【124.騒ぎ1】
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オレは、早朝、森林公園で降ろされ、城に向かった。
城門で身分証明をしようとすると「モーガン卿!」と門番に叫ばれた。
別の門番が電話で通報する。
「なんだね?」と最初の門番に問う。
「なんだね、じゃありませんよ! あなたがいなくなったと城中が大騒ぎだったんですよ!」
「なぜだね? 休暇申請は出したんだが」
「モーガン卿、あなたには、追跡装置が」
そこまで聞いて、オレは額を手で叩いた。
忘れてた。
渡り竜型の追跡装置がいたんだっけ。
あの探査船に乗り込んだ途端に、オレの姿が隠されてしまったのだ、騒ぎになって当然だった。
警備員ふたりが左右につき、城内を歩く。
知った顔が、“ご無事でしたか”と安堵の顔を見せてくれる。
途中で、室長が待っていた。
「パオロ」と心配そうな顔だ。「無事?」
「ご心配をおかけしてしまったようですね。ええ、ケガひとつしていませんよ」
「よかった。どこに行ってたの? 追跡装置からどうやって?」
困ったな。
どう説明すればいいのだろう?
だが、答える前に彼女が続けてくれた。
「とにかく、女王陛下がお待ちよ。彼女も心配していたんだから」
陛下はパジャマにガウンを羽織って立っていた。
そこは初めて訪れる陛下の私室だった。
「パオロ! 心配したぞ!」
オレは、片ヒザをつき、頭を垂れた。
「御心配をおかけいたしました、陛下。バカな行動をしたと深く反省しております」
「そうだ。なぜ爵位を与えたと思っておる? 我々は公僕なのだぞ。それをわからせるための爵位なのだ。それをおまえときたら」
「ああ、陛下、御許しを。陛下の深い御考えを、わたくし、思いもよりませんでした」
「今後は、こういうことがないようにせよ」
「はは」
「それでどこに行っていたのだ? 説明せよ」
「それは……」
オレは、まわりにいる人々を見た。
「なんだ? 人払いせねばならぬのか?」
「できましたら」
「みな、下がれ。パオロとふたりきりにするのだ」
警備も室長も秘書も、陛下の部屋を出ていった。
ドアが閉まる。
陛下は、ベッドの縁に腰を降ろした。
「それで?」
「とある国と接触を」
「何? またか?」
「はぁ。その国の名前は明かすことができません。御許しを」
「秘密主義か。それで?」
「はい。彼らは、我々の知らない着陸ポイントを示してきました。全部で7ヵ所」
「まだあったか」
「はい。おそらくそれで最後でしょう。ほとんどが〈スベルト〉と〈ラクロア〉から離れたポイントです。村を形成している程度でした」
「画像を見たのか?」
「はい、見せられました。実際に話を聞きにも行きました」
「何? 行った? どうやって? おまえが失踪したのは3日間だ。それでそんな遠くまで行けるはずがない」
「それが……その国の乗り物であれば、たやすいことなのです」
「それが本当ならば、我々よりも優れた技術を持っている、ということになる。信じられんな」
「はぁ」
オレは、どう説明すれば陛下にわかってもらえるだろうか、と思案した。
「ならば、実物を見ていただくしかありませんね」
「そうだな」
思念を探査船に向けた。
探査船には、オレ専用の部屋を用意してもらい、現在の状況をディスプレイに表示させ、それを遠見の術で見られるようにしていた。
そのディスプレイには、現在位置が表示されていた。
「上空にいるようです」
「上空?」
陛下は立ち上がり、窓辺に行くと、窓を開け、上空を見上げた。
しばらくあちこちに顔を向けて、探した挙句、こちらを見た。
「何も見えんぞ」と両腕を組む。騙された、と思っておいでのようだ。
「見えない船なのです。そういう技術で船を覆っているので」
「信じられんな」
「当然でしょうね。では、陛下、目をつぶっていただけますか?」
「目を? 何をするつもりだ?」
「証拠を御目にかけます」
「証拠だと?」
「はい。それをごらんになれば、信じていただけるかと」
