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only yggdrasil online  作者: X・オーバー
第2章【初めてのクエスト】
18/29

15話目 再び涙した日

虹色モヒカンで素材の買い取りを終えた僕は、ボラーと一緒に大通りを歩いていた。今回はジュエラも含めてみんなは虹色モヒカンでお留守番。僕も今朝被っていたフードを被り直してボラーの後について歩いていた。


「これから行くのはまず弓矢職人のところだな。たぶん俺が知る限りもっとも【弓作製】のアビリティツリーの成長値の高い奴だ。あいつなら樹人の枝も良い値で買い取ってくれるし、武器の性能もピカイチになるはず」


ピカイチ、か。正直そこまでする必要があるのか疑問に思うけれど、あって困るものでもないし小さく頷くだけにしておく。


「その次に鞭を見に行くんだが………………、まぁ腕が立って信用もできる奴だ」


ぜったいMの方が腕いいのに……………………。と呟く声が前から聞こえてくるが、それで思い出されるのは虹色モヒカンを出る直前のやりとりのことだ。






『そうだ、ツバサくんは他に何を揃えたいんだい?』


店の奥から顔だけ出したミレディさんに残る装備である弓矢と鞭のことを告げると、その表情がガラリと変わった。機嫌の良さそうだったはずの表情はまるで嘘は決して許さないとでも行っているかのように鋭くなり、カウンターの向こうに座るボラーを貫いた。


『弓はいい、ロッドの所に行くんだろうからね。でも、鞭は誰を紹介するつもりだい?』


『ん、Mだ』


答えた瞬間ボラーの天地が逆転し、彼は店の床へ後頭部を強かに叩きつけられた。


『………………!……………………!』


声にならないほど痛いらしく、頭を押さえて悶絶するボラーのHPバーが頭上に浮かびあがり、その表示は一割ほど削られている。


『馬鹿かお前は!よりによってMとか、あいつの好みを知ってるだろう!というかあいつが何で鞭職人やってると思ってるんだ。公言はしてないけど確実に理想の人に自作の鞭で叩いて貰って悦に浸るためだろ!

そんな奴に何も知らないような子を紹介しようとしてるんじゃない!』


ともの凄い剣幕でボラーをしばき倒したのだ。

それで鞭はMという人とは別の人を紹介して貰うことになった。

とりあえずそのMという人には近づかないようにしようと思った。何となくその方がいいような気がした。






「そういえば、なんでそのMって人をそんなに紹介したがってたの?」


「ん、あぁ、お前ならMのところで高性能武器を格安、またはただで貰えた可能性があるからだ」


疑問に思ったことを尋ねてみれば返ってきた答えは何となく詳しく聞いてはいけないような予感のする物だった。


「そ、そうなんだ」


なんとなく表情がひきつったような気がしたけど、フードを深く被り直したしそもそもボラーは前を向いて歩いているから気付かなかっただろうけど。


「お前は森から持ってきた素材で一度に相当な額を稼げたけどな、鞭に弓、それに消耗品の矢やその他これから必要になってくる各種ポーションなどの消費アイテム。ドルイドに組み込まれた薬剤師系統のスキルを使うのに必要な調薬セット等々、いくらかかるか考えたくもねぇだろ。なら少しでも浮かせられるなら浮かしとくに越したことはない。調薬セットなんかはまた今度にしても良いかもしれないが、今受けてるクエストをクリアするためにもアイテム類は揃えておいた方がいい」


たしかに、それなら浮かせられる分は浮かせられた方がいいのも納得か………………。


「あ、そういえばジュエラ達も装備できるんだった」


「なに?」


「装備できるのは武器と防具の合わせて二つだけでそれぞれ装備できる物に制限があるんだけどね」


そうだった、あの子達の装備も揃えておきたかったんだ。テスカとグリズなんていつも僕らのために前に出て戦ってくれてるんだし、装備もしっかりしてあげないと………………。


