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落とされ人  作者: カーブミラー


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55/67

【055.旅立ち】

続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。

 ある夜。

 普段は、足元で眠るレフティーが、枕元に来た。

 ゴロッと横になると、オレのホオに頭をこすりつける。

 そのようすで、オレは気付いた。

 そういうことか、と。

「明日、帰るんだね、レフティー」

 オレのささやき声に、レフティーは小さくピーッと鳴いた。

「そうか」

 オレは、彼女の身体の上に手を置いて、その翼をなでる。

 レフティーの身体から、芝生のニオイがした。

 太陽を浴びて輝いている芝生の。

 おそらく、トールとエレナも同じニオイがするだろう。

 そう言えば、彼女たちについてしまった人間のニオイは大丈夫だろうか?

 仲間が人間を恐れていなければいいが。

 まぁ、そのときは3人でなんとかできるだろう。

 いまさら心配しても仕方がない。

 彼女とともにマブタを閉じた。

 しばらくするとバサッという音がした。

 もう一度、バサッ。

 マブタを開けようとした瞬間に、胸の上に重みを感じた。

 レフティーとは反対側にも気配を感じた。

 マブタを開くと、胸の上にトールが、枕元にはエレナが立っていた。

「おまえたちも一緒に寝るか。だが、トール、胸の上はやめて欲しいな」

 だが、トールは、そこに腰を落ち着けてしまう。

「やれやれ。エレナはそこでいいな」

 エレナもすでに腰を落ち着け、こちらを見ていた。

「おまえたちともお別れか」

 トールは、眠たそうにアクビをすると、すぐに丸まって眠ってしまう。

 あの小さかったヒナが、もう結構な体重だ。

 重いが、これが最後と思えば、我慢もできる。

 エレナも身体を丸めた。

「みんな、お休み」

 3人は、小さな寝息を立てて、眠る。

 マブタを閉じ、オレも眠ろうとするが、トールの重さも手伝って、なかなか眠れない。

 自然と今までの思い出がよみがえる。

 初めてレフティーと出会ったこと、そのレフティーがエサを食べたこと、卵をふたつ産んだこと、その卵の殻が割れていくところ、中から出てきたヒナのこと、それから……

 いつのまにか、オレは夢の世界に入っていた。


 翌日。

 朝食時にテオと話す。

「どうやら今日、帰るらしい」

 テオは、なんのことかわからずに、オレを見た。

「レフティーたちだよ。ゆうべ、3人で私のベッドの上にのってきた」

 それでようやくわかったテオは、うなずいた。

「そうですか。お別れの挨拶、ってところですね」

「おそらくね。トールなんか私の胸の上で眠りについたよ。重かった」

「あはは」と笑うテオ。

「朝には、ベッドの足元にいたがね」

「エレナは?」

「レフティーとともに枕元だよ。ふたりはそのままだったね」

「そうですか」


 テオがいなくなると、オレは寝室を開け、玄関ドアも開けた。

 3人が池へと向かう。

 小魚を獲るために。

 用意したエサは、ここのところ、食べていない。

 小魚の方が、おいしいのだろうか?

 それとも小魚の方がカロリーがあって、飛ぶために必要なのかもしれない。

 オレは、仕事を休むことにした。

 少なくても3人が旅立つまでは。


 3人が羽ばたきをはじめた。

 バサバサと音を立てる翼。

 身体を支えるようにしっかりと踏ん張っている。

 飛び立つ前の準備運動だろう。

 充分に食べ、全身の羽づくろいを丹念にしたあとだった。

 人間なら何か餞別を渡すのだろうが、彼らに持たせられるものもない。

 オレは、その姿を見続けるしかなかった。

 3人が羽ばたきをやめる。

 レフティーがオレに向きなおる。

 若いふたりも。

 そのふたりの頭に小さなツノが生えているのが見えた。

 もう充分な大人になったのだ。

 あとは、北に帰り、群れと合流し、パートナーを見つけるだけだ。

 レフティーが鳴いた、ピーッと甲高く。

 子どもたちも同じように鳴いた。

 オレは、うなずいた。

「わかってる。元気でな」

 3人がもう一度鳴いた。

 それからレフティーが腰を落とし、首をまっすぐ上空に向け、ジャンプした。

 翼を羽ばたく。

 一気に空へと躍り出た。

 彼女に続いて、エレナが、トールが、と続く。

 レフティーが先頭に立ち、編隊を組む。

 庭園の上を旋回する。

 上空から“さよなら”と鳴く3人。

 その姿に手を振った。

「気をつけて行けよ!」と両手でメガホンを作って、大声で応えた。

 3人は、どんどんと上昇していき、旋回の輪も広げていく。

 その姿が小さくなって、点にしか見えなくなった。

 その三つの点が、旋回をやめ、北へと進路を変えた。

 オレは、その姿が見えなくなるまで、見送った。

 城の壁がなければ、地平線まで見続けただろう。


 昼食を食べた。

 味気なかった。

 それでも食べた。

 それから仕事道具を片付ける。

 明日から事務室での作業に戻るためだ。

 それが終わると、寝室を片付ける。

 彼らの巣にしていた引き出しをきれいにして、もとの場所に戻す。

 そうだ、釣具屋に電話して、エサを断らなきゃ。

 すぐに電話した。

 釣具屋は、「そうですか、行ってしまいましたか」と残念そうに言った。

 室長にも電話した。

「そう。ご苦労様でした」

「明日からそちらでの仕事に復帰します」

「わかりました。陛下には?」

「御知らせした方がいいですね。客人が旅立った、と」

「ええ」

 陛下には、メールでお知らせした。

 すぐに電話があった。

「もう旅立ったのか?」と驚いている。

「はい。北に向かって、帰っていきました」

「そうか……残念だな。だが、仕方あるまい」

「はい」

「そうか……仕事に戻るのだろう?」

「明日から事務室の方で、再開しようかと」

「そうだな」

 陛下の方から電話が切られた。


 事務室に仕事道具を運び込む。

「あら、もう持ってきたの?」と室長。

「ええ」

「大丈夫? あんまり顔色がよくないけど」

「ご心配なく。さみしいだけですから」

「そう」

 いつでも仕事に戻れる状態にしておく。

 だが、時間がまだまだあった。

 そこで軽く仕事をはじめた。

 何もしていないよりはいい。

 室長もテオもマリーンもほかの人間も、そのことを黙認していた。


読んでいただき、ありがとうございます。面白ければ、ブックマーク、評価、リアクションをお願いします。励みになりますので(汗)

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