【060.休暇・2】
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食料品を購入して、冷蔵ロッカーに預けると、彼女の買い物に付き合った。
クリスは、久しぶりの休暇よ、と言っていた。
もちろん、週に一度の休暇はあるが、今回の休暇は夏期休暇だそうだ。
「本当は、避暑地に行きたいところなんだけど。それほど長い休暇でもないし」
「それでどこに滞在を?」
「ビジネスホテルのシングル。兵舎とあまり変わらないわね」
「それでは、せっかくの休みにならないじゃありませんか」
彼女は、肩をすくめた。
オレは、フェイスを出して、テオに電話した。
彼は今、部屋にいるはずだ。
「はい、先生」
「テオ、どこかに女性がひとりでも快適に過ごせる部屋はないだろうか? 数日の予定なんだが」
「城内にですか? それともホテルでしょうか?」
「ホテルだと高いかな? 私が払えるくらいだとありがたいんだが」
「おや、先生が興味を持つ女性が現れましたか」と笑っている。
「茶化さないでくれ、テオ」
「失礼しました」と言いながらまだ笑っている。「先生が払う必要はありませんよ。文化院に調査費として計上できます」
「いや、そんな。個人的なことに」
「先生、我々の調査費、ほとんど使ってないんですよ」と不平をもらすテオ。
「使うところがないんだがね」
「それでもです。そうだ、どうせならみんなで夏期休暇を取りましょうよ。調査旅行として」
「調査旅行? 確かに夏期休暇を申請するように、とは室長に言われていたが」
「3人で調査旅行に行くんなら、夏期休暇とは別になりますけどね、仕事ですから」
「夏期休暇はどうするんだね?」
「旅行のあと、別々に取るとか。そのへんは各自の判断に任せればいいかと」
オレは、フェイスを手で押さえて、クリスに尋ねた。
「我々と調査旅行に行くかね? といってもどこに行って、何をするかも決めていないんだが」
「いいの? ご一緒しても」
「内実は、仕事をサボることだがね」
彼女が笑いながら、うなずいた。
フェイスから手をどけ、テオと話す。
「OKだ。避暑になるといいんだが?」
「もちろんです。手配して、折り返し連絡します。マリーンにも要望を訊いておきますね」
「そうだな。よろしく頼むよ」
「ちなみに先生」
「なんだね?」
「その女性、大人ですよね?」
「もちろんだが?」
「おきれいなかたですか?」
オレはチラッとクリスを見た。
彼女が首を傾げる。
「それなりにね」
「隅に置けませんね。ではのちほど」
切れた。
「手配してくれるそうだ」
「向こうのかた、最後になんて?」
「変に勘ぐっててね。私とあなたのことを」
「あら、うれしい」
テオからの折り返しの連絡は、買い物途中の休憩にレストランで食事をしている最中にメールで来た。
「おやおや」
「なんです?」
「今夜は、顔見せがてら、ホテルのレストランでの夕食だそうだよ」
「あら。ホテルは?」
「〈リッチモンド〉だそうだ」
「まぁ、そんな高級なところで?」
「普段着でいいそうだ。彼らもああいう雰囲気を味わいたいのだろう。だが、気兼ねもしたくないらしい」
「よさそうですわね。でもパオロ、その服装はやめた方がいいと思うわ」
そう言われて、自分の服装を見た。
定番服だ。
「どこかおかしいかね?」
「汗染みが乾いて、塩を吹いてるわよ」
改めて、服装を見る。
確かにあちこちに白い跡がついている。
仕方なく、新しい服を購入した。
ホテル〈リッチモンド〉は、城下の一角にあった。
高層ビルだ。
車止めの屋根付きロータリーがあり、正面にガラス張りの玄関。
ふたりの若いボーイが立っている。
ひとりのボーイがドアを開けてくれた。
自動ドアなのだが。
エントランスホールには、豪華なソファーとテーブルが、ゆったりとした空間を演出していて、客の多くが座ってくつろいでいる。
通路をはさんで反対側にカウンターがあり、宿泊客を受け付けている。
ソファーの一角で、テオとマリーンがこちらを見つけて立ち上がった。
そちらに近づく。
彼らもソファーから離れた。
合流して、軽く挨拶。
すぐにエレベーターに入った。
エレベーターボーイに、レストランのある階を指示するテオ。
ボーイが“かしこまりました”とエレベーターを動かす。
テオとマリーンの服装は、落ち着きのあるものだ。
こちらもそれなりの服装になっている。
エレベーターが到着して、その箱を出る。
全体的に薄暗く、間接照明があちこちにあった。
壁の色は、暗赤色だ。
レストラン入り口で、ボーイが立っており、予約の有無を確認。
中に通され、別のボーイにテーブルに案内された。
そこは、窓辺の席だった。
眼下に広がる城下の街灯。
もう夜になっている。
