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中編

翌日から俺は 神木 ゆな と行動を共にする。

今彼女は、レッスンとその為の授業料を稼ぐための

バイトで、1日のほぼが終わる。

初めは警戒心丸出しの様子。

こんな出来事があったんだ、当然だ。それで良い。

のに、数日経った頃にはその警戒心もどこへやら。

友人と話すかの様に話しかけてくる。


君にしてみれば 俺はまだ 胡散臭いだろう?

そんなに 砕けて話して良いのか?


同行を始めてから数日は、今まで通り電車で

移動していた彼女が、翌る日の朝、家の前に

待機していた俺の車まで来て

「おはようございます。初めて見た時からずっと

気になってたんですけど、かわいい車ですねーこれ。

乗せて行ってもらっても良いですか?」

突然、警戒心を解き、顔の爛れなどでは霞まない

華やかな笑顔で話しかけてきた。


マネージャーが承諾してるとはいえ、見た目は

ただの不審者。

ヨレヨレのスーツ。ジャケットの袖を捲り、えんじ色の

ネクタイをだらしなくかけている。

緩いパーマは伸び放題。ボディガードだなんて、まだ

見限られてなかったのは素直に嬉しいけど

何でこんな人に頼んだんだろ?

始めはそう思っていたのだけれど、丸3日経って

ちょっと考えが変わった。

この人、見た目とは裏腹に凄く気を遣う人。

私の移動中やバイト中なんかは、私の視界に

入らない様に気を遣ってる。

本当にいるのかな?って思って電車の中で

いきなり振り向くと目が合って、軽く会釈をされた。

きっと普段の行動で自分を気にさせない為なのかな?

それに、きっと優しい人。

最初の時から今まで、何度か目の前で話す機会が

あったけど、この人は私の顔の爛れに一度も

視線を移してない。

視線が移るとすぐに分かるし、移さない人は

今まで1人も居なかった。

私を想いやってるのが伝わる。信用出来る人、かも。


車での移動中もひたすらに喋りかけてくる彼女に

俺は先程の問いを投げかけた。

「んー、最初は見た目怖かったんですけどね。

でもまぁ、考えてみたらマネージャーに

確認取れてますし?それに私、意外と人を見る目は

あるんですよ?」

笑顔で返される。


ふむ・・・ そう言われると 悪い気は しないな


俺の返す言葉に ふふっと微笑む彼女。

「それに、そろそろ定期が

切れそうだったんですよねー。渡りに船でした。」

俺は一瞬 きょとんとした顔をしたかもしれない


くっくっ そうか 


「やっと笑ってくれましたねー。

髪とか身だしなみちゃんとしたら

絶対イケおじなのになぁ。勿体無いですよー?」

どうもこの彼女とのやりとりを、俺は

心地良く感じているようだ。

気持ちが緩む自分を感じる。

胸ポケから煙草を出そうとしたが、その手を止めた。


少し 聞いてもいいか?


「何でしょう?ちなみに彼氏はいませんよ?」


まあ アイドルだからな


俺の言葉に、少し言葉が詰まらせ、嬉しそうな表情を

見せる。

「まだ、アイドルって言ってもらえるのは

ちょっと嬉しかったです。」


そうか


「話を逸せてごめんなさい。聞きたい事って?」


ああ  どうしたら 君みたいに笑える?


「・・・え?」

物凄くキョトンとした顔から

「あっはっはっは!や、やばいく、くるしー!」

しばらく車の中で笑い転げた後

「ごめんなさい。笑っちゃって。

天沼さん、渋い顔して凄く真面目にそんな事

聞いてくるんだもん。どうしてそんな事聞くの?」


俺も 客商売だからな  君みたいに人を幸せにする

笑顔が出来たら きっともっと 客を安心させられるのかとな


天沼さんの言葉を聞いて、不思議な感覚を感じた。

こんな顔になってから、私を見る周りの目は

腫れ物を見る目だったり、憐れみの目だったり

したのに・・・幸せにする笑顔なんて・・・

嬉しさと、甘酸っぱさとが胸の中に広がる。

「・・・天沼さんって、タラシって言われません?」

神木が少し俯き、出した言葉。

運転をしていたから、横目だけで彼女を見て

表情は見て取れなかったが、言葉の内容から

怒らせた、か?


