それぞれの考えは……
相変わらずの人の多い秋葉原。
昼過ぎに到着すると、小さい子供や、リュックを背負って、アニメキャラが描かれた痛いシャツを着た奴。それかメガネをかけ、ひょろひょろとしたオタクの大学生の集まり。そしておまけに興味本位で来ている外国人。
「人がいっぱいだね~」
「……だから嫌なんだよ」
黄色の電車に乗ってアキバに到着し、秋葉原駅の改札を出ようとすると、すでに切符売り場の所に、切符を買い求め、長蛇の列が出来ている。
改札を出た後が一苦労。人を避けながら電気街口に出ると。
「……って、菜摘はどこ行ったー!!」
さっきまで一緒に居たはずの菜摘の姿が無く、また菜摘は迷子になったようだ。
くそっ。またこの人ごみを避けながら菜摘を探さないといけないのか?
菜摘の顔はうんざりするぐらい見ているので、遠くからでも分かるが、こんなに人がごった返しているから、探すのは苦労しそうだ。
ゆるフワボブの焦げ茶の髪に、赤いベレー帽のような帽子を被っていて、何かよく分からない英語の文が書かれた紺色Tシャツに、白いミニスカートで、何よりニーソを穿いている。見たらすぐに分かる格好だと思うが――
「ヒロ君。ダメだよ、迷子になったら――痛いよ、ヒロ君?」
ひょっこりと表れた、両手にアイスを持った菜摘の頭に、チョップした。
「おい。どこに行っていた……!」
「ヒロ君のも買ってきたよ?」
どうやら、駅の反対側の出口にアイスの出店が出ているようで、それを見つけた菜摘は暢気に俺の分と自分の分を買いに行ったようだ。
菜摘はピンク色のアイスなので、ストロベリーアイスか? 俺の分のアイスは黄色なので、パインとか、レモンか?
「……ありがとな。けどな、勝手にどこかにふらつくな」
「ヒロ君、見て見て。あそこに献血やっているよ?」
アイスを舐めながら、菜摘は電気街口の広場でやっている献血の方を見ていた。
たまにやっている秋葉原での献血活動。献血をしてくれた人には、他の所では考えられない、アキバらしいアニメのポスターをくれるおまけもついている。
「ヒロ君。私、皆の役に立ちたいので、ちょっと行ってきます~」
「お、おい!」
そしてマイペースに菜摘は、食べかけのアイスを俺に預け、献血に行ってしまった。
菜摘の役に立ちたい心がけは、すごく良い事だ。
献血で採った血は、長く保存は出来ない。食べ物のように期限が付いているため、使われないと廃棄してしまう。
だが、ずっと血が不足しているこの中、菜摘のような人が多くいれば、今苦しんでいる人を1秒でも早く助けられるかもしれないしな。
菜摘が献血に行ってしまったので、俺は待たせている楠木を探すことにした。電気街口の広場のどこにいるのか。人が行き交う中、楠木だけを探すのは一苦労しそうだ。
電話にかけて居場所を尋ねるか。だが、菜摘以外の女子に電話をかけると言うのは、凄く緊張してしまう。スタイル抜群、メイド喫茶で働く楠木に電話をかけると言うのが、どこかで恥ずかしがって――
「ヒ~ロ!」
「おわっ!」
楠木を捜そうとすると、背中を叩かれ、そして俺の後ろからひょこっと、にこっとした顔で楠木が現れた。
「お姫様に捜させてどうするの。こう言うのは、王子様が捜すのが当たり前でしょ?」
「今、探そうと思ったんだよ……」
そして俺の前に立った楠木の姿を見て、俺は。
「……可愛いな」
可愛いと口に漏らしてしまうほど、楠木の姿に見惚れていた。
楠木は、白のオフショルダーの服を着て、長ズボンのジーパンを穿いて、そして深々とフェルトハットを被った楠木に、俺は本気で可愛いと思ってしまった。
「えっ、ええっ!? そ、そんな人前で言わないでよ~!」
俺に可愛いと言われると、楠木は頬に手を当ててデレデレしていた。ああ、マジで可愛いな……!
