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落とされ人  作者: カーブミラー


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124/130

【124.騒ぎ1】

続きを読んでいただき、ありがとうございます。励みになります。

 オレは、早朝、森林公園で降ろされ、城に向かった。

 城門で身分証明をしようとすると「モーガン卿!」と門番に叫ばれた。

 別の門番が電話で通報する。

「なんだね?」と最初の門番に問う。

「なんだね、じゃありませんよ! あなたがいなくなったと城中が大騒ぎだったんですよ!」

「なぜだね? 休暇申請は出したんだが」

「モーガン卿、あなたには、追跡装置が」

 そこまで聞いて、オレは額を手で叩いた。

 忘れてた。

 渡り竜型の追跡装置がいたんだっけ。

 あの探査船に乗り込んだ途端に、オレの姿が隠されてしまったのだ、騒ぎになって当然だった。

 警備員ふたりが左右につき、城内を歩く。

 知った顔が、“ご無事でしたか”と安堵の顔を見せてくれる。

 途中で、室長が待っていた。

「パオロ」と心配そうな顔だ。「無事?」

「ご心配をおかけしてしまったようですね。ええ、ケガひとつしていませんよ」

「よかった。どこに行ってたの? 追跡装置からどうやって?」

 困ったな。

 どう説明すればいいのだろう?