テーブルの上のカトラリーは、フランス料理の配置だ。
我々は、まず自己紹介をした。
テオ、マリーン、そして、クリス。
オレの自己紹介はいらない。
3人ともに知っているのだから。
自己紹介では、クリスの仕事は話していない。
「それで、先生とはどういうお知り合いなんですか?」とテオ。マリーンも身を乗り出して、興味津々な顔だ。
オレが答えようとすると、クリスがオレの腕に手を置いて、自分で答えた。
「彼がこっちに来たときに知り合ったのよ。今日は偶然出会ってね」
「偶然?」とふたりが怪訝な顔をする。
怪しい、と思っているのだ。
「ウソではないぞ」
クリスがクスクスと笑いはじめた。
それを見るオレたち3人。
笑いをやめ、テーブルの3人を見るクリス。
「本当のことだけど、白状するわ。私は、軍で〈落とされ人〉回収をしているの」
「ああ、それで先生と知り合ったんですね」とテオが納得する。
「ええ」
「でも」とマリーン。「私は会ってませんよね?」
「そうね。でも私ひとりで回収しているわけじゃないから」
「ああ、そうですね」
そこへ給仕がやってきて、スープを配っていく。
「食べはじめようか」とオレ。
3人もうなずく。
スプーンでスープをすくいながら話す。
「〈落とされ人〉は、どのくらい回収されたんですか?」とテオ。
「私だけで?」
「おひとりのときもあったんですか?」
「ええ。パオロとはひとりのときに会ったのよ。いると思ってなかったから驚いたわ」
「どうして? いるから迎えに」
「定期的に見回っていたのよ。上空から見たらポッドが着陸しているのが見えたの」
ポッド、つまりあの白いボール型の着陸船だ。
一般には、そう呼ばれていた。
「上空って?」とマリーン。
「飛行機に乗ってたの。それで見回るから」
「飛行機といっても」とオレ。「ひとり乗りのジェット機だった。突然、陽射しをさえぎって、影が落ちてきたんだ。仰ぎ見ると、小さなジェット機だった。急いでそのジェット機の向かう先へと走ったよ。着陸場へだ」
「ジェット機?」とテオ。驚いている。「軍は実用化してたんですか?」
「ええ」とクリスが答える。「実験段階はすでに終わって、2年前に実用化したの。私はもともとパイロットだったからそのまま採用されたわけ」
「へぇ。今、何機あるんですか? あっ、機密事項か」
クリスがクスリと笑った。
「そうね。それなりに、とだけ言っておくわ。彼が現れたとき、上空から見て、誰かがいるとは思っていたから、彼を見て驚くとは思ってなかったの」
「驚いたのかね? 私の登場で」
「ええ。だって、あなた、身綺麗にしてたから。さすがに服装は獣の革で作ったのはわかったけど」
「いつかは迎えが来るだろうと思っていたから」
「どうしてです? 先生」とテオ。
「先に6人が落とされていたんだ、その島には。ポッドが6個あったからね。彼らはひとりを除いて、いなくなっていた」
「ああ、ひとりは、殺されていたんでしたね」
「そう。つまり、残りの5人はどうやってか島を脱出した。だが、船を作れるような材料も道具もなかった。イカダを作ったにしてもその痕跡もなかった。だから迎えが来たんだろうと推測したわけだ。そこでいつ迎えが来てもいいように身だしなみは整えていたんだ」
「そんなだったから」とクリス。「彼を見て、驚いたわけ。思わず、到着してからの日数を訊いたのよ。そんなことは初めてだったから」
「そうなのかね?」
「ええ。たいていは、むさくるしい姿で現れるのがふつうよ、パオロ」
「先生は、変わってますからね」と笑うテオ。「でも尊敬してますよ」
「けなしてるのかね? それとも褒めてるのかね?」と不満を表すオレ。
「褒めてるんです。先生の知識がなければ、薬だって手に入らなかったんですから」
「薬もなの?」とクリス。「軍も助かってるのよ」
「役立ってくれることこそが、喜びだよ」
「そうね。でも本当に助かってるの。兵士は、よく訓練をするんだけど、どうしてもケガをするのよ。抗生物質がないころは、化膿を止めるには、傷口の消毒を一日に何度も繰り返さなければならなかったの。すり傷ならそれほど頻繁にすることはないんだけど」
「それはよほどの菌だね」
「ええ。軍では“腐肉食い”と呼んでるわ」
「先生のおかげで」とテオ。「そうした菌にも対処できますし、ほかにも有益な薬が出てきたんですよ」
「そうかね。うれしいよ」
「それだけじゃありませんよ、先生。動植物の解析が進んだおかげで、食料の幅が広がったんです。システム開発も必要な理論やツールがわかって、開発に拍車がかかってるそうです。ほかにもたくさんあるんですよ、先生のおかげで助かっている分野は」
「そうかね」
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