「……おっと」
あれから菜摘が献血に行き、時間が経っている。菜摘に託されたアイスが、徐々に溶け始めていた。
「……楠木。……アイス溶けているが食うか?」
「いいの? じゃあ、ありがたくいただく!」
菜摘が俺にくれたアイスを楠木がもらって、それで俺は菜摘の食べかけのアイスを食べることにした。
「ヒロがくれたアイス……! 食べるのが勿体無いけど、美味しくいただくわ!」
楠木はアイスを舐めると、凄く不味そうな顔をしていた。
「……何、この味」
楠木がうえ~っと、舌を出して不味そうな顔をしていると。
「あれ? そのアイス、楠木さんにあげちゃったの? ヒロ君に食べて欲しかったのに」
献血から戻ってきた菜摘は、おまけとしてもらったアニメのポスターを持って、俺たちの元に戻って来た。
「……松宮! あんた、ヒロに何食べさせようとしていたのよ!」
「期間限定、たくあんアイスだよ? ヒロ君の感想を聞いてから、私も食べようか判断しようとしたんだけど――痛いよ、ヒロ君?」
俺に毒見をさせようとさせた菜摘に、俺は本日3回目の頭にチョップした。
そして、楠木が舐めたたくあんアイスは、菜摘が責任もって食べさせることにして。
「菜摘。何か食いたいものがあるのか?」
「……これ以外のアイス」
どうやら美味しくないようだ。菜摘も不味そうに表情を歪め、そーっと俺に押し付けようとしていたが、俺は菜摘を避けてから、再びチョップしておいた。
菜摘が涙を流しながら、たくあんアイスを食べ終えると、俺たちは話し合った結果、パックでハンバーガーを食べることになった。
「……今週って、テストあるのよね?」
「ああ。命運がかかっているテストだな」
パックでハンバーガーやポテト、ナゲットを注文して、楠木がポテトをつまみながらそう聞いてきた。
「……楠木は出来るのか?」
「ヒロ。私が勉強できる顔をしてる?」
そう聞いてくると言う事は、楠木も勉強が嫌いのようだ。まあ、菜摘よりは出来そうなイメージなんだが。
「……菜摘より出来るだろ?」
「えっ? 松宮、勉強できない――って、そうよね。マイペースだから、授業とかぼーっとして、授業聞いていなさそうだし。ま、それは私も何だけど」
楠木がそう言うと、菜摘はパックで買ったパックシェイクを飲むのを止めて。
「失礼だよ? ずっとぼーっとしている訳じゃないよ? 今日はヒロ君と何しようかなって考えているから、ぼーっとはしてないかな?」
「おい。そんなの考えるぐらいなら、せめて先生の話ぐらい聞いてやれよ。英語の先生が、菜摘がぼーっとして話を聞いてくれないって、俺らの授業で、毎回愚痴っているんだが」
日本人だが、ノリは外国の通販番組に出てきそうな出演者みたいな感じの先生が、俺らの英語の授業を受け持っている長尾先生だ。
菜摘のクラスも受け持っているようで、菜摘だけ、全く自分のノリに合わせてくれないと言って、毎回のように愚痴っている。もうこの学校で武勇伝を作ろうとしている菜摘だ。
「だって、英語は何を言っているのか分からないんだよ? 楽しくないもん。よっぽど、歩いているアリを見ていたほうが楽しいかな?」
今の菜摘の言葉を長尾先生が聞いたら、泣き出していただろう。菜摘にとっては、英語よりアリの方が面白いらしい。
「松宮、それで私も勉強できない……。つまり……」
そしてこの状況で楠木が出した答えは。
「いっその事、4軍になるしかないって事ね」
「なあ。楠木はどうして勉強して4軍から逃れるって方法は思いつかないんだ?」
4軍はもはや奴隷のような扱いになってしまう。今のクラスでも立場は低く、1軍の言う事を聞かないと、シバかれると言うのに、全学年で底辺になったら、もう俺の高校生活は地獄となるだろう。
「……ベンキョウッテ、ナンデスカー」
久しぶりに急に片言になってとぼける楠木。どんだけ勉強したくないんだ?
「ヒロ君。さっきも言ったけど、個人の意見を無視して勉強させても、全く意味が――」
更に話をややこしくしようとしている菜摘に、俺は今度はグーで菜摘の頭を叩くと、菜摘は机の上で轟沈していた。
「いいじゃない! ヒロは4軍が嫌だって言うの?」
「楠木、お前はドMか? 普通の人なら、底辺は嫌だと言って、上に上がろうとしないか?」
そう言うと楠木は、急に体をもじもじさせて。
「……だって、ヒロがいるのなら、私は4軍で良いのよ。け、けどさ、ヒロも考え直してみて! 一番下っていう事は、これ以上は下がらないって事じゃない!」
「そうだよヒロ君。勉強しなくても、位が下がらないのなら、もう私は勉強しなくてもいいってことでしょ?」
バカな事を言っている女子二人の頭をチョップした。
「……ヒロは嫌なの?」
頭を押さえながら、楠木は俺に。
「ヒロは、私と4軍にいるって事が嫌って言うの?」
「いやいや。どうしてそうなる? 俺は楠木と一緒に居る、俺の事を慕ってくれるのはむしろ光栄で、嬉しい。ただ底辺になって、先生や1軍の奴らにこき使わるのが嫌だって事だ」
「私はそれでいいと思うよ?」
もう俺のチョップに慣れたのか、ストローでシェイクを吸いながら、菜摘は俺とは正反対の意見を言ってきた。
「誰にも見向きされない、誰にも頼られないより、私は誰かにこき使われていた方がいいかな? 平穏で暮らすより、何かの刺激があった方が楽しくない?」
まあ、それは菜摘の話もありと言えばありなんだが。1軍の奴らが、偉そうに俺たちに命令を下す光景を想像すると、腹立つんだが。
「それと。もし私とヒロ君だけがこき使われて、密室で作業することになりました。例えば科学室で二人っきりで授業の準備をすることになったら、楠木さんの時みたいに、私とヒロ君の仲をさらに発展――」
「ま、松宮! あんた、あの光景見ていたの!?」
楠木が恥ずかしそうに顔を赤くして、菜摘に聞くと、菜摘はこくりと頷いた。
マジか。楠木と仲が急接近した、あの気恥ずかしい光景を、菜摘は見ていたのか!? 通りで帰り道でデートをすることを知っていたわけだ。
「ヒロ君も、4軍と言う立場がありだと思わない? 密室で女の子と二人っきりになって、ヒロ君が欲求を抑えきれずに、私を押し倒して、あんな所や――」
菜摘も楠木のようにもじもじさせて、人前で変な事を言いだす菜摘の頭を強めでグーで殴り、菜摘を再び轟沈させた。
「……ぷしゅ~」
楠木なんて、今の菜摘の話で何か想像してしまったのか、頭から煙を出していた。本当に恋愛にはうぶだな。
「……悪い話じゃないよね? ……どうかな?」
すぐに起きた菜摘が、俺にそう聞いてきたが、俺の意思は変わらない。
「このままじゃダメだ。明日、勉強するからな……って、聞こえないふりするな~」
このままじゃ、4軍だけじゃなく、違う意味でも俺たちは、地獄を見そうだ。
手で耳を塞いだ菜摘の手をどけて、明日俺たちは、4軍から逃れるために勉強をすることにした。




