【031.過去・2】
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オレたちの部屋は、いつもテディーが掃除をしてくれていた。
だから心地いい生活ができている。
洗濯は、基本、専門業者だから問題もない。
朝食はテディーが作り、昼食は食堂、夕食はテオとふたりで作って食べる。
調理の後片付けはできるだけする。
別にテディーに任せてもいいが、テオのためによくないと思って、そうしている。
彼が、ひとり住まいするようになれば、結局は自分でなんとかすることになるのだから。
オレが料理を覚えたのは、ひとりの女のところに転がり込んだ時期だった。
その当時、オレはまだ子どもで、こそ泥のようなことばかりをして、日銭を稼いでいた。
留守宅を狙って、金銭・物品をいただいていたのだ。
その留守宅から出てきたところを、その女に捕まった。
女は、20代後半のどこかのお嬢様に見えた。
最初、警察に突き出されるのかと思っていた。
だが、女は自宅へと連れ帰った。
女の自宅は、高級マンションのひと部屋だった。
ソファーに座らされたオレは、物色する目で部屋を見渡した。
女が紅茶を用意して、オレの前に出した。
お菓子も一緒にだ。
オレの前に座った女が言った。「空き巣狙いなんて、もうやめな」
その言葉遣いにオレは戸惑った。
金持ちのお嬢様だと思っていた女の口からの言葉とは思えない、ドスの効いた声だった。
オレは、唖然としていたのだろう。
「あたしは、詐欺師だよ。わかるかい?」
それから女がオレの教師になった、詐欺師の。
その中で瞬間記憶術や調理その他を身につけたというわけだ。
女は、ときどき、オレを使って、仕事をした。
弟だったり、従兄弟だったり、友人の兄弟だったりと。
女の仕事の多くは、裕福な独身男性相手で、結婚詐欺までいくことはあまりない。
「詐欺られたとわからないくらいが、ちょうどいいのさ。ヤツラもそれなりに恋愛を楽しむし、こっちも欲しいものは手に入れられるからね」
女が欲しがったのは、お金はもちろんだが、服や貴金属はもちろん、土地・建物などの不動産もだった。
「不動産は、定期収入になるからね。こっちの仕事がなくても、それなりの生活するには必要だよ。仕事にもお金は必要だしね」
女とは、長年をともにした。
そのあいだに詐欺師のノウハウを女から吸収した。
また、詐欺相手の男からもさまざまなことを吸収した。
知識だけではなく、その男やその友人たちの立ち振舞いなんかもだ。
それが今のオレの外面になっている。
オレの初めては、この女ではない。
女が手配した高級コールガールだった。
服装も化粧も高級さをアピールしていて、コールガールの見た目を華やかに見せていた。
コールガールの香水によって、オレは本能むき出しの獣になった。
それがオレの初めてだった。
コールガールは、翌日もやってきた。
女は、“これも仕事のための技術だよ”と言い、コールガールを相手に女性をどう扱えばいいかをレクチャーしてくれた。
そのレクチャーは、10日ほども続き、最初は恋してしまったコールガールが、最後には卑しい存在に思えるようになってしまった。
だからコールガールとは、ビジネスライクに別れることができた。
女が言う。「女に溺れるんじゃないよ。あたしたちの仕事は、溺れさせてなんぼの世界なんだからね」
オレは、その女の言葉を頭では理解していた。
だが、実際には、理解できていなかった。
それを女はわかっていたのだろう。
女は次の仕事で、オレにターゲットの女性秘書に誘いをかけさせ、内部情報を引き出すように指示してきた。
この秘書はまだ若く、オレがのめりこむことはないだろう、と自分自身、高をくくっていた。
それなのに、オレは秘書に恋愛感情を抱いてしまった。
それが表面上だけならいい。
だが、本気になってしまっては、詐欺にはならない。
女に溺れた、というよりは、恋に溺れた、という方が正しいのだろう。
秘書とは仕事が終わったことで、別れた。
苦しかった。
秘書を泣かせた。
女の仕事に、この秘書の情報はいらなかったことが、仕事が終わってから教えられた。
「秘書を泣かせるくらいなら、いい詐欺師だよ」
「悪い詐欺師もいるの?」
「ああ、いるさ。今回の場合なら、秘書を死なせることだね」
「そんな!」
「人を死に追いやれたら、本物の詐欺師なんだろうけどね」
「あるの? 人を死なせたこと」
「ん? そうだね。ひとりの男が死んだ。まだ未熟だったころのことだよ。男の本気を計り間違ったのさ。自分でもショックだったよ」
女は思い出の中で、苦笑した。
女との別れは、女の死とともに訪れた。
仕事相手とのいざこざで死んだわけではなく、事故だった。
ちょうどターゲットの男と乗っていた飛行機が墜落したのだ。
全員が死亡した。
それを知ったオレは途方に暮れた。
そこに連絡が入った。
相手は、女の弁護士だった。
女の遺言として、オレに遺産を相続する、という。
それを受け取り、しばらくはどうすべきかを考えて暮らした。
結局、詐欺師をすることにした。
最初は女の真似事からはじめた。
つまり、女性相手の詐欺だ。
数人を相手にしたあと、それが自分に向いていないことがわかった。
そこでいろいろと調べていく。
これまでの知識を活かし、大学教授や医者や企業家に成りすまして、企業や財団を騙すことにした。
宗教団体もターゲットにした。
都市から都市へと渡り歩き、別の星へも渡って、仕事をした。
パスポートや免許証は、その都度、業者に頼み、偽造した。
仕事を終えると、質素なひとり暮らしに戻り、人との接触を避ける。
そうすることで、次の仕事へのエネルギーを充電できた。
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