後編
SNS等の報告で、ゆなの復帰を伝えた2周年ライブは
大盛況になる。チケットのソールドアウト後も
諦めきれないファンが当日押し寄せ、何とか少しでも
入れようとスタッフも会場を工夫する。
結果、ファンはギュウギュウに詰め込まれ
ステージからもかなり近い形で公演は始まった。
これは 凄いもんだな
舞台袖にいた小石川に、東次が声をかけた。
「天沼さん!やっと来てくれましたね!」
すまんな 少し 調べていた事があってな
「結局、言われた通りみんなに伝えてゆなをステージに
上げたのですけど、大丈夫なんですか?」
この距離なら ゆなの護衛は大丈夫だ
「いや、それももちろんなんですけど!
顔の方です!しばらくは包帯を巻いて出れば
大丈夫ですけど、一度ファンの前に
復帰してしまったのだから、近いうちに包帯を
外さないといけない日が来てしまうのでは。」
そうだろうな
え、ちょっと、大丈夫なの?!
小石川の不安を他所に、ステージではラストの曲の前。
ゆなからファンへの感謝を込めたMCが終わり
曲がスタート。客席は最高潮に盛り上がっていた。
曲中の立ち位置の移動。
この数秒後にゆなとちとせがすれ違う。
ゆな、ゆなが悪いんだよ?
こんなに早く戻ってきたりするから。
ちとせの視線が、ゆなの顔の包帯を見つめる。
手首のシュシュに仕込んだフックを、包帯の留め具に
引っ掛けた。
「あ!いけない!!」
小石川が気付くも遅く、すれ違いちとせが離れるのに
合わせてゆなの顔の包帯が解けていった。
ファン達がそれに気付き、うわ!っと悲鳴に近い声が
一瞬上がる。
見てはいけない物が見えてしまうという悲鳴。
同時にこれだけの大勢の悲鳴が止まり、瞬間、曲だけが
流れた。
包帯が解け切る。
固まった空気は、全員がゆなの顔を見た途端
とてつもない大歓声に変わった。
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明日はリハなのに 今日も 遅くまで一人で練習か
2周年ライブリハ前日の夜。
他の練習生が出たのを見計らい、車から2階の
レッスン部屋に来た東次。
最近は毎日この行動。東次を見つけ笑顔で
「ちゃんとみんなに合わせられる様に
しておかないとね。
それにしても、他の子達がいても来てたら
いいじゃないですか。」
ダンスをやめてタオルと水を取り、東次の隣に
駆け寄るゆな。
こんな怪しいおっさんが いきなり来たら怖がらせるだけだろ
ゆなは、あははと屈託なく笑い
「私も最初は本当に驚いたんですからねー。
だから、もうちょっと綺麗な格好しましょうよ。
そうだ!今度、一緒に服買いに行きましょ!
私が選んであげる!」
アイドルとデートなんて ファンに見つかったら怒られるだろう?
ゆなが驚きと照れが混ざる表情に変わり
「えー?大丈夫ですよぉー。行きましょー?」
デートなんて思ってくれるんだ、天沼さん。
ゆなの頬が緩む。
それはまあ 考えておく それよりも今日は聞いてほしい事がある
「聞いてほしい事?」
東次の真剣な表情に、胸がキュッとした。
え?何?まさか・・・
ゆなの 顔の事だ
・・・
「なんだぁ。
てっきり告白してくれるのかと思っちゃったー。」
なんだ じゃない 大事な話だ
あ、と表情を戻し
「ごめんなさい。この爛れの事ですね。」
そうだ 治すのを 俺に任せてもらえるだろうか
「・・・は?え?治す?
治るん、ですか?病院でも爛れを取っても
手術痕が残るって言われましたが・・・」
少し 特殊な方法でな 使う物が物騒な物なんだ だから 何をされても大丈夫だと信じてもらえんと 出来ない事だ
特殊な方法?物騒な物?少し訝しむ表情のゆな
「どんな方法なんですか?」
ああ これを使う
ゆなの問いに、東次はゆなの正面に立ち左手を伸ばす。
何も無い空間から、いきなり日本刀が現れた。
「え?ええ!!何今の!手品?!」
こっちには驚かないのか?
