【029.過去・1】
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オレが終身刑となったのは、人を殺したからだ。
直接的にではない。
間接的にだ。
だが、自殺に追いやったのだから、殺人だと言われれば、そのとおりなのだ。
オレは、人を騙して、金品や情報を手に入れる。
いわゆる、詐欺師だ。
そのための知識を必要とする。
知識を頭に入れるための瞬間記憶術なのだ。
詐欺のターゲットは個人だったり集団だったりするが、記憶した知識を使って、信用させ、騙す。
人から依頼されることもあった。
その分、見返りは要求した。
人を騙すためにいろいろな人間になりすます。
医者や学者、設計士やトレーナーなどなど。
人々は、簡単に騙される。
第一印象で、ある程度の好感をもたれれば、あとは騙し続けるだけだ。
稼いだお金は、口座に入れて、次の詐欺に使った。
金のかかる詐欺もあるのだ。
自分の欲求のために使ったのは、ほんの一部だった。
なぜなら仕事以外では目立たないようにしていたからだ。
大金を使えば、目立つ。
目立てば、まわりの人間が目の色を変える。
やがて、警察に見つかり、捕まってしまう。
過去、何度も捕まって、臭いメシを食った。
裁判も何度か受けた。
そのたびに顧問弁護士によって、刑を軽くさせてきた。
場合によっては、お金で解決することもあった。
わざわざ刑務所に入る必要はないからだ。
刑務所は、人間関係さえ我慢すれば、規則正しい生活を身につけるにはいいところだ。
自分勝手なことをしたくても所内でできることは少ないし。
だが、ムショ暮らしが長すぎるのも困りものだ。
そこで満足してしまう。
オレは、そうなるつもりはない。
次の仕事のために毎日の体力作りは欠かしたことがない。
所内での運動は限られる。
自分たちの部屋での運動は自分の寝床の範囲だし、所内の運動場は自分たちの部屋よりは広いというだけで、ランニングさえできない。
所内の図書室で、新しい知識を仕入れることも忘れない。
次の仕事は、ムショに入った時点で、だいたい決まっている。
ネットが使えるムショならば――たいていの刑務所は使えるが、情報の読み込みしかできないのがほとんどだ。外部との連絡には使えない――そこからも情報を引き出す。
雑学も知識として取り入れる。
ほとんどは役に立つことがないが、話しのネタにはなる。
詐欺をするには、知力も体力も必要だ。
顧問弁護士は、長年、オレを弁護してくれていた。
もちろん、金で雇った人間だ。
それなりには信頼しているが、“金の切れ目は、縁の切れ目”な人間だ、と思っていた。
今回もがんばってくれたが、終身刑も死刑も同じようなものだ。
どっちにしろ、いつ死ぬかの問題でしかない。
裁判が終了したときに、オレたちは別れの握手をした。
最後の仕事として、オレの口座にある金の処分を任せることにした。
「どのようにします?」
「慈善団体に寄付すりゃいい。そうだな、孤児を支援するようなのがいいかもな」
「わかりました。結果は――」そこまで言って、彼は言葉に詰まった。
「知らせる方法はないんだろう?」
「そうでしたね。監獄惑星送りでは。惑星の名前も公表されてませんし」
「ああ。長い付き合いだったな」
「ええ、本当に」
「犯罪者の弁護は、嫌だったんじゃないか?」
「正直言うと、葛藤がありましたね」
「だが、弁護を引き受けてくれた。なぜかな?」
「なぜでしょうね。やっぱりお金かな」
「君が? 確かに金は積んだが、そんなことで君が弁護を引き受けるわけがない、と知っているんだがね。依頼する際に調査はしてあるんだ」
「そうでしたか。まぁ、あなたに魅力を感じたから、っていうことにしておいてください」彼は頭をかきながら、そう言った。
「そういうことにしておこう。今後は、どうするつもりかね?」
「今までどおりですよ。まぁ、新たな顧客を捕まえるでしょうけどね」
「そうだな。元気でな」
「あなたも」
握手は、力のこもったものになった。
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