喧嘩のちゲーム
「朝だよ~。ヒロ君~」
「……2日連続、早朝に起こしに来るな」
日曜日。今日は俺の家で4軍にならない為に、テスト勉強することにして、菜摘、楠木を招待したのだが、案の定、菜摘はこんな朝早くでも凄く元気そうだった。
「ヒロ君見て見て。ヒロ君のリクエスト通り、今日もミニスカート、そしてニーソだよ~」
「……まだ朝の4時だと言うのに、よく元気に服装の自慢が出来るな」
まだ日が昇っていないと言うのに、菜摘はワザとパンチラをさせるような、少し大げさにスカートを翻して、スカートとニーソで出来た絶対領域を俺に見せつけていた。
今日の菜摘は、昨日の服と色違いと言ったところか。
白の生地に、黒の横線が数本入ったTシャツ。水色のスカートに黒のニーソだった。昼間ぐらいに起こしに来ていたら、俺は菜摘の頭を撫でてやったのに。
「……可愛い。……だから、俺をしばらく寝かせてくれ」
「それは無理かな?」
なぜ菜摘の方に権限があるのか。文句を言おうとした時、菜摘は俺の顔に急接近させ、ここで『ずっと菜摘のターン』を発動していた。
「こんな時間に一人にさせるなんて、私はすごく寂しいよ?」
「だったら、こんな時間に来ないで、家帰って寝てろ」
「眠いのなら、ゲームをしようよ」
俺の意見は無視して、今度は俺の部屋に置いてある、テレビゲームを指さしていた。
眠いと思いながらゲームなんてしたくないんだが。ゲームと言うのは、やりたいときにやって、楽しくやるもんだ。
「スマシスで私に勝ったら、ヒロ君のお願いを聞いてあげる。私が勝ったら、私のお願いを聞いてくれる?」
スマシス。スマッシュシスターズって言うゲームの略称なんだが、ただ単に4人のキャラと戦い、最後までステージに残っていたものが勝ちと言うゲーム。
「嫌だ。俺は眠いんだ。だから寝る」
「逃げるの?」
菜摘に構わず、布団被って寝ようと思ったら、菜摘は少し小悪魔的な表情な顔で微笑んでいた。
「男が逃げるなんて、私はそれでもヒロ君は好きだけど、楠木さんにとっては、マイナスポイントになるよね? せっかく私以外の女の子と仲良くなれたと言うのに、ここで嫌われちゃって良いの?」
「……それは」
凄く気の合う女子。好みも合う事が多く、そしてとても可愛い美少女にあだ名で呼ばれ、好意を持たれている楠木を、ここで嫌われるのは嫌だ。
「私はどっちでもいいんだよ? ヒロ君が楠木さんに嫌われちゃっても、私はヒロ君の事が好きだよ? 嫌われてヒロ君が慰めて欲しいと言ったら、私はヒロ君をいつまででも慰めてあげる」
「そんな言い方は無いだろ」
今の話だと、ただ楠木がいなくなってくれれば、菜摘は以前通りに俺と二人でいられる時間が増える。そう遠回しで言っているようなものだ。
「菜摘。そんな事で俺に好かれたいか? 姑息な事で俺が菜摘の事を見直すと思うか? 男は見た目だけで判断しているんじゃないんだぞ。菜摘とは正反対の、ちゃんと他人を思いやれる心がある女の子に惹かれるんだよ」
そう言ってから、俺はゲーム機を起動させ、朝の4時半にゲームをすることになったのだが。
「菜摘。ゲームの勝負、賭けには乗ってやる。手加減無しでやるからな」
「……」
俺の横に座った菜摘は、いつもより俺と距離を取って、それで俺とは目を合わせようとはせずに、無言でゲームのコントローラーを握っていた。
「……怒っているのか?」
「……さあ」
ああ。これは菜摘は怒ってしまったようだ。
以前、楠木に対して怒った、にっこりしているが、目を微かに開けて目は笑っていない、口の口角が吊り上がっているのは、あれは本当に怒っている時、他人に怒る時の姿。
それで、俺と少しだけ距離を置き、目を合わせない、素っ気ない言葉になるのは、菜摘が俺に対して怒っている時の行動だ。
「さあ、やってやろうじゃないか」
「……」
早朝に俺と菜摘はスマシスで戦うことになったのだが……。
『YOU WIN!』
「……私の勝ち」
やっぱり勝てなかった……。
昔からあるこのスマシス。ずっとやっているが、俺はどうやっても菜摘には勝てない。ゲームはこれ以外やっていないらしく、ほとんど素人のような感じだが、菜摘は異様に強い。
「で、何をお願いするんだ? 願いは聞いてやるよ」
俺も全力でやった。だから約束通りに菜摘にそう聞くと、菜摘は立ち上がり。
「……後で言う」
これは本当に怒っているようだ。
俺とは目を合わせず、そして俺の部屋から出て行き、そのまま家の玄関の扉が開き、そして玄関の扉が閉まる音が聞こえた。
どうやら、自分の家に帰ってしまったようだ。
「……やっと寝られるな」
俺は乱暴に放置された菜摘が使っていたコントローラーを片付け、ゲームの電源を切って、ようやく寝ることが出来た。
「……寝られねえ」
ゲームをしたからか? それとも菜摘に起こされて結構時間が経ったからか?
