【246.本星との通信手段】
続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。
今話は、だいぶ長いです。
(我々は、本星との通信手段を持っていない)というのが司令官の答えだった。
食事会を終えてから、彼に質問をぶつけたのだ。
(そうすると報告は)
(本星に戻ってからになる)
(そうでしたか)
(なんらかの手段が欲しいのだがな。君みたいな能力者もいないし、君たちが持つフィールド通信もない。自分の足で報告するしかないな)と笑う。次の瞬間、司令官の頭に何かが閃いた。(君が取り持ってくれるか? それとも星系間では能力が届かないか?)
(いえ。距離の制約はありません。実際に別の星系にもジャンプしてますし。ただ、その場所や人のイメージがないと)
(イメージならいつものように、思い浮かべることはできる)
(そうですね)
司令官からは、期待の念が放出されている。
オレもその気になっていた。
彼らの本星がどんな惑星なのか見てみたい、と。
しかし、直接ジャンプしても、向こうに混乱を招くだけだ。
少なくても向こうにテレパシーで、連絡を取りたいところだ。
しかもオレ自身ではなく、信頼のできるウービー人であるべきだろう。
そうか、オレが仲介役になればいいだけだ。
(やってみましょう。私では話がこじれる可能性があります。あなたがたの誰かが、向こうに話しかけるべきでしょう)
(そうだな)
そこでオレは調査船に移り、アルと相談した。
「母船に移るんですか?」
「ああ。移らなくてもできると思うが、報告者とリンクして、テレパシーを送るには、その方がいい」
「わかりました。なら宇宙服を着ていってください。襲われることはないと思いますが、向こうの空気がパオロに無害とも限りません。それに宇宙空間ですから何が起こっても不思議はありませんから」
母船のコントロールルームに飛び出した。
オレは一瞬、ひるんだ。
目の前に司令官がいた。
ひるんだ理由は、彼の大きさだった。
シートに座っているのだが、それでも巨大だった。
立ち上がったらきっと、8mから10mはあるんじゃないだろうか。
その鋭い眼光がこちらを見つめている。
金色のウロコと複雑に枝分かれしたツノを持っている。
彼のまわりにもウービー人がいた。
彼らもまた大きい、司令官ほどではないが。
彼らの大きさもあるが、この空間がとても広い。
そうでなかったら彼らが動けなくなってしまうんだろうな。
まわりのスタッフたちが、オレの出現に驚いて、呆然としているのに気付いた。
彼らの大きさは、シェロアたちと変わらない。
そんな中で、動きまわっているのは、“労働者”と呼ばれるブーブだけだった。
ヘルメットからアルの声が聞こえてきた。
「空気ですが、ちょっと汚れている程度で、これといって害になるような物質は検出されていません」
「では、ヘルメットを脱いでも?」
「大丈夫です。気圧が少しあるので注意してください」
「了解」
首元のボタンを3回つつく。
すると首まわりがゆるくなった。
隙間風の音が聞こえる。
ヘルメット内の気圧が調整されたのだ。
少々の圧迫。
だが、すぐに気にならなくなる。
それからヘルメットを持ち上げた。
空気を吸うと、アルが言ったとおり、汚れを感じる。
喘息持ちでなくてよかった。
ヘルメットを左脇に抱え、司令官に目を向ける。
それから目を伏せ、頭を下げ、戻す。
彼らの目上への挨拶だ。
(ようこそ、パオロ)と司令官。
(お目にかかるのは、初めてですね、ホウウェイ司令官)
(うむ。下からの報告に君の画像があったが、やはり相対する方がいいな)
(はい。それで報告者は?)
(やはり、私から報告した方がいいと思うんだ)
(なるほど。わかりました。さっそくかかりますか?)
(うむ)
オレは、その場にアグラで腰を下ろし、ヘルメットを床に置いた。
腰を下ろしたのは、つながったことで動揺して倒れないためと、長時間の報告にも耐えるためだった。
(では、報告をしたい相手を思い浮かべてください)
司令官からのイメージが脳裏に浮かんだ。
それは、3人のウービー人なのだが……間違いなく、そうなのだが……
(彼らは本当にウービー人なのですか?)
(そうだ。ご高齢だがな)
彼らの肌は、黄金色が色褪せたような色をしていた。
ツノは立派だが、2本ではない。
左右に3本ずつ、計6本ある。
しかもそれぞれが林のように枝を伸ばしている。
アゴ下に白いヒゲのようなものもある。
(君たちもこうなると?)
