【014.軍人】
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ある日。
海での収穫を終え、ベースに戻ろうと坂道を登っていると、一瞬、何かの影がオレの影をさえぎった。
その影は、オレの影を置き去りにして、通り過ぎていく。
思わず、上空を見上げた。
そして、見つけた。
大きな鳥だ。
いや、違った。
小型の飛行機だ。
エンジンもついているが静かなので、グライダーのように滑空しているのだとわかる。
オレは、収穫した魚介の入ったバックパックをその場に置いて、その飛行機を追いかけた。
飛行機は、どうやら着陸場に向かっているらしい。
大きくはないが、人間が乗れるくらいの大きさはある。
その証拠にキャノピーがある。
キャノピーは透明なのだろうが、陽射しがあたって輝いているので、内部が見れない。
その飛行機は、樹木の陰に隠れてしまった。
とにかく、着陸場を目指して、走った。
生えている草木に足を取られ、スピードが上がらない。
こうした草木を刈っておくべきだったか。
後悔してもはじまらない。
ようやく着陸場が見えてきた。
飛行機から人間が降りてきたところだった。
よくあれだけのスペースに着陸できたものだ、と感心していた。
だが、よくよく見れば、飛行機は地面に対して、垂直に立っている。
エンジン噴出孔が、地面に向かっているのだ。
とすれば、滑走路は必要がない、ということになる。
降りてきた人間に「おおい」と声をかけた。
こちらに顔を向ける人間。
小さく見えたが、そのシルエットから女性だとわかった。
黒髪をベリーショートにしている。
肌は、ライトブラウン系。
服装は、濃紺の簡易宇宙服に見えた。
ヘルメットはしていない。
その女性は、こちらを見つけると、身体をこちらに向けた。
それから腕組みして、仁王立ちになった。
顔からすると30代半ば。
その表情は、どこか怒っているようにも見える。
そんなつもりはないのだろうが。
着陸場内に入った。
ゆっくりと近づきながら、左手を挙げた。
「やぁ」と声を出して、手を下ろした。
「ここでどのくらい住んでるの?」
唐突な質問だった。
その声は、優しくはなく、かすれてもいた。
彼女の右手が持ち上がった。
その手には、見たことのない拳銃が握られている。
オレは、それ以上、近づかないことにした。
彼女の目が、オレの頭から爪先まで、眺め見た。
オレの格好は、酷くないつもりだ。
サバイバルナイフで、髪もヒゲもツメも、できるだけカットしていた。
着ているのは、毛皮をなめして作った服と靴だ。
前の服は、生分解性だったので、すでに土に戻っている。
置いてきたバックパックももうボロボロで、補修しながら使っていた。
「ええっと……150日ちょっと」
「そう。名前は?」
「パオロ、パオロ・モーガン」
「モーガンさんね。私はクリスティーヌ・ブロードリック。クリスと呼んで」
「ミズ・クリス、この飛行機をどうやって手に入れたんですか? この惑星は、弱肉強食の世界だと聞いていたんですが」
「モーガンさん、敬称はいらないわ。この飛行機は、〈スベルト王国〉で造られたの。私は、〈スベルト〉の軍人。ここを交代で管理しているの」
王国に軍人?
「王国には、数万人が住んでいるわ。その一部が、軍に入隊している。それだけの人間が囚人として、この惑星に送り込まれたのよ。集まれば、それだけの知識が集まるわ」
「確かに」私はその言葉の意味を考えた。「技術者も科学者も集まりますね。軍関係者もいただろうから、軍があってもおかしくはないか」
「理解が早くて助かるわ。それであなたとしてはどうしたい?」
「どう、とは?」
「この島での生活を続けるか、王国に来るのか。あるいは、別の場所に行きたいのか」
「別の場所?」
「こうした島はいくつもあるわ。大きな町もある。中には、王国に住んでいたけれども出ていった集団もいる。必要ならば、搬送できるわよ」
「この飛行機で?」
「これでは無理ね。ひとり乗りだから。基地に連絡を入れて、迎えに来てもらうわ。どうする?」
「はぁ」
考える必要があるだろうか?
「王国に行ったら帰ってこられないんですか?」
彼女がクスリと笑った。
「帰ってくるつもり? まぁ、いいわ。答えは、帰ってこれる。でもすぐに戻るのは無理ね。搬送機が稼働する必要があるから。あなたもご存知のように、この島は、送り込まれる囚人数が極端に少ないの。ここに次の囚人が来て、王国に来たいと言わない限り、搬送機の稼働はありえないわけ。わかる?」
「つまり、搬送する荷物がなければ、ここには来れないわけですね」
「そういうこと」
「どうして、着陸船が到着した際にいなかったんですか?」
「監視していないからよ。送り込まれる人数が少ないんでね、この島は。定期的にチェックして、ある程度の掃除をするだけなのよ」
「ああ、なるほど」
「ここの掃除、あなたが?」と右手で着陸場を示す。
「ええ、まぁ。次の人のことを考えて」
「そう。でもありがたいわ。掃除は大変だから。コーヒーでも飲む? といっても本物じゃないけど」
「草の根っことか、果実を使ったもの?」
「そんなところ。知識がおありなのね」
彼女は、コックピットから円筒形のものを取り出した。
その先端をクルクルとまわして、フタを取る。
そのフタに、筒からこげ茶色の液体を注ぎ入れると、香ばしい香りが漂いはじめた。
湯気も出ている。
「どうぞ」と差し出してくれる彼女。
「どうも」と受け取る。
香りをかぐ。
コーヒーのそれのような気がする。
息を吹きかけて冷ましながら、すすった。
香りも素晴らしいが、味もいい。
そうして、ひと息吐いた。
緊張が解け、リラックスしていた。
「うまいコーヒーです。本物よりも上質みたいだ」
「言っとくけど、安物よ。本物があれば、きっと高く取引されるでしょうね」
「そうか。入ってくることはないんでしたね」
「ええ。ここでは、代用品しか手に入らないわ。逆に本物よりもいいものもあるけどね」
「たとえば?」
「シルクはご存知?」
「ええ。本物は確か……ガの幼虫がサナギになる際に吐き出す糸でしたね」
「それは知らなかったわ。ここで作られるシルクは、ここの生物から抽出したらしいわ。それで作られた布の手触りは、本物よりも滑らかなの」
「なるほど。そうなると糸から布を織る機械もあるんですね」
「ええ。王都はあなたを歓迎するでしょうね」
「どうしてです?」
「あなたが知識人だから。“知識は宝”なのよ」
「わかります。ここにいた人たちの知識は限られていたようですが」
「ええ。それでも労働力として、王国は迎え入れた」
「労働力ですか。力仕事は苦手です」
「それにしてはいい身体つきだけど?」
「ここで生活するには、必要ですから」
「なるほど」
コーヒーを飲み終える。
「もう一杯、どう?」
ありがたくいただくことにした。
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