左手の日本刀を前に出した。
「あ、まぁ少しだけ。
んー、驚くよりも似合うなって思いました。」
その答えに東次は、呆気に取られ
くっくっ 似合う か 初めて言われたよ 悪い気はしない
砕けた笑みを見せた。東次のその顔を見て
ゆなは胸がきゅっとする感覚を強く感じた。
本題に戻ろう この刀 紫雪で きみの顔の爛れを削ぐ
今度は流石に驚くゆな
「ええ!!だ、大丈夫なんですか?」
頬に手を当て、不安な表情を見せた、
信じてもらう しかないな
真剣な表情の東次。ゆなも真剣に東次を見る。
一転、表情を緩ませ
「分かりました。信じます。」
笑顔で答えた。
そうか 確かに人を見る目 あるな
東次の言葉に、あははと笑うゆな。
では そこに座ってくれ
休憩用の椅子に腰をかけ真剣に東次を見つめるゆな。
抜刀
シュラッ
鞘から抜いた刀身は、薄紫色にぼんやりと光っていた。
「すごい・・・綺麗・・・」
フッと東次は微笑み、歩み寄る。
そっとゆなの顎に手を添えた。
うっ!あごクイ!!ヤバい!めっちゃヤバい!!
頬を剃られる緊張よりも、顎に手を添えられた事に
鼓動が高鳴る。思わず目を瞑った。
そのまま 目を閉じてろ
きゅぅ・・・あごクイにそれはトドメだよぉ。
何その少女マンガのイケメンが使いそうなセリフはぁ。
顔が赤らみ心臓が痛いくらい動く。
スゥ・・・
頬を何か伝った瞬間、痛さは無く温かさの様な感覚が
頬に残った。3度その感覚が頬を伝い
キン
金属音が鳴り、少し間を置き顔に何かを巻かれた。
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「なん、で?」
ちとせは包帯が取れたゆなの顔を見て呟いた。
包帯が覆っていたゆなの顔には、爛れも傷も何も無く
元の華やかな笑顔が現れた。
それを目撃した観客は全員が、包帯が取れたのは
演出でゆなの復活をアピールする物だと確信し
大歓声が起こる。
天沼さんに、本番包帯が解けるアクシデントが
起こるかもしれないが、その頃には爛れは完全に
治っている。解けても慌てなくていいが、それまでは
包帯をしていてくれ、と言われてたけど・・・
ファンのみんなの反応、本当に、本当に治ってるの?!
流石に顔を手で触れるが、そこにはもう爛れていた
感触は何も無い。
「信じられない・・・天沼さん・・・」
ゆなの目から涙が一気に溢れ出す。一瞬だけ自分に
気を持っていったが、ハッとすぐに切り替え
「みんなー!!ありがとうーー!!
上げた涙声と共に、演奏だけ流れていた曲を再び
歌い出した。
なんで?なんで私の邪魔をするの?ゆな!
それなら!もう一度浴びなさいよ!!
ちとせの手合図と共に最前の客席の一角が、興奮状態で
崩れ始める。
一人の男がゆなに向けて走り始めた。
ゆなも気付くが距離が近すぎる!
あの時の、薬物をかけられた記憶が脳裏をよぎった。
「いやぁ!!!」
恐怖に悲鳴を上げ目を閉じ身体をすくめる。
その瞬間、身体が強い力でぐんっと後ろに
引っ張られた。
ズドォ!!
東次は、身をすくめたゆなの背中の服を左手で掴み
自分の方に引っ張る。
引っ張る力に合わせて身体を捻り、右手に持っていた
刀袋に入れた紫雪で、薬剤を持って飛び込んできた
人物のみぞおちを突いた。
ぐふぅ!
強烈に突かれた犯人はもんどりうって、ステージに
かけられた五段の階段を転げ落ち、溢れ出した
最前のファンの所まで転げ落ちた。
うわぁー!!
てめえ何やってんだ!!
その場にいたファンが山積みになってその男を
取り押さえた。
東次は左腕の内で固まっているゆなに
大丈夫か
目を大きく見開き、無言で何度も頷くゆな。
東次はフッと微笑み
ラストだ 頑張れよ
そう伝えると、ゆなをそっと立たせ袖に消えた。
袖にいた小石川が
「ゆな!ラストの曲、最初からかけ直すから!
