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まさかのさかな やりなおし  作者: 岩岸佐季
第一章 海王のしっぽ
11/16

大牙

 ギャング。


 わしも、映画では見たことがある。

 銃を撃ったり、違法な薬物を売ったり、時には人様の物品を壊したり略奪したりする、荒くれどものことじゃ。

 日本風に言えば、筋者のことじゃな。

 まさか、そんな奴らが海におるとは思っておらんかった。


「先生、頼みます。息子を、息子を助けてやってくだせえ!」


 そこにおったのは、真っ黒なさかな。

 大蛇のような長躯。わしらを一飲みにできそうな顎。ぎょろりと身体から飛び出た灰色の眼球。

 そして、まるでタテガミのような背ビレ。


「オオカミウツボ……」


 エビさんが呟く。

 たしかに、ウツボじゃ。あのタテガミといい、牙といい、オオカミを連想させる。

 オオカミウツボ、なるほど、適当な名前じゃのう。


 凶暴そうじゃ。噛まれたらさぞ痛かろう。

 わしくらいのサイズだと、痛みを感じる間もなく、お陀仏かもしれんな。

 しかし、これがウツボというものか。わしの知っておるウツボは、もっとおとなしくて小さいやつだったんじゃがのう。

 ……などと、どこか現実逃避したことを、わしは頭のどこかで考えておった。


「つまり、オオカミウツボさん。あなたの息子さんがご病気で、それをわしらに助けてほしい、ということですかのう?」

「ああ、そうだ!」


 オオカミウツボは吠えるように答える。

 なるほど、わしらは医者ドクターと呼ばれておるからの。助けを求めにくるのは、それほどおかしなことではないのかもしれん。


「この辺りは医者が少ないんでさあ! でも、最近腕のいい先生たちが来てくれたと、噂で聞きやして! なんとかお願いできやせんか!」


 噂……。

 やはり、この場所は噂になっておったようじゃの。


「それで、息子さん……患者さまは、どちらにおられるのかのう」

「俺の家でさあ! 見てもらえるんで!?」

「まあ、患者がおるというのなら、是非もないのう。じゃが、わしらに治せるとは言わん。それでもよければ、案内をしてもらおうかの」


 オオカミウツボは、歓喜に吠えた。



   ゅ゜



 わしは、オオカミウツボに連れられて、彼の住処に向かうことにした。

 白さんもついてきたがったが、お願いして、コロニーで留守番をしてもらっておる。

 わしらを目当てにくる客も多いからのう。

 黒も一緒に留守番じゃ。まだ小さいからの。


 白さんは、「青さん一人では危険です!」と言っておったが、なあに、海はもともと、どこも危険なものよ。


「ところでのう。オオカミウツボさんや。わしは、あんたのことを何と呼べばええんじゃろうか」

「俺の通り名は《大牙》だ」


 わしが質問すると、オオカミウツボは、そう名乗った。


「《大牙》、というのは……俺の、この牙が由来なんで。ちょっとした自慢なんでさあ。この牙をもってすれば、この海原に、俺様のかみ砕けねえものはねえ」

「ほう。すごいのう」


 すごい自信じゃ。


「ウニや貝もか」

「おう。俺様の好物だぜ」

「珊瑚でもか」

「おう、バリバリかみ砕いてやるぜ」

「岩でもか」

「この俺の牙にかかれば、なんてことないさ」

「じゃあ、ウミガメの甲羅はどうじゃ」

「フン、あんな甲羅、俺様にかかればカニと同じよ」

「ほおう。じゃあ、クジラはどうじゃ。皮膚が分厚くて、食いちぎれんのと違うか」

「く、クジラなんて、昨日、お、おやつにしてやったぜ」


 ほう。

 なかなか、勇ましいのう。最後のほうは、だいぶ怪しかったが。


「わしらのコロニーのことは、どこで聞いたんじゃ」

「うん? 色んなところで噂を聞いたな。どこへ行っても、新しい《病院》ができたって、その話題ばっかりだったぜ」

「ほう。だれが話を広めおったんじゃろうな?」

「知らねえけど。ウワサクラゲのやつらじゃねえのか。あいつら、ウワサが大好きだからな」


 ウワサクラゲというのは、なんじゃろうな。

 わしはそれらしきクラゲを見たことがないが……。名前からして、ウワサが好きなんじゃろうなあ。


「わしや、えびさんの名前もかい」

「おう。俺は《青》と《白》って二人の名医がいるらしいって聞いたな」

「言っておくが、わしは、たぶん、ふつうのハゼじゃぞ。息子さんのことも、診察はするが、治せるかどうか、確約はとれん」

「いいさ」


 《大牙》はそこで真剣な表情になった。


「おれたち魚は、病気になったら、あとはふつう、死ぬしかない」

「まあ、そうじゃな」

「先生たちの病院で治してもらった魚の話も、たくさん聞いた。だから分かる。先生に治せないとしたら、ほかに息子を治せるやつは、このあたりの海にはいねえよ」


 切実な目をしておる。


「過度な期待は、せんでくれよ」


 わしとしても、治せるもんは治してやりたい。

 しかし、いまのわしは、ただの魚にすぎんのじゃ。

 ただ、少しでも患者を楽にすることはできるかもしれん。わしにできるのは、せいぜいそのくらいじゃ。

 《大牙》の期待に沿えるとは、正直、このときはほとんど思っておらんかった。


「息子さんの症状は、どんな風なんじゃ」

「からだに、変な模様がついていやがる。泳ぐのがつらそうでな。今は俺の家で、安静にさせているよ」


 俺にはどうもしてやれねえ。

 つらそうに、《大牙》はそう言った。

 あとは黙って、わしと《大牙》は二人で進んだ。


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