「目をつぶってしまっては、何も見えんぞ」と屁理屈を言う。
「まぁまぁ」
陛下は、渋々、目を閉じた。
オレは、〈マニ教〉の師父に念を送って、物送りを依頼した。
次の瞬間には、探査船の部屋にいた。
「陛下、目を御開きください」
「うむ」
目を開いた陛下は、思わずあとずさった。
それから首を振って、左右を見る。
「な、なんじゃ?」
「船の中に移っていただきました」
開いたままのドアの向こうから、通路を走ってくる音が聞こえてきた。アルだ。
きっと船の人工脳髄が、来客を彼に知らせたのだろう。
ドア前に立つより早く、片ヒザをつき、右手を胸に当て、頭を垂れる。
来客が誰なのかを知っていたか。
「女王陛下、ようこそ、我らの船に」
部屋のようすに驚いていた陛下は、アルのその態度に女王らしい態度を示そうと、背を伸ばし、表情を固めた。
「顔を上げよ」
「はは」とアルが顔を上げる。
「そなたは?」
「この船の乗組員で、R・アルバート・SXEと申します、陛下」
「R?」
「Rとは」とオレが説明する。「ロボットの略です、陛下。彼はロボットなのです」
「冗談を言うな、パオロ。彼はどう見ても人間だ」
「冗談ではございません。“SXE”という言葉を、どなたかが言うのを耳にしたことは?」
「“SXE”?」しばらく思い出そうとする陛下。「思い出した。確かに聞いたことがある。確かロボットの会社だと聞いたが」
「そのとおりでございます。その会社はロボットの製造・販売・修理を行なっております。彼はその会社の製品でして、製品としては最上級のロボットとなります」
「アルバートとやら、本当のことか?」
「本当でございます、陛下」と笑みを浮かべる。
「なんと。余は信じられぬ」
「でしょうね」とオレ。「ですが、本当のことでございます。船を案内してもらいましょう」
「うむ」
アルが先に立って、陛下を案内していく。
「変わった通路だな。船といったらほとんどまっすぐなのに」
「この船は、もともとが変わっております」
「どんな風に?」
コントロールルームに来た。
そこでアルが、陛下に向けて、左手を出して、腰を曲げる。
左手の上にホロ画像が現れる。
「これがこの船でございます」
オレも初めて見た。
それは、ドーナツを同じ直径の皿でサンドイッチしたような形状。
「まさかであろう?」
「いいえ」
「これで海を行くのか?」
「この船は、空中も海中も行くことができます。宇宙にも出られますが、この惑星は封鎖されておりますので出ることは叶いません」
「そんな万能な乗り物があるはずがない」
「いいえ、陛下」とオレ。「ほかの惑星ではこうした船は少なくありません。ふつうのことなのです」
「なんと」陛下は言葉を失ってしまう。
「すまんね、アル。私がミスしてしまった。私には、追跡装置がつけられていたんだ。発信機とカメラ映像で追跡するんだが」
「そうでしたか。では、この船に乗り込んだことで、発信機の電波もカメラも、あなたを追えなくなったんですね」
「そうなんだ。それで城中が大騒ぎになってしまっていたんだよ」
「なるほど」
「陛下に御説明したんだが、信じてもらえなくてね。それでここに御連れした」
「そうでしたか」
陛下は気を取り直したようだ。
「この船の大きさは?」
「わかりやすいように城と比較してみましょう」
船の下に城の全景が現れた。
「な、なんじゃ、この大きさは」
「直径52mです」
「52!? パオロが城の上空にいる、と言っていたが、見えなかったぞ」
「そういう技術を使っております。これなら誰にも気付かれません。ただし、雨が降りますと、傘をさした状態となりますので、上空に何かがある、と思われるでしょう」
「どうやって浮いておる?」
「反重力装置というものがあり、それで浮いております。重力に逆らう技術でございます」
「重力に? パオロ、それもふつうなのか?」
「はい。陛下から見れば、この船は魔法でできているようなものでしょう」
「そうだ、魔法の船だ」
彼女は、黙った。
言葉を失ったのではなく、考えているのだ。