気持ち切り替えて!」
この声がけにゆなは、ハッと正気を戻しメンバーに
「ラストかけ直すって!がんばろ!」
しっかり仕切り直す。そのまま無事歌い切り
2周年ライブは終わった。
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「天沼さんは?!!」
アンコールを終えライブが終わり
楽屋に急ぎ戻ったゆなは第一声で小早川に聞いた。
「楽屋には来てないよ!それより!ゆな!!顔!!!」
「そうだよ!!ゆな!綺麗に治ってる!!」
その場にいた全員がゆなを囲い叫ぶ、泣く、喜ぶ。
ちとせ以外の全員が。
ちとせは盛り上がるメンバーやスタッフの中、一人急ぎ
身支度を整えて無言のまま楽屋を出た。
「どういう事!一生治らないんじゃなかったの?!」
楽屋を抜け出したちとせは、人通りのない路地裏で
1人の人物と話していた。
「んーおっかしいねー。
少し薄めたとはいえ、瘴気瘤被って治るなんて
あり得ないんだけどなー。」
黒いスーツで服装はカチッとしているが
金髪の、赤眼の男がちとせに返事をした。
「実際治ってるじゃない!!話と違うでしょ!!」
「まーそうは言っても、念願のセンターに
なれたわけでしょ?かけた人間も爛れて出て
来れなかったよね。それにそのチャンスを
持続出来なかったのはこっちのせいじゃないなー。
だから、約束通り対価は払ってもらうよ?」
「そんな!!そんなのって」
ちとせのその言葉の続きは、無言の内に喉に
突きつけられた鋭い爪に止められる。
爪からちとせの血が滴り落ちる。
「この、欲望に満ちた人間の持つ血はね、何度
飲んでも良いものさ。」
爪を伝う血を舐めあげ、ちとせの目を赤眼のまなこで
見つめる。
「や・・・めて・・・たす、け・・て」
「それは都合良くないかなぁ。
自分がどうなってもいいから、神木ゆなを落としたいと
言ったのは、きみ、でしよ?」
ちとせの喉元に向け、ゆっくりと口を開き牙を刺す男。
瞬間、ちとせの身体はあっという間に痩せ細り
力なく地面に崩れ落ちた。
やれやれ 間に合わなかったか
「んー?なんだい?君は。」
この男、私の人避けの結界を抜けてきたのか。
私に気付かせず。
言葉とは裏腹に、警戒心を強める赤眼の男。
ったく この仕事が嫌で組織離れたってのに こんな形で遭遇したら組織の依頼もない タダ働きじゃないか
「何を言ってるんだ?
まーなんにせよ?さっきの見られたら帰す訳にも
いかないからね。
お前が何なのか知らないけど死んで」
東次は左手を伸ばし、何も無い空間から紫雪を握る。
刀袋の縛りを解き、紫雪を取り出した。
「き、きさま・・・まさか・・・祓し者」
元 な 今はしがない探偵だ
「ふん、だか見ればたかが一人じゃないか!
そうか、流れか。それならば貴様なぞ!」
手の爪を伸ばし走り出す赤眼の男。
抜刀
人間離れした速さで走ってきた赤眼の男は、東次の
顔に向けて手刀を突く。
フヒュッ!
東次は一瞬身体を沈め躱し、居合い抜きされた紫雪が
強く輝き紫の光の帯を残しながら、赤眼の男の
腕の付け根を、下から上に斬り抜けた。
ドサッ
赤眼の男の右腕が地面に落ち、断面から焼けてる様な
煙をあげて消えていく。
同じ様に切れた肩口が煙を立ち上げていた。
「ぐ、ぐぉあーーーー!!!なん、何だこれは!
う、腕が、腕が戻らん!!」
貴様ら不死の超再生は 紫雪の癒す効果とぶつかるとそうなる こいつの切り口の超回復は 貴様らにとってはただの毒だ
「うぐぅぅ、紫雪、だと。まさか貴様、天沼」
ズドォ!
一閃、鋭い右足の踏み込みから、右手で握った
紫雪の柄を顔の高さまで上げ横に向け、柄の端を
左手で押さえた格好の東次の突きが、赤眼の男の心臓を
貫いた。血液は流れない。
代わりに突いた先から煙が立ち上げる。
精神支配が得意なお前らと 会話を続ける気は無いよ
紫雪を引き抜き、横に一振り
キン
鞘に納める。
同時に赤眼の男は全身が紫の炎に包まれ
数歩のたうち崩れ落ちた。
身体は完全に煤のみになり、服だけが綺麗に残る。
消えていた周りの喧騒がゆっくりと戻ってきた。東
次は胸ポケから煙草を出し、いつもの手慣れた動作で
煙草に火をつけた。
「ゆなが、探し回ってますよ?
私も天沼さんがどこに行ったか何度も聞かれます。
・・・本当に良いのですか?何も言わないで。」
ああ 構わん 表舞台は苦手だ
事務所に報酬を持って来た小石川に聞かれた東次は
封筒を受け取りジャケットの内ポケットに入れる。
「・・・ゆな、泣いてましたよ?天沼さん。」
そうか 礼を言わせなかったのはすまんが すぐに忙しさで忘れるだろう
「そういう事じゃないと思いますけどね?」
微笑む小早川は立ち上がり
「本当にありがとうございました。
ゆなの代わりに深くお礼を申し上げます。」
そう言うと、深く頭を下げて、事務所の扉を開き
出ていった。
東次は窓を少し開き、胸ポケから慣れた手つきで
煙草に火をつけ、ゆっくりと吸い込み窓に吹く。
ああ 服を選んでもらうべきだった な
もっと短く終わるつもりで書き始めたはずが、3部構成になってしまいました。しばらくほっといてしまいすみません。