 だが、答える前に彼女が続けてくれた。

「とにかく、女王陛下がお待ちよ。彼女も心配していたんだから」


 陛下はパジャマにガウンを羽織って立っていた。

 そこは初めて訪れる陛下の私室だった。

「パオロ! 心配したぞ!」

 オレは、片ヒザをつき、頭を垂れた。

「御心配をおかけいたしました、陛下。バカな行動をしたと深く反省しております」

「そうだ。なぜ爵位を与えたと思っておる? 我々は公僕なのだぞ。それをわからせるための爵位なのだ。それをおまえときたら」

「ああ、陛下、御許しを。陛下の深い御考えを、わたくし、思いもよりませんでした」

「今後は、こういうことがないようにせよ」

「はは」

「それでどこに行っていたのだ? 説明せよ」

「それは……」

 オレは、まわりにいる人々を見た。

「なんだ? 人払いせねばならぬのか?」

「できましたら」

「みな、下がれ。パオロとふたりきりにするのだ」

 警備も室長も秘書も、陛下の部屋を出ていった。

 ドアが閉まる。

 陛下は、ベッドの縁に腰を降ろした。

「それで?」

「とある国と接触を」

「何? またか?」

「はぁ。その国の名前は明かすことができません。御許しを」

「秘密主義か。それで?」

「はい。彼らは、我々の知らない着陸ポイントを示してきました。全部で7ヵ所」

「まだあったか」

「はい。おそらくそれで最後でしょう。ほとんどが〈スベルト〉と〈ラクロア〉から離れたポイントです。村を形成している程度でした」

「画像を見たのか?」

「はい、見せられました。実際に話を聞きにも行きました」

「何? 行った? どうやって? おまえが失踪したのは3日間だ。それでそんな遠くまで行けるはずがない」

「それが……その国の乗り物であれば、たやすいことなのです」

「それが本当ならば、我々よりも優れた技術を持っている、ということになる。信じられんな」

「はぁ」

 オレは、どう説明すれば陛下にわかってもらえるだろうか、と思案した。

「ならば、実物を見ていただくしかありませんね」

「そうだな」

 思念を探査船に向けた。

 探査船には、オレ専用の部屋を用意してもらい、現在の状況をディスプレイに表示させ、それを遠見の術で見られるようにしていた。

 そのディスプレイには、現在位置が表示されていた。

「上空にいるようです」

「上空?」

 陛下は立ち上がり、窓辺に行くと、窓を開け、上空を見上げた。

 しばらくあちこちに顔を向けて、探した挙句、こちらを見た。

「何も見えんぞ」と両腕を組む。騙された、と思っておいでのようだ。

「見えない船なのです。そういう技術で船を覆っているので」

「信じられんな」

「当然でしょうね。では、陛下、目をつぶっていただけますか?」

「目を? 何をするつもりだ?」

「証拠を御目にかけます」

「証拠だと?」

「はい。それをごらんになれば、信じていただけるかと」

「目をつぶってしまっては、何も見えんぞ」と屁理屈を言う。

「まぁまぁ」

 陛下は、渋々、目を閉じた。

 オレは、〈マニ教〉の師父に念を送って、物送りを依頼した。

 次の瞬間には、探査船の部屋にいた。

「陛下、目を御開きください」

「うむ」

 目を開いた陛下は、思わずあとずさった。

 それから首を振って、左右を見る。

「な、なんじゃ?」

「船の中に移っていただきました」

 開いたままのドアの向こうから、通路を走ってくる音が聞こえてきた。アルだ。

 きっと船の人工脳髄が、来客を彼に知らせたのだろう。

 ドア前に立つより早く、片ヒザをつき、右手を胸に当て、頭を垂れる。

 来客が誰なのかを知っていたか。

「女王陛下、ようこそ、我らの船に」

 部屋のようすに驚いていた陛下は、アルのその態度に女王らしい態度を示そうと、背を伸ばし、表情を固めた。

「顔を上げよ」

「はは」とアルが顔を上げる。

「そなたは?」

「この船の乗組員で、R・アルバート・SXEと申します、陛下」

「R?」

「Rとは」とオレが説明する。「ロボットの略です、陛下。彼はロボットなのです」

「冗談を言うな、パオロ。彼はどう見ても人間だ」

「冗談ではございません。“SXE”という言葉を、どなたかが言うのを耳にしたことは?」

「“SXE”?」しばらく思い出そうとする陛下。「思い出した。確かに聞いたことがある。確かロボットの会社だと聞いたが」

「そのとおりでございます。その会社はロボットの製造・販売・修理を行なっております。彼はその会社の製品でして、製品としては最上級のロボットとなります」

「アルバートとやら、本当のことか?」

「本当でございます、陛下」と笑みを浮かべる。

「なんと。余は信じられぬ」

「でしょうね」とオレ。「ですが、本当のことでございます。船を案内してもらいましょう」

「うむ」

 アルが先に立って、陛下を案内していく。

「変わった通路だな。船といったらほとんどまっすぐなのに」

「この船は、もともとが変わっております」

「どんな風に?」

 コントロールルームに来た。

 そこでアルが、陛下に向けて、左手を出して、腰を曲げる。

 左手の上にホロ画像が現れる。

「これがこの船でございます」

 オレも初めて見た。

 それは、ドーナツを同じ直径の皿でサンドイッチしたような形状。

「まさかであろう?」

「いいえ」

「これで海を行くのか?」

「この船は、空中も海中も行くことができます。宇宙にも出られますが、この惑星は封鎖されておりますので出ることは叶いません」

「そんな万能な乗り物があるはずがない」

