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18、「受験生は大変なのね」

ナタリアーナは俺の前に立って額に手を当て、何かの呪文を唱えていた。

何かが頭の中に入って来る感じがする・・・。

浅い眠りに就いているような、不思議な感覚になっていた。


「・・いいわ。レン君、貴方の記憶を断片的にだけど、見させて貰ったわ」

「で、どうだったのお母さん?」

「ほぼ、話しの内容に嘘はないわ・・。でも・・」

「でも・・・?」

「『レン』という名前は嘘ね・・。本当の名前は、『レイノルド・フォン・スプリングフィールド』。スプリングフィールド伯爵家の息子さんね」

「え・・?」

アリューシャが驚いて、俺を見た。


「え~と、騙した訳じゃ無いよ?何者かに襲われた時に、助けてくれた爺ちゃんに名前を聞かれて『レン』と自分で答えたらしいだ。記憶が戻るまでそれで生活してたから、そのまま『レン』で通してるだけなんだよ」

「ええ、それも分かってるわ。でも、襲われた事と言い、貴方が貴族の息子である事は事実。この話しは簡単に決着出来る様な話しでは無いようね」


ナタリアーナは俺の中の記憶を見たらしい。超特殊能力スペシャリティ・スキルの事も分かったのだろうか?まあ、知られてもどうって事はないのだが・・。

でも、記憶を見る事が出来るのか・・。どのスキルをどう使うのか聞いてみたいところだが、今は話しに理解を示してくれただけで良しとしよう。


ただし、とナタリアーナは言葉を続ける。


「アリューシャの事、私の事。そしてレン君、貴方の事もね。今は、全ての話しは3人だけの秘密。良いかしら?」

「わかったよ!」「ええ、分かったわ!」

俺とアリューシャの返事が重なった。


「試験に私は口出し出来ないけど、頑張って合格してね。貴方になら、娘を任せても良いと思うわ」

ナタリアーナは微笑みながら、俺に向かってそう言ってきた。

「落ちるつもりはないけどさ、いきなり娘を任すって、どうなの?」

「ふふ、そうね♪」


何となく揶揄ってきたのかな?