(全員ではない。そうなる家系がある。血筋ともいえるな)
(なるほど)まぁ、いいか。(では、まずは念を飛ばして、つながるかを試してみましょう)
オレは集中して、その3人に念を飛ばした。
特に真ん中のひとりに。
つながった。
オレは息を呑んだ。
それどころか、溺れそうな感覚を覚えて、反射的に念を切った。
なんだったんだ、今のは?
今までに感じたことのない、広く深い知性だ。
オレやホウウェイ司令官が池ならば、この知性は湖……いや、海に近いかもしれない。
それほどの知性だ。
そんな知性にただ飛び込んでいってしまった。
一度、大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出し、それからふたたび念をつなぐ。
今度は、表層意識に限定して。
つながった。
その真ん中のひとりは、右側のひとりを見ていた。
話し合っているわけではなさそうだ。
思索中、といったところだろう。
左側にもひとりいる。
司令官のイメージのままだ。
彼らの眼前には、小さなステージがあるが、今は誰もいない。
ステージの先は、細長い通路が伸びている。
(司令官、つながりました。用意がよろしければ、どうぞ)
司令官の念をつなげる。
(ご報告申し上げます)と3人のウービー人の頭の中で、司令官の念が響いた。
3人がビクッとして、目を大きく見張り、首を動かした。
あまりにもゆっくりとだが。
彼らのツノから、鳥らしき動物が飛び立っていく。
小さくて、どんな動物なのか、わからない。
おたがいの顔を見やる3人。
「******* ****** **」(ふたりとも、今の声、聞こえたか?)と真ん中のひとり。その声は、低く轟くようだ。
両側のふたりが肯定のしぐさをした。
「*** **」(誰だ?)
その問いに司令官が答える。
(異文明探索局第3方面司令官、ホウウェイ・ベラープです)
3人がその答えにまた驚いた。
「*** ****」(もう戻ってきたのか?)
(いいえ。現在、目的地の手前の星系におります)
「***** ****** ***」(おまえの声がどうして聞こえるのだ?)と右側のウービー人。
(長老方の頭に、直接話しかけているのです)
「*** **** *******」(直接? どういうことだ?)
(詳しくはわかりません。何せ、異星人の能力なので)
そのひと言で、また驚きがあった。
「******** ******** ***」(異星人がいたのか! 接触したのだな!)と左側。
(はい。現在、彼らの代表との会合を繰り返し、意思疎通をはかっております)
「*** ****** *** ******」(そうか。それでどんな人々なのだ? 我々に似ているのか?)
(2本の腕に2本の脚という構成要素は、我々と同じです。いずれの種族も我々同様の知性を持っています)
そのウービー人から疑問の念。
「****** *** ***** *****」(いずれの種族も? 1種族だけではないのか?)
(はい。彼らは連合を組んでいます。パオロ、なん種族だったかな?)
(5種族です。初めまして。パオロと申します。この会話を仲介している者です)
「*** ******」(おお、言葉がわかるのですか?)
(いいえ。脳に直接話しかけていますので、脳が自動的に翻訳してくれている、と考えてください。固有名詞などは、対応する言葉に変換されてしまいますが)
「****」(たとえば?)
(“ブーブ”は、”労働者”と聞こえるとか)
「*** **** ***」(どちらも同じに聞こえるが)
(そうでしょうね。そういう点では完全な翻訳にはなりません)
「**」(なるほど)
(脳に直接話しかけていますので、言葉を発することも必要ありません。考えるだけでいいのです)
(本当に?)と言葉を発さずに右側。
(本当に)
(では、声を出さずに話そう)と中央。(ホウウェイ)
(はい)
(よくやった。みなにもそう伝えるように)
(はい)
(パオロ、とお呼びすればよろしいですかな?)
(はい)
(あなたはその連合の代表なのですか?)
(いいえ。自分の惑星の住民です。ホウウェイ司令官がいらしたのが、この星系でしたので。連合の使節団が来るまでのあいだ、彼らとの意思疎通をはかっておりました)
(こんな能力をお持ちなのに、意思疎通?)と右側。
(実を言いますと、この能力は、我々の中では、認められていないのです。科学的に確認や証明ができていないので)
(証明できない?)
