【023.王室文化院】
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その部屋には、男女合わせて、20名近くがいた。
デスクに向かっている者もいれば、ほかの者のそばにいる者もいる。
空いている席もいくつかある。
それぞれの服装は、定番を着た者もいれば、私服の者もいる。
髪型もそれぞれだ。
年齢も幅がある。
「こちらが、王室文化院です」とアネット。
彼女の声に反応して、顔を上げた女性がいた。
立ち上がって、こちらへと歩いてくる。
年齢は、50代後半といった感じだが。
定番の服の上に、白い裾の長い上着を前もとめずに、風をはらませていた。
どこか学者を思わせる。
「あちらが、この王室文化院の室長を務めていらっしゃるパトリシア・ルーカス」
“室長”と呼ばれたその女性がオレの前に来て、右手を差し伸べてきた。「いらっしゃい。モーガンさんでしたね」
その右手を取って、握手する。
「よろしく、ミズ・ルーカス」
「室長と呼んで。専門は、物理学。それほど優秀ではないので、気にする必要はないわ。それに室長の仕事の方が大変でね」
彼女は、奥の方へ行くように、と右手でうながす。
奥には、いくつかの会議室があり、そのひとつに入った。
6人分のイスとテーブルがある。
室長は、定番を着た若い男性に声をかけ、それから会議室に入り、誰よりも先にイスに座った。
オレとアネットも座る。
さきほどの若い男性が、入ってきた。
手には、ポットとグラス、それに三つの同じ容器を重ねて持っていた。
それらをテーブルに載せ、グラスにポットから乳白色の液体を注ぐ。
オレたちの前に容器とグラスを置き、出ていくとドアを閉じた。
容器は、透明なフタと黒い皿でできている。
中には、小さなケーキが三つ。
「どうぞ。乳酸菌飲料とプチケーキです。お嫌いかしら?」
「いえいえ。甘いのは。乳酸菌飲料はどういった?」
「人間の体内で自然に存在する菌です。それを培養して、胃酸に溶けないように加工したものです。今では一般化していますが、基礎はここから生まれました」
「なるほど」
そのドリンクは、サラサラとしていて、飲みやすい。
甘さはあるが、控えめだ。
酸味もある。
プチケーキを食べる。
それぞれ別々の風味。
「このこげ茶色したチョコに見えるものはなんですか? 確か、チョコは、カカオがないと」
「ええ。擬似的に造ったチョコです。ある樹の樹皮を粉末にすると、カカオと似たような風味が得られます。ほかの材料も似たようなものを使って作りました」
「こちらで?」
「パティシエが試行錯誤をして。かなりてこずったようです」
「でしょうね。材料探しからはじめないといけないんですから」
「ええ。でもおかげでこうやって楽しめるというわけです」
「なるほど」
プチケーキを食べ終わるまで、仕事の話はせず、世間話とも取れる話が続いた。
「さて」と室長。「あなたの仕事についてですが」
「はい」
「あなたの知識は、どれだけ正しいと思っていますか?」
「さぁ。私の知識は、ほぼ瞬間記憶でかき集めたものですから、もとの情報次第としか言えません」
「瞬間記憶? どういうことでしょう?」
オレは、肩をすくめた。
「私の仕事は、覚える時間が限られていますので、与えられた資料を瞬間的に記憶して、そのとき必要な情報を引き出すのです」
「今までにどのくらいを?」
「冊数ですか? そりゃ、途方もない数ですよ。ですが、どれもこれも頭に入っています。消すこともできますが、消去したことはありません」
「脳内電子書籍、というところですか」
「あはは。そのとおりです。問題は、引き出せるかどうかです。その検索方法も確立されていますから、なんの問題もありませんがね」
「その瞬間記憶は、あなたが独自に開発を? それとも小さいころからできていたのですか?」
「ほかの人が開発して、子どものころに教わりました。そのおかげでさまざまな仕事をこなしてきました」
「そのお仕事を伺っても?」
「“過去は過去”ということでお願いします」便利な言葉だ。
「なるほど。では、あなたが記憶したその情報の目録は作成できますか? 助手もお付けしますので」
「目録だけ?」
「それを目安にして、どの分野で必要かをこちらで判断します。その上で、次の仕事をお願いしようかと」
「なるほど」
室長は立ち上がり、ドアを開けて、誰かを呼んだ。
ドアを開けたまま、自分の席に座る室長。
「失礼します」と入ってきたのは、若い男性。背中でドアを閉めた。
「彼をつかせます。名前は、テオドア・ルーズベルト」
「よろしくお願いします」と会釈。
20代前半。
ライトブラウンの髪は、肩に届くか届かないかくらいの長さで、自然なウェーブがかかっている。
その肌は、その髪よりも明るいが、どこか青白さを感じる。
唇は一文字で、緊張しているのが手に取るようにわかる。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
室長が、彼にイスを勧める。
彼が座る。
緊張しているせいで、イスをガタガタと音させた。
「食べられたりしないわよ、テオ」と室長が彼を落ち着かせようと話しかけた。
「はぁ」
「彼を助手にということですが、目録作りのどんなことを?」
「まさか初めてのコンピューターを、すぐに扱えるとでもおっしゃるんですか?」
「ああ、そういうことでしたか。いいえ。ですが、軍で使用しているクリップボードはあるのでしょう? あれに書き込めばいいのでは?」
「そう言わずに使ってやってくださいな。弟子だと思って」
「弟子? 私は、師匠ですか」と苦笑した。
「そうそう。師匠と弟子の関係ですね。弟子はいずれ、師匠のワザを受け継がねばなりません。そのためにも」
「なるほど。わかりました。では、テオドアくん、今後はテオと呼んでもいいのかな?」
「はい。お願いします、師匠」
「師匠と呼ばれても困るな。パオロと呼んでくれればいいよ。その方が気が楽だ」
「わかりました」と硬い笑顔で応えた。
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