プロローグ
おぼろげに声が聞こえる。
「おじいちゃん……聞こえる? ソウシくんも、ミヤちゃんも来てくれたよ」
おお、ソウシ、ミヤ、わざわざ来てくれたのか。
すまんのう、ありがたいのう。
どうやら、わしは幸せに死ぬことができるみたいじゃ。体はどこもかしこももう、動かんが、礼を言わねばのう。
もごもご。
おお。
どうやら、口も動かんようになってしもうたわ。
ほんとうに、どうもこれは、寿命というやつじゃな。
「おじいちゃん……」
娘の声が聞こえる。この声は長女かの。
悲しい声を出すでない。それにお前だって、そう遠くないうちにこっちに来るじゃろう。
長女はわしが三十のときにできた子じゃった。
最後に見た記憶では、娘も老けて白髪じゃったわ。
つらい介護をさせてしまってすまん、ほんにすまんのう。
それにしても、あんなに可愛かった娘が白髪になるんじゃから、わしもとっくに死んでかまわん頃に違いなかろう。
にぎってもらっている手の感触が、次第に、ふやけたように失われていく。声も聞こえなくなる。
どうやらお迎えが来たようじゃ。ばあさんや、わしもお前さんのところに、ようやくゆけそうじゃよ。
じゃあのう。
もう、娘の名前も、孫の名前も、教えてもらえんと分からなくなってしもうたが。
わしはいつまでもお前さんたちの幸せを祈っておるよ。