(はい。昔から研究はされているのですが、なかなか。この能力を使える者も少なかったですし、訓練法も知られていませんでした。そのため、一般的には眉唾物と思われていたのです)
(眉唾物、ですか。立派な能力だと思いますが)
(ありがとうございます。もっと使える人間がいればとも思うのですが。なかなか)
(なるほど)
(連合には5種族がいるとおっしゃっていたが)と中央。
(はい)
(戦争などは起きていないのですか?)
(連合成立以前には、そうしたことがあったようです。ですが、連合成立以降は、私が聞いた限りではありません。しかし、そうした戦争で使われてきた武器は、いまだに存在しています。現にこの星系にも戦艦が6隻、来ています)
(どうしてですか?)
(使節団の船を護衛するためです。あなたがたが好戦的な種族であった場合の対処として。もちろん、あなたがたが平和目的で探査していることは知っていますが、使節団の面々はそれを鵜呑みにしてくれません)
(なるほど。いざとなったら戦う、ということですね)
(はい。ですが、私がお願いして、戦艦には下がってもらいました。とはいえ、まだとなりの惑星の周回軌道にはいるのですが)
(ありがたいことだ)とホッとする右側。
(戦争など、知的存在がする行為ではありませんからね)
(そのとおりだ)と中央。両側のふたりも肯定している。(我々も自分たちで戦争をしてきた。そのおかげで、自分たちの惑星を住めなくしてしまうところだった)
苦々しさとイメージが伝わってきた。
そこは、泥色の暗雲が垂れ込め、地上は見るも無残な瓦礫の世界だった。
人々は、折り重なるように、死んでいた。
何人かは生き残り、立ってまわりを眺めている。
(当時を生きていらしたんですか?)
(なぜ、そうお思いに?)
(今、あなたからイメージが……当時の状況のイメージが見えたからです)
(そうでしたか。そう、私はまだ子どもでした。あんな世界を後世に見せたくない、そういう気持ちで今までやってきました)
どう言えばいいのかわからず、ただ賛同の念を送った。
(当時のことを覚えているのは、ごくわずかです。それでいいと思っています)
(それでは、今はもう、戦争以前のような?)
(ええ。以前よりもよくなったはずです)
新たなイメージが浮かぶ。
自然は濃く、都市は栄え、空を航空機が行く。
(素晴らしい。ほかの種族たちの惑星もそれぞれに美しいそうです)
(そうでしょう。あなたの惑星も、ですね)
オレが思い出したのは、〈スータン〉の監獄ステーションに到着して、囚人が集められた部屋で見たスクリーンでの映像だった。
白、青、緑、赤、黒。
緑豊かで海がきれいな岩石型の惑星だった。
それを3人に送る。
そういえば、〈スータン〉に落とされてから一度も〈スータン〉の姿を見ていなかった。
いや、気球で撮影した映像は見た。
だが、それは宇宙から見た、とは言えない。
あとで、司令官に頼んで見せてもらおうか。
(美しい)と3人。
(じつは)とオレ。(この惑星は、監獄でして)
3人が動揺した。
(監獄?)と右側。
(そうです。私も含めて、終身刑を言い渡された者が、落とされる監獄なのです)
(そんな……どういうことです?)
(流刑地なのですよ、この惑星は)と司令官。(我々はそれを知らずに近づいたのですが、通信してもなんの反応もなかったので、地上に使節団を送り込んだのです。ですが、撃ち落されてしまった)
(撃ち落された?)
(はい。周回軌道上には、いくつかの人工物がありました。それは地上から惑星の外に出ようとする物体を撃ち落す自動機械でした。使節団がパオロの警告を受けて、上昇したのですが、タッチの差で認識されてしまい、撃ち落されたのです)
(なんと……生存者は?)
(3名が死亡いたしましたが、ほかのものは無事に地表へ。そこにパオロが現れたのです)
(そうだったか)
(軌道上には)とオレ。(看守のいるステーションがありました。彼らも司令官の乗っていた宇宙船に警告の通信を送っていたのですが、反応がなく、困惑していました)
(おたがいに通信しているにもかかわらず?)と左側。
(はい。じつは、通信方法がまったく異なっていたからなのです)
(通信方法が?)