それから顔を上げた。
「惑星〈スータン〉を見たい。地図ではなく、宇宙から見た〈スータン〉だ」
船と城が消え、〈スータン〉が浮かび上がった。
それからまわりも宇宙空間になった。
「こちらが、宇宙から見た〈スータン〉でございます」
〈スータン〉を見やる陛下は、声にならない声を発した。「美しい」
「はい、陛下。惑星〈スータン〉はとても美しい星です」
陛下は、しばらく惑星〈スータン〉のゆっくりとまわる姿を見つめていた。
〈スベルト王国〉が何度か視界に入る。
「〈スベルト〉は……充分に……広いか?」
アルは、答えない。
オレが答える。
「今の人口であれば。しかし、〈スベルト〉が領土を広げていけば、人口も増えますし、上からも落とされてまいります。子どもも生まれてまいりますので、決して充分とは言えますまい」
陛下はうなずく。
「そうだな。……パオロ」
「はい、陛下」
「この船で、提示されたポイントを見てきた、と言ったな」
「はい」
「どのようなようすであった?」
「見ていただいた方がわかりやすいでしょう」
アルに部屋を明るくさせ、陛下をシートのひとつに座らせる。
それから1ヵ所ずつ、ポイントのようすを御見せしていった。
やはり興味を引かれたのは、文明化した〈ベルリナール〉と女性たちだけの村だった。
特に女性たちの村だ。
「今すぐに行きたい」と申される陛下。
「陛下、公務が待っておりますぞ」
「むむ」
忘れていたようだ。
腕を組み、考え込む陛下。
「それに今あちらは夜でございます。これから行っては、彼女たちに失礼では?」
「なるほど。それもそうだ。失礼なことはできんな。では、今夜ならどうだ?」
「かまいませんが、スケジュールの方はよろしいので?」
「特にない。それに自分の時間は何に使ってもいいことになっておる。外出はできんがな」と苦笑する。
「なるほど。アル、いいかね?」
「いつでも」
陛下とともに探査船から陛下の部屋へと戻った。
「パオロ」
「はい、陛下」
「この瞬間移動も、あの船の能力なのか?」
どう答えよう?
正直な答えの方がいい。
下手な言い訳は見苦しいからな。
「いいえ、陛下。さすがの魔法の船でもこうしたことはできません」
「では、おまえ自身の力か?」
オレは思わず笑ってしまった。
「失礼。私にもささやかな力はございますが、こうした瞬間移動となると」と首を振る。「これは、人に依頼をして、行なっております」
「人に依頼して? つまり、その人物の力というのか?」
「はい。“超能力”という言葉をご存知でしょうか?」
「うむ。なんでも、ふつうの人間にはない力らしいな」
「はい。いくつかございますが、瞬間移動はそのひとつです」
「そうか。それは私でも依頼することはできるのか?」
「残念ながら、陛下が直接、依頼することはできません。意思の疎通が必要なのです」
「意思の疎通? どうやるのだ?」
「それもまた超能力のひとつでございます」
「つまり、私には無理だ、というのか」と残念そうに肩を落とした。
「残念ながら」
もちろん、陛下に以心伝心の術を伝授すればいいだけだが、やめた方がいい。
陛下はオレを見た。
「だが、おまえなら可能なのだな。依頼したらやってくれるか?」
「場合によります。便利に使われては困りますので。瞬間移動を使う人間は、それなりの体力を消耗するのです」
「ああ、そういうことか。では、緊急時のみ、ということでならいいか?」
「かしこまりました。それと超能力のこともあの船のことも御内密に願います。SXEとロボットについても。陛下なら御分かりいただけるものと思いますが」
「そうだな。まぁ、超能力のこともあの船のことも、誰に言っても信じはすまい。SXEとロボットについては、私が知りすぎていてもおかしいしな。わかった。秘密は守る」
「お願いいたします」
「それからあの女性たちのために用意したいものがある」
「なんでしょう?」
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