でも何処となく嬉しそうなナタリアーナの様子を見て、俺はホッと胸を撫でおろした。

一時はどうしようかと思ったが、何とか二人の気持ちが落ち着いて良かった・・・。


「レン、そろそろ時間だから行こう!」

「ああ。じゃあナタリアーナさん・・いや、学園長。失礼します!」

「ええ、二人とも頑張ってらっしゃい!」


軽く頭を下げて、俺達は学園長室を後にした。 



  *****



「ザック・・・」

その名前を呟きながら、窓から校庭を見下ろしていた。

レンの記憶を辿って見た時に、ナタリアーナは思いがけない人物の存在を知った。


「レン君を助け、育てたのがザックだったなんて・・・」


先の大戦からもう既に200年以上経っている。

今の時代の人々はほとんど、その戦いの事は物語くらいにしか知らないはず。

レン君はその大戦の事すらも知らなかった・・、記憶の中にも・・。

ザックにしても、その様な人類と魔王国との血生臭い戦争の歴史を教える必要性を感じなかったのではないか・・。

しかし、彼がこの学園に入学して座学を通して学んでいけば、いずれその大戦は知る事になるはず。


「レン君には教えてあげるべきなのかしら・・・」


ザックは、先の大戦では勇者を助けるパーティーメンバーである魔法剣士だった。

そして・・・、自分もそのパーティーに居た『魔導士』の一人である事を。


「でも・・、ザックの加護って・・笑っちゃうわね・・」


ザックが導かれ天に召された時の記憶から、神になったザックがレンに加護を与えている事は理解できた。

何せザックは先の大戦の『英雄』なのだ、神になる資格は十分にあると思っていた。


「やっぱり、縁っていうものかしらね・・私たちって。ねぇ、ザック・・・そう思わない?」


ナタリアーナは何となく可笑しくなって、ふふふっと口に手を当て笑っていた。


「魔王の血と、英雄の加護・・・。200年続いた平和にも、何かしらの変化が訪れる時なのかしら・・。やはり、準備だけはしておかなければ・・・」


そう言ってナタリアーナは校庭に目をやると、また嬉しそうに目を細めた。



  ***



「もう、いきなりあんな事言うとは思って無かったわ!!」

「え、何の事?」

「ま・お・う、の事よ!!」

「あ~、それね」

「お母さんはああ見えて、この国では比肩する者が居ない程の”大”魔導士なのよ!そんな人をあれだけ青褪めさせるんだから、貴方も大したものよ!」

「ああ見えて・・って、どういう意味か分からないけど、凄い人だなってのはすぐ分かったけど?」


アリューシャが少し拗ねた様に言ってくるので、適当に相槌を打ちながら俺たちは階段を下りていた。


『・・・では、これから番号を呼ばれた方は・・・・』

少し遠くから担当らしき人の声が聞こえる。


「ヤバい、急ごう!!アリューシャ!!」

「ええ!」



校舎の正面から入った中庭の様な所に30人ほどの受験生が集まっていた。


「結構受けるんだね?」

「当り前よ~!だって特待生で合格したら、3年間は授業料免除されるんだもの!」

「へえ~、そうだったのか・・」

「ひょっとして貴方、知らなかったとか言わないわよね?」

「いや、全然知らなかった」

「はぁ・・・」


アリューシャは、あり得ない!みたいな感じで両手をあげていた。


「でも、アリューシャは何で特待生で受けるんだ?」

「私は一応、〈魔導士〉枠で入学は決まっているんだけど、折角こんな制度があるんだから受けなきゃ損じゃない?だからよ!」

「ああ、なるほどねー。そういうのもあるのか・・」


この世界でも色々とあるんだな~・・。

どこでも受験生は大変だな~。

でも、これは合格しなきゃレーナさんに申し訳ないよな~。

と、どうでも良い事を考えていた。


『では、職業(ジョブ)別に試験会場へと移動してもらいますので、戦士・騎士系は1番、魔法・神官系は2番、特殊系は3番、その他の方は4番の番号札の下へそれぞれ移動して下さい!!』


担当者の声で受験生たちが一斉に動き出した。


「あ、レン。私は魔法系だから・・。頑張ってね!」

「ああ、アリューシャも頑張ってくれ!」

「ええ、全力でいくわ!」


アリューシャと軽くハイタッチを交わして、俺は4番の札の下へ移動した。


移動したのは良いんだが・・・。

なんだ?俺一人しかいないじゃないか・・。

戦士や魔法系がほとんどだったが、それは分かる。

特殊系って何かは知らないけど、それでも・・4人もいる!

それなのに・・・『その他』は俺一人だと?


「あら?4番に人が居るなんて、珍しいわね~!」


顔の小ささに不釣り合いな程の眼鏡を掛けた女性は、そう言いながら俺の方へと近づいてきた。


「今回の試験を担当するカロリーネよ。宜しくね!」

「は~い、レンです。よろしくお願いします」

「レン君ね。貴方の職業(ジョブ)は何かしら?」

「商人です」

「え・・・。えっと・・もう一回言ってくれる?」

「商人です!!」

「そ、そう・・。商人・・」


何だ?俺が商人だと言った途端に元気が無くなったぞ?


「あの、この学園の決まりでね、入学試験はみんな平等なのよ」

「えっ?というか、試験ってそういうものじゃないの?」

「わ、私も試験管である以上は、手を抜く事は出来ないので・・・」

「もちろん!僕も頑張るから、手を抜かなくても良いよ!」

「そ、そうよね。とにかく、頑張って!私が言うのも変だけど・・・」


この人はやたらと試験管らしくない人の様だ。

まあ考えても仕方ない。

この人が試験をしてくれるという事なら、ちゃんと評価してくれることだけを祈ろう。


「貴方一人だけしか居ないから、そこの第一練武場でいいわね」


俺はカロリーネ試験管に付いて歩いて行った。


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