「モンスターの装備か、プレイヤーようの装備がそのまま使えるといいんだけどな。モンスター専用装備が必要なんてことになったら当面はあきらめなきゃならんぞ」


「ボラーじゃ作れない?」


「【武器作製・下位】や【防具作製・下位】があるからできないことはないけど、俺の他の作品よりも出来が悪くなるのは否めないな」


「今まで作ったことがないから?」


「違う、いや違わなくもないけど。俺たち生産職のプレイヤーは今言った総合作製系のアビリティツリーと一緒に【剣作製】【盾作製】【調薬】という風に種類別作製系のアビリティツリーを取ることで作るときに二重補正をかけてるんだよ。その方が出来が良くなるからな。

それでもしモンスター専用装備を作る場合、たぶん探せばモンスター専用装備を作る為のアビリティシードがあるんだろうな。なら総合系アビリティツリーの補正だけで作る場合とその両方の補正を受けて作った場合どっちがよりいい物ができるか、考えるまでもないだろ」


ボラーの丁寧な説明に思わず拍手をしたくなったのを堪えながら礼を言う。

ボラーって奇抜な格好してるけどやっぱり頼りになるんだよなぁ。


そんな風に会話をしてる内にたどり着いた目的地。露店の並ぶ西通りから少し外れた路地に出された移動式の屋台。着けられた看板には【木之国屋】と書かれていた。


「ボラーか珍しいな。何か用かい?」


ワンドや矢の並ぶショーウィンドゥの奥から顔を出したのは緑色に染めた髪を適当に切りそろえた、縁なしの横に長い眼鏡をかけた糸目の好青年だった。


「ちょいとばかしな。こいつで弓を作って貰いたいんだよ。使わなかった分の素材の買い取りも頼みたい」


預けっぱなしになっていた樹人の枝が屋台のカウンターに乗せられ、それを見た糸目の青年ーミレディさんの言っていた名前を信じるならロッドさんだと思うんだけど……………ーの目の色が変わった。糸目だから雰囲気だけど。


「樹人の枝………………、ロォークスの森にいるトレントの素材だね。一体どうやって」


「僕が森で………………」


ボラーの陰から前に出て説明しようとする僕の目を、ロッド(仮)さんの視線が射抜き思わず言葉を切ってしまう。


「君が森で………………?悪いけど本当にかい?

あまりレベルが高いようには見えないけど?」


「ロッド、こいつがツバサ。蚊屋の【突撃インタビュー】スレはお前も見てるだろ」


探るような視線で僕を観察するロッドさんを見てボラーが助け船を出してくれた。

初めロッドさんは本当かどうか確かめるような目をボラーに向けていたが、ボラーが表情一つ変えずに頷いたのを見て納得したのかカウンター向こうの椅子に腰を降ろした。

僕はほっと溜息をついてフードを外すと、ロッドは苦笑いを浮かべて謝罪してくれた。


「すでにエルフに転生、か。未だに転生者の話を聞いたことがないし、それだけのお金を揃えられるとしたらゴルド達のようなトップを直走る連中だけだ。けどそんなゴルド達ですらまだそこに至っていないから、君の転生はそれ以外の手段かな?そんなことができそうでエルフという所謂森の精霊と多くの物語で語られる種族に転生できそうなのは森で生活しているプレイヤー以外に思い浮かばないな。

ボラーと友人であることは前から聞いていたしな。すまなかったなツバサ君」


「いえ、あまり気にしないでください」


人通りの少ない路地とはいえ、それでも人の通りは確かに存在する。そんなプレイヤーだろう視線が耳に向けられていることに気づき、僕は再び深くフードを被り直した。


「どう言った経緯で転生をしたのか詳しく聞きたいところだけど、今は商売の時間だからね。長くなりそうな話はまた今度の機会に取っておくとしよう。

それで弓の作製だったね。ツバサ君は短弓と長弓どっちをお求めかな?」


「短弓と長弓?」


「ロッド、こいつは今まで弓を使ったことがないから短弓、長弓と聞いても違いが分からんよ」


短弓と長弓、弓の種類なんだろうとは思うけどボラーの言うとおり正直違いが分からない。それを聞いてロッドさんも、蚊屋さんのスレで弓を使うジョブ、アビリティが無かったな、と納得してカウンターの上に二つの弓を置いた。