「いいえ、陛下」とオレ。「ほかの惑星ではこうした船は少なくありません。ふつうのことなのです」

「なんと」陛下は言葉を失ってしまう。

「すまんね、アル。私がミスしてしまった。私には、追跡装置がつけられていたんだ。発信機とカメラ映像で追跡するんだが」

「そうでしたか。では、この船に乗り込んだことで、発信機の電波もカメラも、あなたを追えなくなったんですね」

「そうなんだ。それで城中が大騒ぎになってしまっていたんだよ」

「なるほど」

「陛下に御説明したんだが、信じてもらえなくてね。それでここに御連れした」

「そうでしたか」

 陛下は気を取り直したようだ。

「この船の大きさは?」

「わかりやすいように城と比較してみましょう」

 船の下に城の全景が現れた。

「な、なんじゃ、この大きさは」

「直径52mです」

「52!? パオロが城の上空にいる、と言っていたが、見えなかったぞ」

「そういう技術を使っております。これなら誰にも気付かれません。ただし、雨が降りますと、傘をさした状態となりますので、上空に何かがある、と思われるでしょう」

「どうやって浮いておる?」

「反重力装置というものがあり、それで浮いております。重力に逆らう技術でございます」

「重力に? パオロ、それもふつうなのか?」

「はい。陛下から見れば、この船は魔法でできているようなものでしょう」

「そうだ、魔法の船だ」

 彼女は、黙った。

 言葉を失ったのではなく、考えているのだ。

 それから顔を上げた。

「惑星〈スータン〉を見たい。地図ではなく、宇宙から見た〈スータン〉だ」

 船と城が消え、〈スータン〉が浮かび上がった。

 それからまわりも宇宙空間になった。

「こちらが、宇宙から見た〈スータン〉でございます」

 〈スータン〉を見やる陛下は、声にならない声を発した。「美しい」

「はい、陛下。惑星〈スータン〉はとても美しい星です」

 陛下は、しばらく惑星〈スータン〉のゆっくりとまわる姿を見つめていた。

 〈スベルト王国〉が何度か視界に入る。

「〈スベルト〉は……充分に……広いか?」

 アルは、答えない。

 オレが答える。

「今の人口であれば。しかし、〈スベルト〉が領土を広げていけば、人口も増えますし、上からも落とされてまいります。子どもも生まれてまいりますので、決して充分とは言えますまい」

 陛下はうなずく。

「そうだな。……パオロ」

「はい、陛下」

「この船で、提示されたポイントを見てきた、と言ったな」

「はい」

「どのようなようすであった?」

「見ていただいた方がわかりやすいでしょう」

 アルに部屋を明るくさせ、陛下をシートのひとつに座らせる。

 それから1ヵ所ずつ、ポイントのようすを御見せしていった。

 やはり興味を引かれたのは、文明化した〈ベルリナール〉と女性たちだけの村だった。

 特に女性たちの村だ。

「今すぐに行きたい」と申される陛下。

「陛下、公務が待っておりますぞ」

「むむ」

 忘れていたようだ。

 腕を組み、考え込む陛下。

「それに今あちらは夜でございます。これから行っては、彼女たちに失礼では?」

「なるほど。それもそうだ。失礼なことはできんな。では、今夜ならどうだ?」

「かまいませんが、スケジュールの方はよろしいので?」

「特にない。それに自分の時間は何に使ってもいいことになっておる。外出はできんがな」と苦笑する。

「なるほど。アル、いいかね?」

「いつでも」

 陛下とともに探査船から陛下の部屋へと戻った。

「パオロ」

「はい、陛下」

「この瞬間移動も、あの船の能力なのか?」

 どう答えよう?

 正直な答えの方がいい。

 下手な言い訳は見苦しいからな。

「いいえ、陛下。さすがの魔法の船でもこうしたことはできません」

「では、おまえ自身の力か?」

 オレは思わず笑ってしまった。

「失礼。私にもささやかな力はございますが、こうした瞬間移動となると」と首を振る。「これは、人に依頼をして、行なっております」

「人に依頼して? つまり、その人物の力というのか?」

「はい。“超能力”という言葉をご存知でしょうか?」

「うむ。なんでも、ふつうの人間にはない力らしいな」

「はい。いくつかございますが、瞬間移動はそのひとつです」

「そうか。それは私でも依頼することはできるのか?」

「残念ながら、陛下が直接、依頼することはできません。意思の疎通が必要なのです」

「意思の疎通? どうやるのだ?」

「それもまた超能力のひとつでございます」

「つまり、私には無理だ、というのか」と残念そうに肩を落とした。

「残念ながら」

 もちろん、陛下に以心伝心の術を伝授すればいいだけだが、やめた方がいい。

 陛下はオレを見た。

「だが、おまえなら可能なのだな。依頼したらやってくれるか?」

「場合によります。便利に使われては困りますので。瞬間移動を使う人間は、それなりの体力を消耗するのです」

「ああ、そういうことか。では、緊急時のみ、ということでならいいか?」

「かしこまりました。それと超能力のこともあの船のことも御内密に願います。SXEとロボットについても。陛下なら御分かりいただけるものと思いますが」

「そうだな。まぁ、超能力のこともあの船のことも、誰に言っても信じはすまい。SXEとロボットについては、私が知りすぎていてもおかしいしな。わかった。秘密は守る」

「お願いいたします」

「それからあの女性たちのために用意したいものがある」

「なんでしょう?」


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