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落とされ人  作者: カーブミラー


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30/262

【030.依頼】

続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。

 室長からの指示で、指定の場所に向かった。

 城内の中心地に近いエリアだ。

 そのあたりは、近づいたことがない。

 なぜなら王室関連施設だからだ。

 厳重な警戒が敷かれている。

 指示されたドアをノックした。

 すぐにドアが開く。

 ドアから顔を出したのは、50代後半の男性。

 白髪の交じるこげ茶色の髪は縮れ毛で、それを後ろでまとめている。

 肌は、黄色人種のものだ。

 そのこげ茶の瞳が、オレを値踏みする。

 オレは、自分の名前を告げる。

 彼は、表情を緩めて、微笑み、中へと通した。

 部屋の反対側に開け放たれたドアがあり、その向こうには、緑の庭園が見えた。

 彼が先に立って、そのドアをくぐる。

 オレもあとに続く。

 庭園には、4人がけのテーブルがひとつと、ふたつのイス。

 テーブルの上には、カトラリーがふたり分用意されている。

 片方のイスを勧められ、腰を落ち着けた。

 つまり、誰かと昼食を一緒に取ることになるわけか。

「しばらくお待ちを。何かお飲みになられますか?」

「常温の水があれば」

「すぐにお持ちいたします」

 彼が下がるのを見送って、まわりを見渡す。

 別のドアがいくつかある。

 庭園としては、広くはない。

 緑は、壁際に低木が配されている以外は、芝生だけだ。

 低木には、花が咲いていた。

 赤紫の小さな花が、咲き乱れている。

 彼が戻ってきて、オレの前に水の入ったグラスを置いてくれた。

「ありがとう」

「いえ」

 彼は、その場から離れ、ドアのひとつに入っていった。

 オレは、グラスから水を飲む。

 冷えた水もうまいのだが、空っぽの胃に入れるには、ショックが大きい。

 それで常温を頼んだのだ。

 ジュースやアルコールという選択肢もあったが、どんな昼食になるかわからないため、舌を下手に刺激したくなかった。

 それはともかく、相手は誰だろう?

 その相手の話も気になる。

 まぁ、こういうときは、何を考えても、何を心配しても無駄なのだが。


 水もほとんどなくなりかけたころ、さきほどの彼が出てきて、別のドアへと入っていった。

 そこから彼と一緒に出てきたのは、ひとりの少女だった。

 オレは驚いて、イスから立ち上がり、右手を胸に当て、頭を垂れた。

 その少女は、女王ノーラだったからだ。

「陛下」と声をかける。

「久しぶりだな、モーガン殿。息災であったか?」

「はい。陛下も御元気そうで何よりです」

「うむ。まぁ、堅苦しいのはなしにしよう。座るがよい」

「ありがとうございます」

 陛下のイスを50代後半の男が引き、そこに座るのを待って、オレも座る。

 男はひとつのドアを開け、中に声をかけた。

 するとそこからふたりの男女が出てきた。

 給仕役だろう。

 手に持った皿を目の前に置く。

 スープだ。

「まずは、食事だ。話はあとにしよう。腹ペコでな」と陛下が微笑む。


 デザートを終えると、紅茶が配られた。

 陛下は、目に見えて、くつろいでいた。

 給仕たちは、壁際で待機している。

「ルーカスから聞いたぞ。いろいろと役立っているそうだな」

「そうであればと思っております」

「生活に不便はないか?」

「これといって。あれば、すでに文句を言っております」と笑顔を見せる。

「それもそうだな。外出はしてみたか?」

「二度ほど。街を軽くぶらついた程度です」

「そうか。私もぶらつきたいが、身分が邪魔をしていてな」

「一度も?」

「いや。城を出る際には、城下を通るのだが、ほぼ素通りだからな」

「ああ、なるほど」

 おたがいに紅茶を飲む。

「ところで」

 ようやく本題に入ってくれるか。

「はい」

「おまえの知識の中に、薬の作り方はあるか?」

 すぐに思いつかず、リストから検索する。

 見つかった。

「はい、ございますが」

「そうか。よかった。じつはな、我が国では、いや、ほかの国でもそうなのだが、必要な薬が手に入らずに、命を落とす患者が多くてな」

「医者がいても薬がなくては、意味がありませんからね」

 詐欺で医者になったこともある。

「そうなのだ。だが、この惑星では、薬の入手は難しい。なんとかしたいのだが、手にできるもので薬になるのは、ほんの一部だ」

「なるほど。そうなると、いろいろなものから薬効を調べたりしないといけませんね」

「うむ。人間の身体でわかるものは、限度があるし」

「ふむ。人工的に作り出さねばならないものもありますね。何か早急に必要な物はございますか?」

「抗生物質だな。ほかにもいろいろとあるが」

「わかりました。ルーカス室長と相談して、検討してみることにいたします」

「そうしてもらえると助かる。薬があれば、ほかの国との交渉にも使えるしな」

「確かに。いままでに流行り病とかはなかったのですか?」

「先王が存命中に一度な。死亡者はなかったが、後遺症で苦しんだそうだ」

「そのときには、薬は何も?」

「そう、何もなかった。医者は対処療法でなんとかしのいだが。また発生したらどうなることか」

「御心痛、お察しいたします」

「うむ」

 それから少し仕事の話をして、陛下は出ていかれた。

 御昼寝をされるのだろう。

 オレもその場をあとにした。


 文化院の部屋へと戻って、室長に報告した。

「そうね。何が必要になるか、まとめてもらえるかしら?」

「わかりました」

 オレは自分の席につくと、すぐさま記憶から薬学関連の情報を調べ、未知の動植物や鉱物から分子を分析する装置や遠心分離機など、製薬の各工程に必要な機材や知識をコンピューターに書き出した。

 それを室長に見てもらう。

 彼女は、首を振った。

「おそらく、ほとんどを一から作り出さないといけないわね」

「そうでしょうね」

「作れると思う?」

 それだけの知識があるか、と彼女は訊いているのだ。

 今までにも知識が足らなくて、できなかったものもあるのだ。

「できます。すでにある技術を組み入れれば」

「そう。なら準備をお願い。必要な人員を手配するわ」

「わかりました」


 必要な知識を記憶からイメージとして取り出し、それをテオが文字データ化していく。

 オレは、今ある技術をチェックして、どこにそれを使うのかを調べておく。

 そうした作業は、もう手馴れたものになっていた。


 プロジェクトが発足され、資料が引き渡された。

 あとは、彼らに任せればいい。


 オレとテオは、それまでやっていた仕事に戻る。


読んでいただき、ありがとうございます。面白ければ、ブックマーク、評価、リアクションをお願いします。励みになりますので(汗)

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