カウンターの上に置かれた二つの弓。一つは1mはありそうな大きな弓で、もう一つはその半分ほどの小さな弓。たぶんそれぞれが長弓と短弓なのだろう。


「まずこの大きい方の弓、これが長弓。主に長距離の獲物を狙うための弓で、矢を撃つときは立ち止まってしっかりと狙いを付けて使うのが普通かな。射程が長いという利点がある反面、遠くを狙えば狙うほど当然命中率は低くなるし、その分威力も落ちていく。まぁ近場で使う分には威力は保てるけど取り回しに難があるのが欠点かな」


たしか弓の命中率ってDEXが関係してるんじゃなかったっけ。一応僕のステータスの中では高い方だし、何とかなると思うけど。

でも長距離を狙う弓か。それって先制攻撃ってことだよね。あまり自分から仕掛ける気はないんだよなぁ。


「でこっちの短弓だけど、こっちは射程が短い代わりに矢の貫通力に補正が掛かるし、命中率も長弓より高くて軽く取り回しもいい。ただ長弓ほどの威力は出ないのが難点かな。

まぁ基本長弓よりも癖がなくて使いやすいから初心者ならこれがお勧めかな」


「ツバサのプレイスタイルと森での活動が多くなりそうなことをことを考えると確かに短弓の方がいいと思うが、どうするんだツバサ」


うん、説明を聞いた限りでも2人の意見に賛成だな。

その事を告げるとロッドさんは頷いてカウンターの上に出ていた弓と素材をしまい始める。


「了解したよ。それじゃ今日は店を畳んで弓づくりかな。できあがったらボラーの所に届ければいいのかい?」


「それで頼む」


そのあといくつかの話をして僕たちは木之国屋を後にした。






そして所代わってここはキャラルの町のシード屋。アビリティシードや下位ジョブシードを売っているお店だ。


ここに来たのは僕のメインジョブであるビーストトレーナーの上位職にクラスチェンジするのに必要な【鞭術】を買うためだ。


「鞭術………………35000G………………」


「思ったより安かったな」


これで安いの?!


ボラーの言葉に思わず過剰反応してしまったが、隣の【刀術】などをよく見てみればそこには先頭に8、その後には0が4つも並んでいた。

アビリティシードでこの値段。ジョブツリーを見てみればどれもこれも200Kを普通に越えている。


たしかにそれを考えると安いのかもしれないけど……………………


「…………………………………………鞭術一つ」


「まいど~」


ごちゃごちゃと言っていても値段が下がるわけでもないし、僕はとりあえず鞭術を購入して畑に植えることにした。


「それじゃいくとするか」


「これから行く人の名前はなんて言うの?」


「ジョニーカーパーって奴だ。鞭職人で鞭使い。作る物を鞭に限定して戦闘と生産を両立させてる希有な奴だな。鞭の需要はそこまで高くないってのに良くやってるとは思うんだがな。いかんせん戦闘と生産というPRのせいで生産職としては中の上を脱せていないやつだよ」


鞭の性能と値段、それでMって人を推してたんだ。でも聞く限りではその人の性格を考えるとプラマイでマイナスのような気がひしひしとするんだよなぁ。やっぱりそのジョニーカーパーさんを紹介して貰おう。


「あなた、今【鞭術】のアビリティシードを買っていたわね?」


「へ?」


とそう思いながらシードショップを出ようとした僕の前に人影が立ちふさがった。

その人は腰までストレートに伸ばした金髪と茶色いどこか古ぼけたコートが妙なコントラストになった美女と言う言葉がぴったりの人で、ややつり上がった眦は周りの人を威圧しているかのよう。唇は赤く染められ、コートの下から浮かび上がるボディラインはまさしくダイナマイトという言葉がよく似合うプロポーションをしていた。