着いたぞ


聞かなかった事にして、彼女を促した。


------


神木に 薬剤らしきものをかけた犯人は 調べたのだろう? 本当に単独犯 なのか?


夜、神木のボディガードを終えた後、俺の事務所で

マネージャーの小石川と話をしていた。

胸ポケから、くしゃくしゃになってる煙草ケースを

出し、一本を咥える。

「警察の取り調べではアンチの犯行と言う事で

終えられてしまいましたが。何か気になる事でも?」

カキン!

ジッポに火を付け、煙草を焼く。深く息を吸い込み

窓を少し開けて煙を外に吐き出した。


少し な


彼女の肌の爛れた感じが、少し昔の出来事を

思い出させる。

もう一度、煙草を吸い込み、その記憶は少し置いて

話を続けた。


素人の俺から見ても あれだけの才を 感じる子だ 

周りからすれば 疎まられる事も考えられそうだが


「・・・私も、考えてました。

彼女たちは、まさにこれから伸びていく

所だったんです。

特にゆなは、本当に才能に溢れてて、アンチも

かなり少ない子です。

現に今も、あの事件を目撃していたファンからも

彼女の復帰を望んでいる声がかなり多くあります。

仮にアンチの犯行だとしても、あそこまでの事を

する様なファン層ではないと思ってました。」


なるほどな かけられた薬剤の心当たりからも 裏で手引きしている奴がいるのかもしれない もし仮に 彼女の傷を癒せたとしても また同じ事が起こる可能性もある な


「では、どうしたら・・・」


少し 危険があるかもしれんが 考えがある 試みるかは任せるが 話を聴くか?


頷く小石川を横目に、灰皿に伸びた灰を落とし、再び

深く吸い込んだ。


-----


「ゆな、戻って・・来れるんだ?マネージャー。」

神木 ゆなの居たグループは、元々5人の

グループだったが、今は4人で活動を続けている。

今日のステージが終わり、楽屋で小石川はメンバーに

ゆなの復帰を伝えた。

リーダーであるゆなの抜けている穴を、仮の

リーダーとして務めていた悠巻 ちとせが

小石川に聞いた。

「ええ、昨日病院で治療を受けてね。

まだ包帯は外せないけど、このまま何度か治療して

いけば綺麗に治る見込みが高いって言われてね。

ゆなの希望で今度の二周年のステージで

ファンのみんなの前に立ちたいって。」

「そ、そうなんだ!良かった、心配だったから。」

ちとせの言葉に、少し心に引っかかる物を感じるが

ゆなの復帰を喜ぶ4人を見て安堵する小石川。

とはいえ言われた通りに伝えたけど、本当に

治った訳ではない。少しの間は包帯で

隠せるだろうけど、どうするつもりなんだろ?

そのまま、天沼から何も指示の無いまま数日が過ぎ

二周年ライブのリハの日を迎える。

明日は、メンバー立ち上げの頃からホームとして

やってきた小規模の箱でのライブ。

その楽屋にメンバーの集合から少し遅れてゆなと

マネージャーが入った。

楽屋がわっ!と声が上がる。

「ゆなー!良かった!!戻ってきてくれて!」

「大丈夫だった?」

メンバーがゆなの安否を気遣う。

「ゆな。戻ってきてくれて嬉しいよ。

でも、今日いきなりセンターはキツいんじゃない?

包帯で片目も見えない上に、私達と合わせる時間も

無かったし。」

ちとせがゆなに聞いた。ゆなは

「みんなの立ち回り、ずっと映像で見て

練習してきたよ。それにずっとやってきたホームだから

大丈夫!リハで併せさせて。

どうしてもズレるようなら後ろに下がるね。」

「う、うん。分かった。

厳しそうならすぐに言ってね。」


リハの合わせ。

ゆなは見事に噛み合わせてみせた。

前よりも更にキレる動きな上に、発声も

とんでもなく通る。

「ゆなー!すごい!やっぱりゆなだよ!

ゆなが居てくれるだけで全然違うよ!」

メンバーがゆなに抱きつくように集まった。

何で?あれをかけられてそんな簡単に治るはずない。

それなのに、ずっと練習続けてたとでもいうの?

心底喜ぶ他メンバーの横で、表情を笑顔にしながら

強い嫉妬心を浮かべるちとせ。

・・・それならいいわ、ゆな。

まだ、治りきってないのでしょう?その顔。

作り笑顔が、醜悪さの混じる笑みに変わった。

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