【209.痕跡】
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その夜。
オレは、調査船に跳んだ。
アルからの(調査が終わりました)という念を受け取ったからだ。
「それで?」
コントロールルームでは、聖地のエリアがホロ映像化されていた。
「指示されたエリアには、過去に生活が行なわれていた痕跡がありました」
ホロ映像から、森林の草木が取り除かれ、地肌が露出した。
その地肌の一部が、色を変えて強調される。
確かに、人間が地面を加工した感じに見える。
まわりの地面が消え、地中のようすが描かれた。
あちこちに点在はしているが、同じような構造が見てとれる。
長方形の四隅に、深い穴がある。
辺を構成するその内側の土は、硬く締まっている。
辺の一部もだ。
おそらく長方形の四隅には、柱が立っていたのだろう。
そして、中で生活した。
硬く締まった土は、人が歩きまわったあとだ。
「どうやら村を形成していたようだね」
「ええ。家のひとつひとつの大きさを考えると、最大5人が生活したとして、30人から40人といったところですね。近くには、開墾して作ったと見られる、畑らしきものもあります」
それらが示された。
広い土地に長方形が存在している。
「何を栽培していたのかな?」
「葉物、根菜。どれも北大陸のもので、この土地のものではありません」
「環境的には栽培できた、と?」
「ええ。ただし、自力で環境に適応はできなかったはずです」
「どういうことだね?」
「人間が手をかけないと育たない、ということです。その証拠に現在ではこれらのものは生存していません。地中の残存物から、そう推測できる、というだけです」
「なるほど。とするとここに住んでいた人間はなんらかの理由で、この土地を放棄して、別の土地へと移り住んだわけか」
「その理由はわかりません。それでもここでの生活は10年以上続いたはずです」
「どうしてそうだと?」
「樹木の成長です」
ホロ映像が森林になった。
「これが現在の状態です」
森林の樹木が、その背丈を少しずつ低くしていく。
そうして、最後には開墾された状態になった。
「逆算したわけか。どのくらい前だね?」
「240年前後としかわかりません。囚人が落とされるようになったのと、同時期ではないかと」
「ふむ。どちらにしても、北大陸からの移民だ、と思うかね?」
「明らかに。大気圏内調査船も見つけました。その残骸も」
「ん? その残骸も? ということは無事な調査船があったのかね?」
「ええ。とはいっても飛べませんが」
「やはり燃料が?」
「燃料は残されていますが、飛行できるほどではありません。それよりも経年劣化による機体損傷の方が問題ですね。メンテナンスが行なわれていませんから」
「ああ、そういうことか」
その場所が示された。
村から少し離れた岩山の中。
岩山が透視図になった。
広い空間がある。
その空間は、人工的に削られたものだった。
入り口を除く三方と床、それに天井が平らなのだ。
その入り口は、土砂で塞がれていた。
「なぜあんなところに」
「わかりません。ですが、集中して探査しない限り、探知できない場所です」
「誰かから隠した、という可能性が?」
「ありえます。あるいは、風雨から守るためという可能性も」
「ふむ。入り口が塞がれてるが?」
「これは、自然に起こった土砂崩れで、塞がれたものです。人為的なものではありません」
「中に閉じ込められた人間は?」
「調査船の外にはいません。土砂崩れが発生したのは、200年ほど前のようです」
「移住したあと、か」
「はい。すでにドローン3体が、入り口を開け、中に入って調査をしています」
その映像に切り替わる。
掘られた岩山内部は、照明が当てられ、黒い壁になっていた。
空間の中央に、調査船が鎮座している。
汚れはあるが、見た目には損傷らしい部分は見られない。
調査船の周囲には、多くの残骸があった。
それらの中には、建設機械も含まれている。
「残骸の中のコンピューターからは、記憶装置が抜き取られていて、何も得られませんでした」
「この調査船自体は?」
「これからです。ハッチの機構が故障しているらしく、手順どおりには動きませんでした。そこでレーザーで覗き穴を開けています」
「内部の状況を見るためだね」
その作業を見守る。
穴が開き、ドローンの触手の先端から、人間の指さきほどの太さのチューブが伸びて入っていく。
ひとつのフラットな映像が現れた。
覗き穴を進むチューブからの映像だ。
まわりは、ライトで照らされ、レーザーで溶けた金属が光っている。
前方は暗い。
光っていた金属がまわりからなくなった。
ライトがついているのに暗い。
何があるのかわからない。
その空間に、ほのかな明かりが灯されはじめた。
「ナノマシンを入れて、発光させています。カメラの感度も上げました」
まだ薄暗かったが、それでも内部がどんなようすなのかがわかる。
そこは船体の左右のハッチをつなぐ通路だ。
向こう側にハッチの内側が見えている。
通路には、これといった機材などはない。
「内部の空気は、浄化されているようです。菌類や胞子の類いは、検出されていません」
「それは何かがあって――」
「いいえ。船内の清浄機がふつうに働いた結果です。塵や埃も漂っていません」
オレは納得して、うなずいた。
「異常がないようなので、爆破によるハッチの開放を行ないます」
「大丈夫なのかね?」
「ええ。調査船内部に緊急脱出用の爆発物があり、それを爆発させます。操作は外部から可能になっています」
明かりが消え、ふたたび、溶けた金属が現れた。
チューブが後退しているのだ。
表の明るい光が見えた次の瞬間には、その映像は消えた。
調査船から退避するドローン。
すでに操作が行なわれ、ハッチ横の操作パネルに、カウントダウンが表示されているのがわかった。
電子音も1秒ごとに鳴っている。
3秒前には連続した音になっていた。
そして……
爆発の轟音とともに、ハッチが吹き飛んだ。
そのまま、壁に飛んでいくかと思ったが、そうではなかった。
バンッという音とともに、ヒンジを中心に大きく開いたのだ。
ハッチはその場で固定された。
すかさず、ドローンが入っていく。
ドローンの灯す明かりを中心に、パイロットルームと後部シートが見えた。
どちらにも人間の姿はない。
後部シートの先には、カーゴベイへと通じるドアがあるが、今は閉じられている。
ドローンの映像が、パイロットルームへと入る。
シートはふたつ。
パイロット用と補助席だ。
コンソールはすべて沈黙していたが、ドローンの入室に反応して、すべてが生き返った。
ということは、この調査船はまだ生きているのだ。
ドローンの触手が、コンソールに伸びた。
先端にコネクタが出てきて、コンソールのコネクタに接続する。
「記憶装置、異常なし」とアル。「ですが、やはり船体のあちこちが損傷しています。燃料があっても飛ぶのは無理ですね」
「記録はあるかね? 北大陸からの移住がなぜ行なわれたとかの」
「日誌があります。一度、ダウンロードします。コンピューターが少し怪しいので」
「怪しい?」
「動作が安定していないんです。もしかしたら途中でダウンするかもしれません」
「やはり経年劣化が原因かね」
「おそらく。こういった船は200年も使うものではありませんからね」
「ははは、そのとおりだ」
ほかのドローンの映像に切り替わる。
カーゴベイに入ったドローンからの映像だ。
カーゴベイは、薄暗く、空っぽだった。
本当に何もない。
「何もかもを持ち出したか」
「そのようですね。もしかしたら、外の残骸がそれなのかもしれません」
「なるほど」
ダウンロードが終了した。
そこで調査を打ち切らせ、洞窟を閉鎖させて、ドローンを帰還させる。
これ以上に見るものはない、と判断したのだ。
調査船から記録をダウンロードしたドローンだけは、オレが物送りの術でここへ転送した。
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