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落とされ人  作者: カーブミラー


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23/38

【023.王室文化院】

続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。

 その部屋には、男女合わせて、20名近くがいた。

 デスクに向かっている者もいれば、ほかの者のそばにいる者もいる。

 空いている席もいくつかある。

 それぞれの服装は、定番を着た者もいれば、私服の者もいる。

 髪型もそれぞれだ。

 年齢も幅がある。

「こちらが、王室文化院です」とアネット。

 彼女の声に反応して、顔を上げた女性がいた。

 立ち上がって、こちらへと歩いてくる。

 年齢は、50代後半といった感じだが。

 定番の服の上に、白い裾の長い上着を前もとめずに、風をはらませていた。

 どこか学者を思わせる。

「あちらが、この王室文化院の室長を務めていらっしゃるパトリシア・ルーカス」

 “室長”と呼ばれたその女性がオレの前に来て、右手を差し伸べてきた。「いらっしゃい。モーガンさんでしたね」

 その右手を取って、握手する。

「よろしく、ミズ・ルーカス」

「室長と呼んで。専門は、物理学。それほど優秀ではないので、気にする必要はないわ。それに室長の仕事の方が大変でね」

 彼女は、奥の方へ行くように、と右手でうながす。

 奥には、いくつかの会議室があり、そのひとつに入った。

 6人分のイスとテーブルがある。

 室長は、定番を着た若い男性に声をかけ、それから会議室に入り、誰よりも先にイスに座った。

 オレとアネットも座る。

 さきほどの若い男性が、入ってきた。

 手には、ポットとグラス、それに三つの同じ容器を重ねて持っていた。

 それらをテーブルに載せ、グラスにポットから乳白色の液体を注ぐ。

 オレたちの前に容器とグラスを置き、出ていくとドアを閉じた。

 容器は、透明なフタと黒い皿でできている。

 中には、小さなケーキが三つ。

「どうぞ。乳酸菌飲料とプチケーキです。お嫌いかしら?」

「いえいえ。甘いのは。乳酸菌飲料はどういった?」

「人間の体内で自然に存在する菌です。それを培養して、胃酸に溶けないように加工したものです。今では一般化していますが、基礎はここから生まれました」

「なるほど」

 そのドリンクは、サラサラとしていて、飲みやすい。

 甘さはあるが、控えめだ。

 酸味もある。

 プチケーキを食べる。

 それぞれ別々の風味。

「このこげ茶色したチョコに見えるものはなんですか? 確か、チョコは、カカオがないと」

「ええ。擬似的に造ったチョコです。ある樹の樹皮を粉末にすると、カカオと似たような風味が得られます。ほかの材料も似たようなものを使って作りました」

「こちらで?」

「パティシエが試行錯誤をして。かなりてこずったようです」

「でしょうね。材料探しからはじめないといけないんですから」

「ええ。でもおかげでこうやって楽しめるというわけです」

「なるほど」

 プチケーキを食べ終わるまで、仕事の話はせず、世間話とも取れる話が続いた。

「さて」と室長。「あなたの仕事についてですが」

「はい」

「あなたの知識は、どれだけ正しいと思っていますか?」

「さぁ。私の知識は、ほぼ瞬間記憶でかき集めたものですから、もとの情報次第としか言えません」

「瞬間記憶? どういうことでしょう?」

 オレは、肩をすくめた。

「私の仕事は、覚える時間が限られていますので、与えられた資料を瞬間的に記憶して、そのとき必要な情報を引き出すのです」

「今までにどのくらいを?」

「冊数ですか? そりゃ、途方もない数ですよ。ですが、どれもこれも頭に入っています。消すこともできますが、消去したことはありません」

「脳内電子書籍、というところですか」

「あはは。そのとおりです。問題は、引き出せるかどうかです。その検索方法も確立されていますから、なんの問題もありませんがね」

「その瞬間記憶は、あなたが独自に開発を? それとも小さいころからできていたのですか?」

「ほかの人が開発して、子どものころに教わりました。そのおかげでさまざまな仕事をこなしてきました」

「そのお仕事を伺っても?」

「“過去は過去”ということでお願いします」便利な言葉だ。

「なるほど。では、あなたが記憶したその情報の目録は作成できますか? 助手もお付けしますので」

「目録だけ?」

「それを目安にして、どの分野で必要かをこちらで判断します。その上で、次の仕事をお願いしようかと」

「なるほど」

 室長は立ち上がり、ドアを開けて、誰かを呼んだ。

 ドアを開けたまま、自分の席に座る室長。

「失礼します」と入ってきたのは、若い男性。背中でドアを閉めた。

「彼をつかせます。名前は、テオドア・ルーズベルト」

「よろしくお願いします」と会釈。

 20代前半。

 ライトブラウンの髪は、肩に届くか届かないかくらいの長さで、自然なウェーブがかかっている。

 その肌は、その髪よりも明るいが、どこか青白さを感じる。

 唇は一文字で、緊張しているのが手に取るようにわかる。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 室長が、彼にイスを勧める。

 彼が座る。

 緊張しているせいで、イスをガタガタと音させた。

「食べられたりしないわよ、テオ」と室長が彼を落ち着かせようと話しかけた。

「はぁ」

「彼を助手にということですが、目録作りのどんなことを?」

「まさか初めてのコンピューターを、すぐに扱えるとでもおっしゃるんですか?」

「ああ、そういうことでしたか。いいえ。ですが、軍で使用しているクリップボードはあるのでしょう? あれに書き込めばいいのでは?」

「そう言わずに使ってやってくださいな。弟子だと思って」

「弟子? 私は、師匠ですか」と苦笑した。

「そうそう。師匠と弟子の関係ですね。弟子はいずれ、師匠のワザを受け継がねばなりません。そのためにも」

「なるほど。わかりました。では、テオドアくん、今後はテオと呼んでもいいのかな?」

「はい。お願いします、師匠」

「師匠と呼ばれても困るな。パオロと呼んでくれればいいよ。その方が気が楽だ」

「わかりました」と硬い笑顔で応えた。


読んでいただき、ありがとうございます。面白ければ、ブックマーク、評価、リアクションをお願いします。励みになりますので(汗)

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