理解している訳ではないけど、貴方の様な人は初めて見るわ」
「そんなもん?」
「ま、実力があれば何でもいいんだけどね♪」
彼女はウインクしながらそう言った。
「魔法も使えるのかしら?」
「攻撃魔法だね?扱える種類はそれほど多くないけど、使えるよ・・・」
「じゃあ、それも見せて貰っていいかしら?」
何が良いかな・・?
う~ん・・。ちょっと聞いてみよう。
「え~っと、ちょっと聞いても良いかな?」
「何かしら?」
「魔法の試験ではどういった部分を重視するのかな?強さとか、攻撃範囲とか?」
「そうね。こういうのは本当は言っちゃダメなんだけど・・・。魔法に関しては、魔力操作の上手さとか詠唱時間の長さとか・・・かな?」
なるほど。
という事は、攻撃力の強い魔法でなければならない理由はないので、重力系の魔法とかの方が魔力操作の上手さにはアプローチ出来るな。
「分かった!!じゃ・・いくよー!!」
よし。決めたぞ!
「いつでもどうぞ!!」
少し広めに間合いを取り、カロリーネ向かって立つ。
「インヘル・グラビティー!!」
右の掌を前に出して俺はそう呪文を唱えた。
直径50センチほどの黒い球体が現れる。
「え?無詠唱?・・・ちょっと何それ・・。」
カロリーネはかなり焦っている。
ボンッッッッッ!!!
球体はカロリーネ目掛けて一直線に飛んでいった。・・・はずだった。
「・・きゃ、きゃあぁぁぁぁ━━━━━━━━━・・!!!!」
その球体はカロリーネから1m程度横を凄いスピードで通り抜けると、そのまま観客席の下部分にある壁に当たる。
ブウウゥゥン・・という音と共にその球体は消えたが、壁はその球体の部分だけ抉られた様になっている。
カロリーネはその壁を見ながら固まっている。
「むう、調整が難しいな・・・。もう一回」
「い、いやいやいや、もう良いわ。大丈夫!合格ーーー!!・・・」
「はへっ?」
俺も間抜けな声を出して、固まってしまった。
右手は前に出したままだ・・。
「あ、あんなの当たったら、私確実に死んじゃうから・・・レン君」
「いや、大丈夫でしょ?」
「絶対無理だから!!!!!」
合格にしてくれるなら、別にいいか。
それにしても結構簡単な試験だったな。
カロリーネは凄く優しい試験管だったな。
「本当に、合格で良いのかな?」
「ええ、嘘は言わないわよ」
「良かった~。とりあえず安心した~」
「私が試験をした受験生で、貴方は初めての合格者よ!自慢しても良いくらいよ!」
「へえ・・」
それほど厳しくはなかったはずだけど。
「へえ・・って、信用してないでしょ?」
「あ、分かる?へへへ・・・」
そんなに重要な事でもないよなぁ?と思いながら、カロリーネから〈合格〉のハンコを押した受験票を受け取る。
よし、これで後は座学をこなせば試験は終わりだ。
あ、面接もあるって言ってたっけ?
「じゃあ後の試験も頑張って、是非学園に入学してね!」
「は~い、頑張りま~す」
そうして俺は第一練武場を出てからとりあえず初めの集合場所、中庭みたいな所へ戻って来た。
さあて、座学はちゃっちゃと済ませてしまおう。
こういう時は『商人』のジョブ特性活かさなきゃな!
でも、ロドニエルとクレマリーのスキルは利用させて貰おう。
(その方が確実だからね!)
そう俺は独り言ちて中庭の日陰で座学の対策を考じるのだった。
読んで頂きありがとうございます。