(我々には、いくつか通信方法があります。しかし、あなたがたの通信方法は予想外でした。まさか重力波を通信に使うとは、思っていなかったのです)
(違ったのですか?)と右側。
(重力波は、天体観測には使われてきました。ですが、通信にまで応用できるとは考えていなかったのです。主な通信方法としては、電波か特殊なフィールドを使ったものがあるのですが、電波で警告を送っても反応がなかった)
(こちらはこちらで)と司令官。(まさか電波で来るとは思っていませんでした)
(そういうことだったか)
(反応がないので、我々はそのステーションが無人だと判断し、地上にいる人々と接触しようとしたのです。そして、パオロの警告を受けた)
(警告を発するのが)とオレ。(遅れてしまいました。死んだかたがたに申し訳なく思っております)と謝罪の念を送る。
(いや)と司令官。(パオロの警告がなければ、脱出したみんなを助けるために、また船を降ろそうとしたでしょう)
(パオロ)と中央。(あなたは最善を尽くしてくださった。それ以上、お気になさらずに)
(ありがとうございます。なお、現在は、連合の使節団によって、封鎖プログラムは、解除されており、司令官配下の使節団と連合の使節団がいろいろと話し合っているところです)
(なるほど。あなたがたの姿も見せていただけませんか?)
使節団代表たちの面々の姿を彼らに送る。
(どちらが、あなたかな?)
(そこにはいません。自分が代表だとは思っていませんので)
(見せてはいただけまいか)
仕方なく、自分の姿を送る。
いつだったか、雑誌社の取材を受け、載った画像だ。
(ほぉ)と右側。(この頭にかぶっているのはなんですか?)
(かぶっているのではなく、頭皮から生えているものです。あなたがたのようなウロコが繊維状に伸びたようなものとお考えくだされば、おわかりいただけますか?)
(なるほど)
(連合、と言っていましたが)と左側。(どのような組織なのでしょう?)
(詳しいことは知りませんが、各種族間での貨幣価値などの調整や交易への支援、各種災害への救助支援など。ほかにも発見した知性体の監視もしていますね)
(ほかにも知性体がいると?)
(はい。まだ連合加盟を許可できるほどの成長をしていないので、見守っているのだと、聞いています)
(その連合加盟には、条件があるのだろうか?)
(詳細は知りませんが、充分な知性を必要とするのは大前提です。以前、ひとつの種族が加盟していましたが、自分たちがまだまだ未熟だと判断して、連合からの脱退を申請し受理されたことがありました。そこで新たな連合加盟には、条件がつけられたのです。基本的には3点。ひとつ、母星系を探索するくらいの技術力を持つこと。次に、政治的に安定している社会を持つこと。そして、友好的であること)
3人が目配せをしている。
その思いが漏れてきている。
“我々は、加盟条件を満たしている”と。
オレは、彼らに念を送った。
(連合加盟を今すぐ決める必要はありません。第一、こうやって、あなたがたと話していることさえ、連合の使節団の誰ひとり、知りませんからね)
(そうなのですか?)と右側。
(私が)と司令官。(長老方にご報告を、と彼に頼んだのです。このことは、こちらの使節団も誰ひとり、知りません)
(そうだったのか)
(そういうことならば)と中央。(ホウウェイ司令官、君たちが帰ってくるまで、この件は保留にしておこう。もちろん、今後も報告してもらいたいが……パオロ、可能だろうか?)
(こちらからでしたら、もちろん可能です)
(疲れるのでは?)
(まぁ。ですが、ふつうに話しているのと同程度の疲れでしかありません)
(そうですか。助かります)
(では)と司令官。(長老方、失礼いたします)
(うむ。先方に失礼がないように、な)
(はい)
それで彼らとの念話を終えた。
ふぅ、と吐息が漏れた。
前から風が吹いてきて、オレの髪が後ろに引っ張られる。
どうやら司令官も、オレと同じく吐息を漏らしたらしい。
それが風になったのだ。
おたがいに顔を見合わせた。
一瞬の間。
だが、すぐにおたがいに笑い出していた。
まわりのウービー人たちが、何事かとこちらを見ている。
(パオロ、疲れただろう?)と司令官。
(あなたもでしょ、司令官。どうやらあの長老たちには頭が上がらないようですね)
(そうだ。長老方の前にステージがあっただろう? あそこにひとりで立つのは緊張する。謁見が終わったあとは、この身体全身がガタガタになってしまうほどだ)
(なんとなくわかります。直接、あそこに跳ぶのはよしましょうね)
(そうしてもらえると助かる)
またふたりして笑った。
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