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まさかのさかな やりなおし  作者: 岩岸佐季
第一章 海王のしっぽ
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往診

「長老、ホンソメワケベラさんたちにご挨拶に行くのじゃが、何をお土産にもっていけばいいかのう」

「お土産? なんだい、その、お土産っていうのは」


 おみやげは不要じゃった。

 というかそもそも、魚たちにお土産という習慣はなかったのじゃな。

 うなぎ長老に相談をした結果、わしはそういうふうな結論にいたった。



   ゅ゜



 かくして、わしがひとり(いっぴき?)、ホンソメワケベラさんたちの住処へ向かって泳いでいると、通りがかりのさかなに声をかけられた。


「あれ? も、もしかして、先生!? 青先生じゃありませんか!?」


 白い小魚じゃ。種類はわからんが、きれいな模様をしておる。

 わしをなにか、妙なものを見るような目で見ておるのが気になるが……。

 わしも、返事をする。


「こんにちは」

「こ、こんにちは! ええと……なにを、されているんですか? こんなところで」

「うん? なに、今日は休暇なんじゃよ。じゃから、日ごろお世話になっている、ホンソメワケベラさんたちに、ご挨拶をと思ってな」

「ホンソメワケベラさん、ですか?」


 白い小魚は、うーん? と、困ったような顔をする。


「あのう、この先に、ホンソメワケベラさんたちはいませんけど」

「むむっ?」

「あのう、ホンソメワケベラさんたちが住んでいるのは、コロニーの南のほうのはずです」

「ふむ。わしも、ホンソメワケベラさんたちは、南の方に住んでいると聞いておるが」

「あのう、ここ、ステーションの、北です」


 なんと。

 なんということじゃ。

 まさか、わしとしたことが、うっかり道を間違ってしまったらしいのう。

 恥ずかしい。


「しもうた。間違えてしまったようじゃわい。親切な魚さん。教えてくださって、ありがとう」

「え……いえいえ。あのう、もしよかったら、南までご案内しますけど」

「むむ」


 親切な魚さんは、なんと、案内の申し出までしてくださる。

 ありがたいことじゃ。

 しかし、どうしようかのう。


 ここから南に向かっても、ぐるりと一周して最後は北に来るつもりだったのじゃから、結局時間の無駄遣いになってしまいそうじゃ。

 ここは、当初の予定とは逆に、北のほうから、コロニーを反時計回りに、ぐるりと南下するのがいいかもしれん。

 となると、むしろ、


「お気持ちはありがたいが、わしは北の方にも用事があってのう」

「えっ」

「ところで、おぬし、このあたりに住んでいる魚さんじゃろうか」

「あっ、はい。このあたりに、住ませてもらってます。すみません」

「む? いや、住むのは自由じゃと思うが。それなら、ひとつお願いがあるんじゃよ」

「な、なんでしょう。ぼくにできることであれば、なんでもしますよ!」

「いやいや、そんなに難しくはないんじゃ。このあたりを案内してもらえないかと思うんじゃが……」

「!? えっ、このあたりを、ですか!?」

「ああ。いや、忙しければ、無理にとはいわんぞ」


 なにやら、驚いておるの。

 わしがこのあたりに来ると、そんなにおかしいんじゃろうか。

 白い魚は、慌てたように言う。


「も、もしかして……」

「む?」

「先生は……このあたりに、お、往診に来てくださった……とか!?」


 そして、妙に熱の籠った目で、こちらを見る。

 往診。

 はて、どういうことじゃろうか。



   ゅ゜



 白い小魚さんは、ナノと名乗った。


「ぼくと、ぼくのお母さんは、遠くの方からきたんです。ここにくれば、お医者様がいるって、聞いたので」

「しかし、おぬしは往診をしてほしいと願って居る。ふむ。つまり」

「ええ。ぼくたちは、小さな魚なので、お医者様にあっていただけなくて……元いたところでも、そうだったんですけど」


 そうか。

 海は、弱肉強食。

 そして、ここには多くの大型の魚が集まる。自然と、ナノのような小さな魚は「順番」がもらえなくなってしまうのじゃろう。

 うかつじゃった。

 たしかに、考えてみれば、おかしなことではない。《クリーナー》たちと比べれば、そうでない魚たちのほうが、はるかに多いのじゃから。

 ましてや、遠方から来たとなると……。


「それでも、もしかしたらと、望みを捨てきれずに」

「ふむ。まあ、診るだけであれば、わしでもできるのう」

「本当ですか!?」

「とはいえ、わしは神ではない。患者を確実に助けられるとは、限らんぞ」

「はい! それはもちろん覚悟しています! どうか! どうかお願いします!」


 聞けば、最初に案内を申し出たのも、わしに恩を売って、なんとか診療をしてもらおうということだったらしい。

 うーむ。

 これだけ切実にお願いされては、まさか無碍にはできん。

 ひとまず診療だけでも、わしにできることがあれば、ひとまずやってみるべきじゃろう。


 しかしじゃ。

 果たして、それだけで済むじゃろうか?


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