それとも、菜摘と喧嘩したからか……? いやいやいや! それはない。菜摘は可愛くて、俺に懐いている幼なじみってだけだ。決して恋愛として、俺は菜摘を見ていない。
「……ああ、クソっ!」
菜摘の事を考えると、尚更モヤモヤして眠れなくなってくる。
「……もう一度、スマシスやるか」
このモヤモヤを晴らすために、俺は一人でスマシスをやる事にした。少しは気が晴れると思ってやったのだが、どこか虚しさを感じた。
『やっぱりヒロ君は弱いね~』
ゲームをプレイしていると、過去にやった菜摘の言葉が脳内に浮かんできた。
『コツを教えてあげるよ、ヒロ君』
『ちょ、くっつくな……っ!』
『それが目的なんだよね~』
その昔の会話を思い出していると、いつの間にか俺はゲームに負けていた。
幼稚園の頃は、俺にだけ懐いていた菜摘に、好意を抱いているんじゃないのかと思って、俺も好きになっていた。それで俺は折り紙で作った指輪をプレゼントすると、菜摘はそっけない返事だったが受け取っていた。
時が経つと、俺は菜摘に対する好意は薄れていき、ただのマイペースな幼なじみとなっていた……。
「……ああっ! ……面倒くさい幼なじみだな!!」
俺は居ても立っても居られずに、パジャマのままで外に飛び出し、薄っすらと明るくなった早朝の町を駆け抜けた。
菜摘の家は、俺の家から歩いて2分ほど。走って行けばすぐに着いてしまう。よくある、幼なじみとは、家が隣同士と言う設定は無い。誕生日、病院の時からずっと一緒の、同じ地区に住む幼なじみだ。
「おい! 菜摘!」
走って菜摘の家に着くと、玄関には鍵を開けて入ろうとしていた菜摘がいた。
「……」
菜摘は立ち止まったが、俺とは目を合わせなかった。
「私、約束を破るヒロ君は嫌いだよ?」
「ああ。それは俺も嫌いだ。だから約束は守らないとな」
そう言えば、俺は一つ忘れていたことがあった。
「勉強したら頭を撫でるって、約束してたな」
俺は菜摘の頭を撫でた。昨日菜摘を勉強させるために言った事だが、菜摘が俺を押し倒し、そして昼飯を食べに行くことになったので、すっかり忘れていた。
「ついさっき思い出してな。俺は約束を守っただけだ」
約束は破る俺は嫌いと言うので、俺は菜摘の頭を撫でてから、すぐに家に戻ろうとして、スズメが鳴く早朝の道を歩こうとすると。
「……どうした、忘れ物か?」
菜摘は俺の横にぴったりとくっついてきていた。
「うん。今日、ヒロ君の家で遊ぶっていう忘れ物を取りに行くね~」
「そうか」
素っ気ない話し方から、いつもののんびりとした話し方に戻った菜摘。どうやら頭を撫でたら、菜摘の機嫌は戻ったようだ。俺に撫でられている時の菜摘の顔は、撫でられている猫のような表情みたいに、すごく嬉しそうな顔だった。
「今日は楠木さんと勉強会するんだよね? ヒロ君が更に楠木さんの事が好きになっちゃうかもしれないし、ヒロ君が楠木さんに手を出さないか、監視しないとね~」
どうやら、菜摘も勉強すると言うことはすっかりと忘れているようだ。脳内では、俺と遊ぶって事になっているようだ。
「菜摘は、俺の事をどう思っている?」
そう言うと、菜摘はやんわりとした笑顔で。
「ヒロ君の傍にいたい、ヒロ君の幼なじみだよ」
「じゃなくて、俺の事をどう思ってんっ……!」
菜摘は俺の正面に回って、前に楠木がされていた、俺の唇に菜摘の指を置いていた。
「さあ? どうだろうね~」
やはり菜摘は、俺が好きな事を隠していたいようだ。
菜摘が俺に好意を持っている事は知っている。だが、それは俺の目の前で言った事ではない。安藤と楠木との会話で言っていたことを聞いていただけだ。
「ヒロ君。さっきも私が勝っちゃったし、またコツを教えてあげようか?」
「……まだ遊ぶ気なのか?」
と思いながらも、俺は菜摘と再び対戦するのが、嬉しかった。




