【062.休暇・3】
続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。
早朝から行動を開始した。
朝食は抜きだ。
全員が揃い、鉄道に乗った。
「どこに行くんだね?」
「まだ秘密です」
ゆうべもテオは、行き先を白状しなかった。
「楽しみにしててください」と言って。
鉄道に乗るのは、初めてではない。
それでも遠出は初めてだ。
なぜ遠出とわかるのか。
座席が仕切られた個室だったからだ。
6人が座れるテーブルを真ん中に、クッションのある座席が前後にある。
通路側はドアで仕切られていた。
列車が動き出し、しばらくするとドアがノックされ、開かれた。
そこには、客室乗務員と思われる女性が立っていた。
その女性からテオは荷物を受け取った。
するとすぐにドアが閉じられた。
「なんだね?」
「朝食です。予約しておいたんですよ」
包みが広げられた。
それは折り詰めのお弁当。
ドリンクのボトルもある。
お弁当は彩り豊かで、見た目においしそうだ。
使い捨ての手拭いで、手をきれいにして、いただく。
ふたりの女性が“おいしい”と喜ぶ。
確かにおいしい。
「お昼は、ついてからです」
「ちょっとした旅だね」
「ええ」
列車が到着するまでの時間、楽しくおしゃべりをしたり、外の風景を楽しんだりした。
その景色は、まるで軍の基地から王都への道を逆に辿っているかのように、最初は思われた。
だが、途中からはまったく違うのだ、とわかった。
軍までには、畑や工場があった。
それなのにそうしたものは遠ざかり、今見えているのは、多くの池だった。
陽光が水面にきらめいて見える。
まぶしいくらいだ。
「あの池は」とテオ。「小さな隕石群が作ったクレーターです」
「隕石?」
「ええ。人間が来る以前に落下したらしいですよ。“大きめの隕石が砕けて、まとまってこの土地に落ちたんだ”と学者は考えています。そのクレーターに水がたまってできた池です」
「人の姿が見えないけど」とマリーン。
「生き物が住んでいないんだよ。水が毒性を帯びているんだそうだ」
「じゃぁ、利用できないね」とオレ。
「ええ……毒素を取り除いてやればいいのかもしれませんね」
「そうだね。だが、簡単な作業ではないだろう。そもそもその毒素がどこからやってきたのかを調査しなければならん。そこから浄化作業を行なうとしても長い年月が必要だな」
「なるほど。でもひとつのプロジェクト案として、提出できますね」
「仕事にすると?」
「少なくてもこの旅は調査旅行なんですから、それなりの結果は出しませんとね」
「なるほど」
到着したのは、終点ではなかった。
駅を出ると、まわりは意外と開けていた。
「ここは?」
「温泉場ね」とクリス。
「正解。スパリゾートです」
「温泉が湧いてるのかね?」
「ええ」
ホテル行きのバスを見つけ、乗り込む。
ほかにも何人かが乗った。
ホテルに到着すると、テオが手続きを済ませる。
案内係の男性が我々を先導してくれる。
ホテルの裏側に出た。
そこには、丸太が組まれたコテージがいくつも建っていた。
いくつかのコテージの前庭で、バーベキューをしている人たちがあちこちに見られる。
我々は、コテージのひとつに入った。
明るい室内。
木の香りが新鮮だ。
暖炉もあるし、設備は揃っている。
「まずは、それぞれの部屋に荷物を置きましょう。昼食は、すぐですよ」
案内係が、それぞれの部屋に案内してくれる。
テオ、マリーン、そして、オレたちふたり。
「えっ?」とオレとクリス。
「すみません。ほかに部屋が取れなくて」とテオ。
「困るよ。ねぇ、クリス」
だが、彼女は困惑顔ではなかった。
今にも笑い出しそうな感じだ。
「クリス?」
「いいじゃない、パオロ。それとも私と寝るのは、お嫌かしら?」
「しかし、私たちは」
「そうね、付き合ってるわけではないわね。それが何か? おたがいに独身でしょう? 困ることがあるとは思えないけど」
「しかし……いいのかね?」
彼女は、肩をすくめた。
それでオレは諦めた。
諦めたのとは違うか。
内心、うれしくはあった。
困惑はしていたが。
お昼は、前庭でのバーベキューだ。
火起こしは、すでにスタッフの手で行なわれていた。
食材もすでに下拵えが済んでいる。
あとは、焼いて食べるだけだ。
昼食のあとは、室内でデザートを食べ、ひと休み。
それからみんなでホテルのスパを利用する。
水着を貸し出してもらっての混浴だ。
まわりを見ると、自分の水着で入っている人もいる。
プリント柄かと思うと、それは刺繍だった。
印刷技術がまだ衣服にまで来ていないのだ。
