【049.関心】
続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。
ヒナの食欲は、半端ではなかった。
マリーンには、今までの3倍を購入してもらうことになったのだが……
エサの購入から帰ってきたマリーンが、「釣具屋さんが、配達してくれるそうです」とうれしそうに報告してくれた。
彼女にとっては、エサの虫は、身の毛もよだつ存在だ。
今までは、なんとか我慢してくれてはいた。
釣具屋は、そうした彼女の愚痴をずっと聞いていたのかもしれない。
3倍の販売量になるならば、愚痴を聞き続けるよりも配達した方がいい、と判断したのだろう。
だが、こちらとしては、助かる。
テオは、自分の時間を卵の組み立てに費やしていた。
まるで考古学者が、土器の破片を丹念に再生しているようだ。
殻と殻のヒビを合わせ、裏側に紙を接着剤で貼る。
出来上がっていくさまを見ていると、まるでヒナの孵化のビデオを逆回転で見せられているかのようだった。
ヒナのようすは、ビデオカメラをコンピューターにつなぎ、ネット上で見られるようにした。
これは、室長からの要請だった。
あとから聞いたのだが、これは陛下の希望でもあった。
間近に見たかったのだろうが、レフティーが近づけさせない。
それでも見たい。
そこでネットで見られるようにしたわけだ。
これもあとから知ったのだが、その映像は一般にも公開されていた。
王国では、空を飛ぶ渡り竜を見れても、その巣を見れることはほとんどない。
しかもヒナを見るなど。
ネットで公開されたのは、これが初めてだった。
そこには、エサを与えるオレの手も映るのだが。
テオの作った卵も画像がネット公開された。
その卵は、まるでヒビが入っていないかのように見えた。
艶消しの黒だったが、美しい造形物になっている。
玄関チャイムが鳴った。
ちょうど仕事をしていたところだった。
テディーが来客が誰であるかを教えてくれ、オレはすぐさま、玄関ドアを開けた。
そこには、陛下が立っていた。
「陛下」
「どうだ? 客人のようすは。まぁ、ようすは映像を見て、知ってはいるがな」とニコヤカだ。
部屋の中に招き入れる。
「そうでしたか。客人は今、みな、お腹いっぱいになって、眠っております」
「そうか。本当は、直に見たいところだが、お休み中なら仕方あるまい」
「御気を遣っていただき、ありがとうございます」
彼女がクスクスと笑った。
その意味がわからなかった。
「パオロは、客人の身内なのだな」
「ああ。いつのまにか、そうなってしまいました」とオレも笑った。
イスを勧めたが、断られた。
立ち寄っただけだという。
「それと」
「はい」
「ヒナの名前は、もう決まったのか?」
「いえ。まだどっちがどっちなのかもわかりませんし、オスメスもわかりませんで」
「オスメスか。わからんと名前を決めるには不利だな」
「はい」
「そうか……名前を公募してみてはどうかと思っていたんだが」
「公募、ですか」
「うむ。ネットで公開されてから、国民の関心が高まっておるんだ」
「国民の関心が? 一般にも公開されていたのですか?」
「そうだ。知らなかったか」
「はい」
「人気だぞ」
「はぁ」
「なんにせよ、国民の関心を引いているのだ。私としても王室としてもありがたいのだ」
「どうしてでしょう?」
「王室の存在は、それほど目立つわけではない。かといって、忘れ去られても困る」
「ははぁ、客人に注目が集まれば、王室に目が向けられる、ということですか」
彼女がうなずく。
「こういう機会でもないと、なかなかな。だから王室が名前を公募しようというわけだ」
「なるほど」
「しかし、性別がわからないとは」
「レフティーでさえ、わかりませんでしたからね。もっとも渡り竜を見たことすら、私も初めてでしたから」
「そうだな。専門家もいないのだから仕方あるまい」
「本来、住んでいる土地の人ならわかるのかもしれませんが」
「ふむ」と考え込む陛下。「難しいと言わざるを得まい」
「確か、敵対勢力の土地でしたね」
「うむ」
「渡り竜が渡ってくる土地はどうでしょうか?」
「沼地でな。巣は藪の中で、人を寄せ付けないのだそうだ。せいぜい漁師が魚を獲るくらいだとか」
「なるほど」
どちらにせよ、情報は得られないか。
特に必要な情報でもないし。
性別がわからずとも名前は決められる。
それに巣立ってしまえば、あとは安心していられるだろう。
読んでいただき、ありがとうございます。面白ければ、ブックマーク、評価、リアクションをお願いします。励みになりますので(汗)