どうやら僕がアビリティシードを買うところを見ていたみたいなんだけど………………。


「今店の外から見ていたのだけれどあなたは鞭術を購入していたでしょう?もう鞭は持っているのかしら?それとも誰から購入するか決めているのかしら?」


「へ、え、え、え?」


矢継ぎ早に紡がれる質問にどう返事をすればいいのかと混乱した僕は、とにかく助けを求めて隣にいるはずのボラーに顔を向けようとした。しかし隣に首を動かす途中で僕らの周囲に人垣ができかけていることに気づき、その人垣の中にいつの間に移動したのか目的の人物の姿を見つけ思考が停止してしまった。


「ねぇどうなのかしら?まだ鞭の用意ができていないのなら、私が良い物を持っていい物を持っているのだけれど。もし私の頼みごとを聞いてくれるなら、その良い物をあなたにプレゼントしたいのだけれど…………………!」


人垣の中に立ったボラーががんばれとばかりサムズアップするのが見えた。つまり助ける気はないと?


「自己紹介がまだだったわね。私は鞭職人をしてるMというの。あなたはツバサさんでしょう?掲示板で話題になってるからすぐに分かったわ。それにしてもエルフに転生したのね、掲示板にあげられている画像よりの可愛かったからびっくりしてしまったわ。

それでどうなのかしら、もう鞭は持ってるの?持ってないのならぜひ私からぷれz………………………………」


いきなり孤立無援の状態に陥り、こちらの返事もまたずにかけられるMさんの言葉に僕の頭の中は真っ白になった上に完全に混乱状態になった。


そして気が付けば………………………………………………。


「さぁ、その鞭で私を叩いて!!!!!」


目の前にはコートを装備からはずし白い素肌を晒すMさんの姿。(本来oyoでは装備をすべて外し所謂裸状態になっても、男女関係なくTシャツやトランクスタイプのインナーが設定されているため肌の露出は少ない)上半身はさらしというのも憚れる肌色の布で天辺(何とのは言わない。言わないったら言わない)の部分を巻いただけというあり得ないような装備、そして下半身も水着というにしても小さな布面積しか持たない装備。

で、いつの間にか僕の右手には鞭が『装備』されていた。


なんでこうなった……………………。


助けを求めて周囲を見回しても、そこにいるのは息を呑んで期待に目を輝かせる野次馬たち。


本当に何でこうなった!!


「さぁ、その鞭で私を叩いて。そうすればその鞭はあなたの物よ!!!!」


さぁ来なさいと両手を広げるMさん。その鼻息は荒く、ヴァーチャルワールドだというのにその肌はわずかに紅潮しているように見える。


oyoってセクシャルハラスメントコードが設定されてるはずなのに………………。本当にステレートに直接的な行為じゃないと引っかからないの!?


再度助けを求めて周囲を見回すが、助けはおろか逃げ道もなくさぁどうぞと言わんばかりの状況。Mさんの求めの声が掛けられる間隔が徐々に短くなってくる。


「う、うぅ…………、えい………………」


もうやけくそになって振るった鞭はペシリ、と虫も潰せないような音を立ててMさんを叩いた。

とにかく叩いたんだ。ならこれで終r………………。


「駄目よ!鞭を振るうときはもっと手首のスナップを効かせて振るうのよ!そんなんじゃ角ウサギ一匹倒せないわ!

鞭の使い方ならいくらでも私が教えてあげる!だから…………………もっと強く叩いて!私の白い肌に醜いミミズ腫れができるくらいに!!」


…………終了しなかった。


もう本当に誰か助けてーーーーーーー!!!






ヴァーチャルワールドで滲んだ2度目の涙は羞恥でできていた……………………。









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