女性ふたりの水着姿を、見て見ぬフリをして見る。
ふたりとも色は違うが、無地のワンピースの水着。
ふたりの身体のラインは、違う。
年齢的なものもある。
マリーンは若々しい丸みを帯びている。
クリスはしなやかな身体だ。
軍のパイロットという仕事のためか、筋肉質ではある。
だが、適度に脂肪もあるので、言われなければふつうの女性だ。
我々は、さまざまな湯を楽しむ。
お湯は透明だが、触れるとヌルヌルとする。
湯温は適度で、のんびりとしていられる。
女性ふたりは、ゆったりしてからマッサージを受けに行った。
「我々は、どうするのかね?」
「トレーニングジムもありますけど」
「温泉に来ているのに?」
「言うと思いました。でも汗はかきたいでしょ?」
「汗ならここでも」
「いいから」
テオに連れられて、別棟の建物に入った。
そこでトレーニングウェアに着替えさせられ、別の部屋に入る。
長さが10mはある部屋で、砂が一面に張られている。
その砂から人間の頭が出ていた。
身体の部分は、砂が盛り上がっている状態だ。
どうやら砂に埋められているらしい。
「おいおい、まさか」
「砂風呂です。結構、汗をかくらしいですよ」
スタッフが有無を言わせず、空いている場所にオレを仰向けに寝かせた。
砂はそれなりの熱を持っていた。
熱くはあるが、ヤケドするほどでもない。
身体の上に、さらに砂をかけられていく。
オレもほかの客たち同様の状態になった。
身体を動かしてみようとがんばってみたが、身動きひとつできない。
「どのくらい、こうしていなくちゃならないんだね?」とスタッフに訊く。
「人にもよりますが、30分前後ですね」
「そんなに」
「体内の老廃物が結構出てきますよ」
「毎日、汗をかいて、出してるつもりなんだがね」
「それとこれとは別みたいです」
微笑んでそう言うとスタッフは離れていった。
となりでは、テオも同様に砂風呂に埋められていた。
「テオ、やったことがあるのかね?」
「私が? まさか。落とされる前も落とされたあともやったことはありません。あるのは知ってたんですけどね」
「ほかの惑星にもこんなのがあるのかね」
「ええ。火山活動のある穏やかな惑星は、結構、観光地化しているんです。温泉地にはこういうのが多いですね」
「そうだったか。私もあちこち行ったが、こうした施設に足を向けたことはなかった」
「仕事ばかりで?」
「あはは。そうとも言うがね」
オレは黙って、目を閉じた。
読書の時間にしたのだ。
記憶の本棚から一冊の本を取り出し、その本のしおりをはさんだページを広げる。
今読んでいるのは、雑学の本だ。
これなら寝てしまっても困ることもない。
こうした雑学の本は、ほかの専門書を見る上での手掛かりになるときがある。
入門書なんかがないと、専門書は苦痛のタネだ。
どう攻めても、基礎がないから単なる文字の羅列にしか見えない。
ときには、学生を雇って、勉学に励まなければならないときもあった。
その学生すらいないような分野もあり、難渋して、結局、手放すしかなかったりもする。
読書をしていると、30分というのは早いもので、スタッフに声をかけられて初めてそれだけの時間が経ったことに気付いた。
砂がかき分けられて、身動きできるようになり、上半身を起こした。
トレーニングウェアは汗でびっしょりとぬれている。
「おやおや。すごい汗だね」
となりでテオも起き上がる。
「思った以上ですね」
スタッフがドリンクを手渡してくれた。
「少しそのままでいてください。体内の水分が少なくなっているので、立ち上がるとめまいを起こして、倒れてしまいますので」
ドリンクを飲んでみると、冷たくはなく、塩味や甘味が薄く感じられた。
身体に染み込んでいく感覚がある。
「先生、どうです?」とテオ。
「まだなんとも。だが、スッキリした気はするよ」
10分ほどで砂場から立ち上がる。
めまいはしない。
別の部屋に連れていかれた。
トレーニングウェアが脱がされ、シャワーを浴びるように言われた。
身体についた砂や汗を流す。
さっぱりすると身体が軽くなったように感じた。
ホテルが貸し出すパジャマのような服を着て、ロッジに戻った。
テオがドリンクを出してくれる。
しばらくすると、ふたりの女性が戻ってきた。
ふたりとも肌がツヤツヤだ。
クリスは若返ったように見える。
その日の夕食は、ホテル内のレストランで食べた。
食材も調理方法も飾りつけも、目新しいものだった。
読んでいただき、ありがとうございます。面白ければ、ブックマーク、評価、リアクションをお願いします。励みになりますので(汗)




