【051.認識票】
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ヒナは、公募の結果、“トール”と”エレナ”と名付けられた。
大きさも倍近くに成長している。
身体は、白い羽毛が覆っている。
口の先にあったツノは、いつのまにか取れていた。
研究者によれば、卵を割るためのツノと考えられていて、必要がなくなれば、自然に取れてしまうのだそうだ。
ツノといえば、頭に生える2本のツノもある。
こちらは、大人になってから生えるもので、骨ではなく、人間のツメのような角質で、それほどの硬さはない。
なぜ生えるのかは、研究者もまだわかっていない。
レフティーの包帯を解く。
透視装置を見てもしっかりと骨折部分がくっついている。
接木も外す。
レフティーが、翼を広げた。
軽く羽ばたいて、ようすを見ている。
「どうだ?」
ピーッとひと鳴き。
“いいみたい”と聞こえる。
「そうか。さすがに筋肉が弱っているから飛べないだろう。ヒナたちと一緒に飛ぶ練習が必要だな」
“そうね”と鳴く。
それから彼女は羽づくろいをはじめた。
羽のひとつひとつを口できれいにしていく。
ヒナたちは、満腹で眠っている。
もうレフティーが温めてやる必要もない。
二日後。
リクライニングシートで仕事をしていると、突然、腹を殴られたような感覚。
うっ、とうめいて、マブタを開けた。
腹の上にレフティーがいた。
彼女は、“何しているの?”と問いたげ。
寝室のドアは、開けていた。
人間はオレだけだったし、騒いでいるわけでもない。
彼女はどうやら、飛んだのではなく、ジャンプして、ここまで来たらしい。
まぁ、翼を広げて、滑空くらいはしたかもしれないが。
彼女の頭をなでる。
「仕事をしていたんだよ」
“ふうん”と彼女は興味のない顔。
部屋を見回している。
ふと思いついた。
「外に出てみるかね?」
彼女が首を傾げる。
彼女を腹から下ろして、リクライニングシートから降り、玄関ドアに向かう。
玄関ドアを開けると庭園が広がっていた。
その光に彼女がピョンピョンと跳ねながら、こちらへとやってくる。
「少し外の空気を吸うといい。ずっと部屋の中だったからね」
彼女とともに庭園に出る。
彼女の歩調に合わせて、歩く。
庭園には、花が咲いていた。
春の花で、淡い感じの赤紫、青紫、ピンク、イエロー。
大小さまざまだ。
そんな花に負けじと、若葉が輝いている。
レフティーが翼を広げて、芝生の上を走りはじめた。
子どもが、ブーンッと飛行機の模型を手に走りまわる光景に似ていた。
ときどきフワッと浮かび上がっては、滑空する。
羽ばたくほどの筋力はないが、滑空はできるらしい。
ということは、骨も充分に治っている、と考えられる。
フェイスを取り出して、彼女のようすを撮影しておく。
あとでネットに出すつもりで。
廊下に人影が現れたのに気付いた。
その人物もこちらに気付いた。
「おお、治ったか」
「陛下」
女王陛下は、秘書とともにその場に立っていた。
レフティーが、滑空したまま、部屋へと飛び込んだ。
陛下のそばに行く。
「あのようすですから、骨は充分につながったかと」
「そのようだな」
「何か御用で?」
陛下は、秘書から何かの袋を受け取った。
それをオレに手渡す。
「なんです?」
中を覗き込む。
何やら小さな板が三つ。
それとペンチ?
「〈アーズ〉の使者が持ってきた。竜の足につける認識票だそうだ」
〈アーズ〉とは、北部の隣国――渡り竜が住んでいる国――の名前だ。
「認識票?」
小さな板を取り出してみる。
板には、番号が書かれていた。
「それをつけておけば、我が王国に属している竜だ、とわかるのだそうだ」
「ああ、なるほど」
「しかし、渡り竜のおかげで、国交がつながるとは思いもしなかったぞ」
「私もです。その後は、どうなのですか?」
「順調だ。まずは、医師団を派遣した。病気が蔓延しているわけではないが、医療を必要とする人が多いらしい」
「自然災害もあるとか」
「そうだ。活火山もあるし、地震も多い。夏場は水が不足し、冬場は雪に閉ざされる。彼らにとっては過酷な土地なのだがな」
「それだけ愛着があるのでしょう」
「うむ。だが、我が国の支援があれば、彼らの苦労も減る。このまま、交渉が進めば、無駄な争いをせずに済むしな」
「争いは激しかったのですか?」
「いや、小競り合い程度だ。それでも死傷者が出ている。今までは交渉にも応じてくれなかった」
「どうやって接触を?」
「〈アーズ〉との国境沿いに闇市があってな。そこを経由したそうだ。こっちの品は、よく売れるそうなのだ」と笑う。
「使えるのですか?」
「電化製品は無理だな。だが、金属製品などは品質がよくて、長持ちするんだそうだ。使い勝手もいいと聞く」
「なるほど」
「まぁ、いずれ、両国の人や物が自由に行き交うようになるだろう」
「いいことです。そうなれば、新たな知識も増えますね」
「そうなればと願っている」
陛下は、秘書にうながされて、戻っていった。
オレは、さっそくレフティーたちに認識票をつけることにした。
その前に認識番号を記録しておく。
番号は、すでに〈アーズ〉の研究者に登録されているだろうから、その番号を問い合わせれば、向こうに帰っても、元気でやっているかがわかるだろう。
レフティーは怪訝な顔をしながら、オレがすることを見ている。
「これをつけていれば、人間に撃たれなくてすむぞ。いや、猟師がいるとは限らないか」とひとり笑った。
その認識票を彼女の右足にはめこみ、ペンチのような道具で締めつける。
外れないようにするだけでいいだろう。
それをつまんで、上下させてみる。
歩くのに支障もなさそうだ。
彼女は、認識票を口先でつついている。
ちょっと気になるようだが、すぐに気にならなくなるだろう。
寝ているヒナたちにもつけた。
身じろぎはしたが、起きるようすもなかった。
「これでよし」
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