倉敷美観地区
岡山で迎えた冬休み2日目の朝。
「1秒も遅れず、起きてきたことを高く評価しましょう」
時間に厳しい美冬さんは、全員が7時前に集合していたことを、嬉しそうにしていた。
「みんなはしゃぎ過ぎて、夜通し起きていたのか? 来たばかりだと言うのに、すでにお通夜みたいな状態だな」
真彦さんの言う通り、俺たちはほとんど寝ていない。ぐっすり寝ていたのは、マイペースな菜摘ぐらいだ。
BLのネタにされないため、俺は真彦さんと共に、近くのコンビニに行き、そして戻って来ると、家の中では女子たちが入浴の順番で揉めていた。
それを決めるために、各自の得意分野、スモモンの対戦や、ババ抜きなどで勝負をしていたら、結局風呂に入れず、菜摘以外の俺たちは一徹してしまい、目の下に隈を作り、動きの襲いゾンビが朝食を食べているような光景になっていた。
「グループ分けは、こちらで決めさせていただきました」
俺、葛城、そして紫苑の3人グループが今日は観光する事になり、菜摘、木村、中村、田辺の4人が今日のお店のお手伝いをする事になり、朝食を1秒も遅れることなく食べ終えて、今日観光するグループは、昨日乗った、真彦さんのワゴン車で移動する事になった。
「うふふ。よろしくね、松原君」
「よろしくなのですよ~」
今日、俺と行動する葛城と紫苑は、共に俺に好意を寄せているので、とても嬉しそうだ。それに、未踏の地を旅行するから、気分が高揚しているのかもしれない。
「松宮さんたち、大変そうね」
真彦さんが運転するワゴン車の中で、葛城はそう呟いた。
お店の手伝いをする菜摘たちのグループは、朝食を食べ終えた後、すぐに美冬さんに店舗の中に案内され、軍隊のような発声練習をされていた。どこまで手伝いをされるのか分からないが、再び合流した時には、げっそりしているかもしれない。
「松宮さんのお父さん。今日の日程を教えていただけますでしょうか?」
「まずは倉敷の市街地の方だな」
葛城が先日言っていた、倉敷には美観地区と言う場所があると言っていた。どういった場所かは分からないが、真彦さんが最初に連れて行くという事は、それなりに有名で人気がある場所なのだろう。
児島から30分ほど。俺たちは最初の目的地、倉敷市の中心部にある、美観地区にやって来た。
「ここだけ、江戸時代が続いているのでしょうか~」
紫苑がそう言って驚くのも分かる。この一帯だけ時間が止まっているような、時代劇で見るような景色が広がっている。川を挟んで建物が立ち並んでいて、建物から侍や着物を着た女性が出てきて、歩いていそうだ。
「そうかもしれないわね。この一帯は最先端の流行、技術を取り入れているみたいで、異国のお菓子、ソフトクリームを売っていて、電子決済にも対応しているみたいよ」
「そうなのですかっ!?」
葛城の冗談に、紫苑は信じてしまい、驚愕していた。
「まあ、普通に車も通っているからな」
「二十一世紀の日本だもの」
たまに軽自動車も通るし、外国人観光客もいるし、道路標識もある。まあ、和風の雰囲気は味わえると言う、外国人には受けそうな名所だ。
「舟、乗るか?」
真彦さんは、川岸に泊めてある、渡し舟のような小さな舟を見ながら、そんな提案をしてきた。
「あれ、乗れるのですかっ!?」
「予約制だけどな。浅草の人力車のように、違った目線で、この辺りを楽しめると思うぞ」
「乗りたいのですよ~っ!!」
小さな子供のようにはしゃぐ紫苑。そんな光景を見てしまっては、俺たちは断ることが出来ず、みんなで舟に乗る事になった。
「高村さん。今、何月だと思う?」
本当は葛城は反対なのか、真彦さんが予約しに離れた後、紫苑にそう問いかけていた。
「12月ですよね。もうすぐクリスマスがあるので、今からとっても楽しみなのですよ~」
「そうね。リア充がカラオケ行ったり、家でクリスマス会を開いて、それをSNSに乗せて、楽しんでいるアピールをする、陽キャが一番盛り上がっている中、私たち陰キャには、現実を打ちのめされて、陽キャを妬ましく思い始め、町中から流れてくるクリスマスソングも、呪詛に聞こえ始め、段々と死にたくなってくる日がある、それと寒いのが12月よ」
「クリスマスって、そんな怖い日じゃないですよっ!?」
葛城が、クリスマスに嫌な思い出もあるのか。親の仇のような感じで、クリスマスを批判していた。
「12月も下旬。先日だと、東京では雪が降ったわ。そんな寒い日々の中で、わざわざ寒い思いして、舟から景色を見たいと思う?」
葛城は、ただ単に寒いから乗りたくないという事らしい。確かに、川の上からだと、道の上にいるよりは寒いかもしれない。
「ちっちっち。果歩ちゃん、甘いのですよっ!」
勝ち誇った顔で、紫苑は急に俺の腕に抱き着いた。
「寒かったら、こうやって抱き合えばいいのですよ。クリスマスをそう思っているから、果歩ちゃんにはこう言った発想が出て来ないのですよっ!」
「うぐっ……」
紫苑に論破されてしまった葛城は、膝を着かせて落ち込んでしまったと思ったら、今度は葛城は不気味に笑い始めた。
「……高村さんこそ甘いわ。……よく舟を確認してみたら? 定員は6人、つまり私、高村さん、松宮さんのお父さん、もしくは全く知らない人と松原君は相席になるわ」
船頭と船尾に一人ずつ、舟を漕ぐ係の人がいて、そしてお客は真ん中に小さなベンチみたいなところ座って遊覧する。定員が六人になると、俺は紫苑か葛城、真彦さんとしか相席になれないという事になる。
「なるほどなのですよ。つまり、乗る時間までマロンの隣の座をかけた勝負をしようと言うのですね? いいのですよっ! 例え果歩ちゃんでも、情けも容赦もかけませんよっ!」
新幹線の中のババ抜きのように、お互いに火花を散らす紫苑と葛城。この二人は仲が良いのか悪いのか。本当によく分からない関係だ。




