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まさかのさかな やりなおし  作者: 岩岸佐季
第一章 海王のしっぽ
10/16

日常

 しばらく、のんびりとした日々が過ぎた。


 医者と呼ばれていることが分かったとしても、わしがやることはこれまで通り、ただ食うだけじゃ。急に意識が変わるというものでもない。

 まあ、これまで以上に、丁寧な仕事を心がけるようにはなったがのう。


 コロニーは、とても繁盛しておる。

 毎日、数え切れないほどの魚がやってきては、ワケベラさんたちに群がられて気持ちよさそうに洗われておるよ。

 弱肉強食の海の中とは思えないほど、のどかな光景じゃな。


 わしと、白さんの担当は、日に何度かやってくる、大型の魚じゃ。ここらのヌシと呼ばれる有力者たち。

 それを、丁寧に、時間をかけて、クリーニングしてやるのじゃ。


 ときおり、魚以外の者もやってくる。

 亀だとか、ウミヘビだとか、それ以外にも、魚とは思えないような不思議なフォルムの生き物じゃ。

 そういうときはたいてい、わしらが対応することになる。


 そうそう。黒もおったな。

 黒は、小さいのに、コロニーの中でも随一の働き者じゃ。

 育ち盛りだからなのか、あちこちで、ワケベラさんやわしらを手伝ってくれておる。

 一日中、クリーニングしっぱなしなのじゃ。

 無理しすぎてはおらんか、気にしてはおるが、どうやら本人は楽しそうなので、いまはありがたく手伝ってもらっておる。


 とにかく、そんな感じで、平和な毎日を過ごしておるよ。



   ゅ゜



 毎日毎日、魚たちをクリーニングしておると、こころなしか自分の腕がよくなったような気もする。

 まあ、魚だから腕はないんじゃがな。比喩表現じゃよ。


 いまも、ほれ。

 この隻眼のオニオコゼなど、明らかに堅気ではないとわかる、その筋のオーラがただよっておったが、わしが掃除をしはじめたとたん、だらしなく蕩けておる。

 どうにも、わしには魚を気持ちよくさせる、つぼのようなものが、わかりはじめてきたかもしれんよ。

 気分はまるで鍼灸師じゃな。



   ゅ゜



 そういえば、長老と話した後、白さんにも、わしら二人が名医として扱われておるらしいと伝えた。

 すると、白さんは何やら恥ずかしがるようにいえの中に引きこもっていき、数時間後にやたらやる気を溢れさせて砂から飛び出してきおった。

 なんでも、


「これは大変なことです! エビの誉れです! いただいた称号に恥じぬ仕事をせねば!」


 ということらしい。

 生真面目で、まっすぐな性格なのじゃな。

 白さんらしくて、微笑ましいわい。


 そんなわけで、わしだけではなく白さんも毎日、仕事にいそしんでおる。

 わしに負けず劣らず、白さんの腕はいい。お客さんも嬉しそうじゃ。


「いいえ、まだまだ、青さんにはかないませんよ」


 白さんは謙遜してそんな風に言うが、白さんの方が好きな客も増えておるのじゃよ。

 特に、いくつもの足で丁寧に汚れをこそぎ落とすのが、評判がいいみたいじゃな。


 ん?

 おお、黒。

 おまえも、白さんのまねかい。

 ふふ。

 そうか、がんばって、良いクリーナーになるんじゃよ。

 まあ、おまえは小さいし、前足がまだ柔らかいから、完全にまねるのは難しいかもしれんがの。



   ゅ゜



 それにしても、わしらの客は、ほんとにこのあたりの有力者なのじゃなあ。

 今日のお客さんも、見事に巨大魚しかおらん。


 この赤目さんもそうじゃ。

 大きすぎて、わしから見れば、まるで怪獣ではないか。

 どれどれ。

 うむ。唇に虫が食いついて、口内炎になっておるのう。

 待っておれ。取ってやろう。

 もぐもぐ。

 うむ。これぞ、食餌療法。

 まさしく医食同源じゃ。

 もぐもぐ。


 そんな風に客のクリーニングをしておると、アジが一匹、慌てた様子でやってきた。


「青さん。あっ、白さんも、ここにいたんですね」


 ただごとではない様子じゃ。

 なにか、緊急事態かのう。


「どうしたんです、アジさん」


 白さんも、手を止めて、こちらへ来た。

 アジの様子が、尋常でないのう。何事じゃろうか。


「大変なんです。ここに、ギャングが来てしまいました」


 えっ。

 ギャング、じゃと?


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